第2章 竜の集落とその運命(さだめ)第6話 同郷の手掛かりと魔力の正体
あの後、シルバーとカイ達で今後の詰めを確認し合い、竜と大地が産む瘴気は、風魔法で天高く上空に吹き上げることとなった。
「大気圏まで吹き上げれば、そこにいる大気の男神が浄化してくれよう」
「神様がいるんですね。他には、どんな神様がいるのですか?」
カイとイオが僕らと同じ親目線を持つ者と認識してからは、だいぶ話しかけやすくなり、僕は遠慮なく質問をする。
「お前たちの言葉と概念で理解できる神ならば、大地の女神だな」
「後は、神に準ずる精霊達がいます。神殿などで、人間達が祀っているのは主にこの精霊達ですね」
グレイから竜を信仰する宗教があるとは聞いていたが、精霊信仰もあるのか。
ひとしきり聞きたいことを聞かせてもらい、シルバーが入れてくれたお代わりの薬草茶を飲む。
カイとイオも水分は取るらしく、薬草茶に不思議そうな顔で口を付けていた。
「サムとコーラは、異世界人とのことだが、これから先はどうするつもりなのだ?」
「とりあえずは、他の異世界人……旅行者の方の情報を探しに行こうと思っています」
「ふむ。ならば、先ずはオータンに向かうといい。ここ半年の間だったか、異世界人の気配を感じたからな」
な、なんと!この村に来て、獣人と竜の問題に何故か首を突っ込んで、この世界のことが知れたら大収穫だと思っていたのに、一番欲しかった情報を貰えだぞ!?
「そ、それは教えて下さって有難うございます! コーラ、次の行く先はオータンだ! 異世界人がいるって!」
喜びのあまり、アプリとノアと共に遊んでいた妻に声をかけた。
今、3人は声を発することに慣れていないアプリのために、しりとりでリハビリを試みている。
「ゴリラ! 次はラよ、アプリ。え? サム、オータンてどこかしら? 聞いたことのあるような名前だけれど?」
僕はグレイに目を移し、
「グレイが出会った時に言っていた、人ばかりの国だよね?」
「ええ、そうです。元々、この地方には獣人も亜人もあまり住んでいなかったので、オータンは人族のみの国家なんです」
なるほど。
獣人の国家がここに建国されたのは、竜の集落があり、人が寄りつかない土地というだけではなさそうだ。
人間に奴隷にされて来た獣人たちが隣人にするには、獣人を奴隷にしていない人間のみの国家は最適だったのではないだろうか。
「カイ、しかもその異世界人とサム達は、同じ世界の人間じゃないかしら」
「ああ、そうだな。確かに、その通りだ」
な、何だって!?
「そ、それは、どうして僕たちと同じ世界からと分かるのですか?」
「お主らのように、体内に魔力生成器官を持つ人間など、この世界はおろか、異世界旅行者の中にも、おらぬからだ。間違いようがない」
それは僕らにとって、当たり前のことだった。
「えっ?」
グレイが間の抜けた声を上げる。
何となく、違和感はあった。アプリの溢れる魔力……僕らの世界ではあり得ないことなのだ。
元の世界での魔力は、体内にあらかじめ設定された己の容量以上のものは、生み出せない仕組みである。
「……この世界では、違うのですか?」
「ああ。この星が産み続けるエネルギー、それが魔力だ。我々は持ちうる容量に見合った魔力をこの星から得ている。自ら産み出すことは出来ん」
なんて事だ。魔力の元出から違うとは。
コーラもさぞかし驚いているだろうと、目をやる。
しりとりは終わったのか、アプリと2人、ソファで眠りこけている妻の姿。
優しいノア少年は、2人にタオルケットをかけてやっているところだ。
この世界に来てから、ずっとハードで目まぐるしい日々だったからなあ……そっとしておいて、後で話そう。
―――――
またグレイの家に戻った僕とコーラは、次の目的地に向けて、旅立つ準備を始めていた。
そこにアプリとイオが尋ねて来る。
「サムさん、コーラさん、アプリがお二人に話があるそうです。聞いてやってくれませんか?」
