次の目的地
魔力の子たちを保護してから三月が経った。
今、彼らは、エルフの里の住人たちから、生活魔法を始めとする勉学を学びつつ、里にある牧羊場、チーズ工房、養蜂場の手伝いにも率先して参加している。
長く、手足を失っていたことで心を病んでいた子供たちも、一日中ベッドの上で過ごすようなことはなくなり、体も心も回復した仲間たちに連れられ、森や川を散策するようになっていた。
「そろそろ、かしらね……」
「そうだね」
暖かな日差しと心地よい風の中で、元気に遊び、学ぶ彼らを見ながら、僕とコーラは、ここを離れる決意を固めた。
「とりあえず、まだ行ったことのないサマーンに行ってみる?」
「そうねぇ……何か良い情報があるといいのだけれど」
僕個人の元の世界に帰るための術式構築は、続けるとして、僕ら以外の異世界転移者や旅行者に会って、帰還のヒントになり得る情報を掴みたいところだ。
―――――
「皆さんの耳に入れておきたいことがあります」
その日の昼食後、竜のイオが、何やら真剣な面持ちで話し始めた。
ここ最近、イオは、魔力の子たちへの魔法授業をルートさんと長、里のエルフたちに引き継いで、里を空けることが多かった。
それを僕たちは、ドライアドのアドと一緒に里の外を見て回っていると聞いていた。
ちなみに今、ノアくんと長は、魔力の子たちの家で、食事を摂っていて、席を外している。
つまり、ここにいるのは異世界転移組である、ウィンリィとルートさん、僕とコーラ……そして、娘のアプリだけだ。
食器を洗っていたコーラとアプリが席につくのを見届けて、イオは先を話し出した。
「ウィンターンの隣にある廃国跡地周辺で、異世界から来たと思しき人間がうろついているのをアドが見つけました」
「思しき……って、どんな様相の人なの?」
「この世界では見かけない変わった服装をしている男です。アド本人に幻覚魔法で再現させたかったのですが、さすがに酷使し過ぎたのか、活動限界を超えてしまいまして……」
イオが、ポケットから手のひらサイズの包みを取り出し、開く。出てきたのは、花の蕾だ。
「これがアドです」
「えっ!?」
「休眠状態に入ると、花の蕾に姿を変えるのですよ」
「だ、大丈夫? またあの姿で動く……よね??」
僕は、妖精のような見た目から掛け離れたその姿に心配になり、問いただす。
イオは、ふっと笑い、蕾を撫でつつ応えた。
「ええ。どのくらいで目覚めるかは分かりませんが、元に戻りますよ。それにしても、こんなになるまで働くなんて、驚きました。よほど、サムたちのことが気に入ったのでしょうね」
へ? 気に入られるようなことをした覚えがないんだけど……
「気に入られてたとしても、サムだけなんじゃないかな? 僕もコーラもあんまり関わっていないし、リィとアプリはなんだか避けられていたみたいだしね」
アプリとウィンリィは、初対面で、食べられるかどうかの話をしていたからだろうなあと僕は思う。
あの時、アドは眠っていたけれど、聞こえていたのだろう。
しかし、僕も、コンソメスープをあげたり、クッキーをあげたり、パンをあげたり、ジュースをあげたり……しただけなんだけどな。
「ところで、イオは、幻覚見たんだよね?」
「ルート、ええ、見ましたよ」
「なら、僕が読むよ。その人物を思い出してみてくれる?」
言われてすぐにイオが目を瞑り、ルートさんが「へぇ……」と感嘆の声を上げた。
「紛れもなく、異世界……というか、僕らの世界から来た人間だね。しかも――」
ルートさんの黒曜石の瞳が鋭く光り、僕は、固唾を飲んで、次の言葉を待った。
「第三国の人間だ。それも、相当、魔力の高い、ね」
「ほっ、ほんとですか!?」
僕らが、この世界に飛ばされた元凶である第三国の高魔力砲――その動力源も、三国の高魔力保持者である可能性が高い。
「間違いないね。スーツ姿なんだけど、肩に三国の腕章が付いてる。旅行者か転移者かの違いは分からないけれど、三国の人間であることは確かだよ」
「やった!」
思わずガッツポーズしてしまうほどの朗報だ!