何だか、浮かない顔のグレイに言われて、2人の待つリビングへ足を運ぶ。
すると、開口一番、アプリが話し出した。
「……サム、コーラ、私も2人の旅に連れて行って下さい」
ぺこりとお辞儀をする彼女に、顔を見合わせる僕ら夫婦。
「アプリ、とても危険よ? 何が起こるか私たちにも分からない。でも、いつも人のためを思って行動するあなたのことだわ。何か理由があるのでしょう?」
確かに、アプリはまだ4歳だけれど、周りを気遣い、行動する思慮のある子供だ。
「……この腕輪、私、他の『魔力の子』にも付けてあげたい」
はっとする僕とコーラ。
「……サム達が元の世界に帰るまででいいから、一緒に付いて行って『魔力の子』を探したい」
アプリはまだ喋り慣れない声を懸命に張っている。
「……私の魔力も、サムなら上手く魔法に役立てるって、カイもアルも、言ってたよ。
……だからお願い。頑張って役に立つから、私も連れて行って下さい」
「この前、瘴気を都度、上空に吹き上げる仕組みをサムと私たちで作ったじゃないですか。
というか、ほとんどサムが完成させましたよね?あれほど上手く魔力を使って、複雑な魔法式を短時間で組み立てるなんて所業は、他の集落の始祖竜にも出来ませんよ」
すっかり砕けたイオの言葉に、しかし、僕は眉を顰める。
確かに作った。けど、細かい調整を補助しただけだ。外殻はカイとアルが最初から用意してくれていたし……買い被りすぎだ。
「あの、でも」
「そうねえ。確かにこの人なら、アプリの旅のお供にうってつけね」
僕の言葉を遮ったコーラは、アプリをひょいと持ち上げて抱っこし、目を合わせると、優しい母の顔で話しかける。
「アプリ、自分と同じ境遇の子の助けになりたいのね? 立派だわ。可愛い子供の成長に、大人は寄り添うべきよね? サム?」
ええ……コーラが本気だ。娘の育児方針でも、こうなった妻はテコでも自分の意見を曲げることはない。
「……し、心配じゃない? こんな、可愛い子を」
「あなた、オプシーを引き取ろうかどうかの話の時も、『有力な魔法少女候補を2人も育てるなんて、いずれ戦地に出さなくちゃいけないのに、心配で心が砕け散るよ』とか腑抜けたこと言って、拒否したわよね?」
オプシーというのは、僕らの後輩魔法少年レクスの遺児で、うちのウィンディの幼馴染である。
「……言ったけど、だって、そうじゃない? 男の子なら、まだしも……」
「私、あなたより戦闘力はあるわよね? 女だけど、強いわよね? 子供の頃から」
「……はい」
「なら、文句ないわよね? アプリだって、高魔力保持者よ? これから強くなるし、そう育てるわ」
「コーラ……もしかして、アプリを引き取るつもりなの?」
僕は分かりきったことを聞く。踏み止まってくれないかなと一縷の望みを託して。
「あら、それいいわねえ。でも、アプリにとってシルバーとノアが一番大切な家族だと思うから、私たちは予備の親ってことでいいんじゃないかしら? ね、アプリ?」
「……うん。2人の娘、予備になるよ、私」
ア、アプリまで、乗り気とは……
「ふふ、サムさん、もう逆らえないんじゃないですか?」
「往生際が悪いですね、サム。ほら、もう腕輪20個ほど作って持ってきてありますから、アイテムボックス出して下さい。入れておきますよ」
何だそれは! 元々、僕に拒否権などないかのように!
「……分かりました。アプリのことは責任持って保護しつつ、目的達成のための協力も惜しみません」
「そうと決まれば、アプリ、いろいろ準備しなきゃね。持って行きたいものはいくらでも言うのよ? お父さん、アイテムボックスだけは容量大きいから」
「だけはって、酷い」
これは、僕が中々うんと言わなかったことを少し怒っているな……後で機嫌を取らねば。
この時、和やかな雰囲気でアプリの旅立ちについて語る彼らを見ながら、ノア少年のことを考えていた。
彼はアプリと別れて平気なのだろうか?
あんなに彼女のことを思っているのに……と。