その人に協力してもらい、帰還に必要な魔力を補えれば、帰れる確率はぐっと上がる!
しかし、喜ぶ僕の傍らで、ウィンリィは俯き、複雑そうな顔をしていた。
アプリが心配そうな顔で、彼女を見つめると、視線に気付いたウィンリィが重たそうに口を開く。
「三国か……僕、彼らとのライン戦線で、やんちゃしちゃったから、顔合わせづらいな……」
「あはは、仕方ないよ、それはきっとお互い様だし、僕と君もさ、敵国同士だったけど、今は仲良くやっているじゃない?」
ルートさんの言う通りなのだが、ウィンリィの顔は晴れることなく、尚も言いづらそうに口を開いた。
「僕ね……三国の国境壁手前にあった国防用の魔獣発生装置を、手前のライン戦線用の発生装置ごと全部吹きばしちゃったんだ……魔法弾で」
第三国の魔獣発生装置の数は、母の時代だと、ライン上に少なくとも、100機は配備されていたと聞く。
それを魔法弾一発で全機吹き飛ばしたとなると……まあ、とんでもない話ではあるが。
「大丈夫だよ、ウィンリィ。僕とコーラの時代には全機復活していたし、その三国の人が君と同じ時代から来ているとも限らないんだしさ」
そう、三国は、魔法と機械の組み合わせに長けた国だ。その技術は高く、修復スピードも異常に早い。
もしかしたら、テレポート魔法の応用で修復を早めていたのかもしれないが、三国の人に聞いてみないことには謎のままだ。
「なら、大丈夫かなあ……よし、決めた! 僕、その人に会っても、"僕はやってません"ってシラをきるよ!」
「そうね、それがいいわ」
「はは……」
いいわけないけど、下手に波風立てない方が良いと思ったので、僕は余計なことは言わなかった。
それにおそらく、ウィンリィは人的被害を出していないはず。
第三国は、魔導士を滅多に戦地に投入せず、魔獣発生装置と高魔力砲を主軸に戦争をしている国だ。
魔獣発生装置を全機無くしたとしても、まだ高魔力砲も残っていただろうし、何より、高魔力砲で、二国一の魔法少女を戦線から異世界へ離脱させたのだ。
おまけに、第一国の筆頭魔導士も飛ばせて、万々歳なのではなかろうか?
「ともかく急いだ方が良いかもしれませんね。もし、異世界旅行者だった場合、サムたち転移者と違って、長居はできないようですから」
「それ、ウィンターンの国境受付のお姉さんも似たようなことを言っていたんだけれど、なぜなのかな?」
「今までの旅行者の目撃談からすると、どうやら彼ら、この世界の空気がとても薄く感じるそうですよ。それで、長居しないのだとか」
空気が薄い? そういえば、三国の国民も、自国の結界の外で長時間の活動が出来ないと聞いたことがある。だからこそ、兵器開発に力を入れてきたのだとも。
「ま、三国の事情は置いといて、行くなら急いだ方が良さそうだね」
「そうですね……アプリ、子供たちの生活も軌道に乗ったことだし、行ってもいいかな?」
それまで、黙って僕らの話を聞いていた娘に顔を向ける。するとアプリは、力強く頷いて見せた。
「うん、私も行く。今度はサムとコーラの助けになりたい」
「もちろん、僕も行くよ。リィは初めからそのつもりみたいだし?」
「うん! 探査魔法は使えないけど、気配で魔物察知するのは得意だし、廃墟探索って瓦礫どけたりするよね? 僕、力持ちだからね! 任せて!」
僕らの助けになりたいなんて、嬉しいことを言ってくれるアプリと、やる気満々のウィンリィに僕とコーラは嬉しくて、微笑み合う。
ルートさんは、まあ、うん、強いから有難いかな。
「ふふ、あなた、頼もしいわね」
「うん。みんな、ありがとう!」
こうして、僕らの次の目的地は、ウィンターンの隣にある廃国跡地に決まったのだった。
「面白かった!」
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