コーラルフラワーとコーラルベル③
コーラの職性魔法は、ルベルの父親であるアベル先生と同じだった。
そして、それは、ルベルが手に出来ると信じて疑わなかったもので――実際、それを手にできなかったルベルは、そのやり場のない思いを、容赦なくコーラにぶつけた。
「どうして! どうしてあなたなのよ!? ずるい! 私が娘なのに! なんで、なんで……私じゃないの? なんであなたが、刀なのよ!」
コーラとお揃いのチョコレート色のサイドテールを振り乱して、喚き散らすルベルを前に、コーラは自分で出した刀をただただ見つめていた。
「私だって――」
――剣が欲しかった
小さく消え入りそうな声で、コーラが呟く。
それは、隣にいた僕だけに届いた切ない願いだった。
僕は、コーラが刀を持っていない方の手を思わず握った。二人の手を、俯いたコーラからこぼれ落ちた涙が濡らす。
皮肉にも、ルベルが出したものは、剣だった。それは、コーラの亡くなったお母さんのものと同じ魔法。
でも、それを、コーラはみんなに聞こえる声で言わなかった。
ルベルは、こんなにもうるさいくらいに気持ちを叫ぶのに、コーラはそうしない。
いや、出来なかったんだ。
ルベルには、両親が揃っていて、コーラにはいなかったから。
僕は、たまらない気持ちになって、握るコーラの手にさらに力を込めた。
その手は、握り返されることはなかったけれど、振り解かれることもなく――
一人でも必死に立とうとしている気持ちと、誰かに頼りたいと思う気持ちがコーラの中に入り混じっているのではないかと僕は感じた。
この時、いつか握り返して貰えるようになりたいと、そのためには、たくさん頑張らないと駄目なんだと、僕は、努力し続ける決意を固めた。
コーラが頼りたいと思える男になるために。
―――――
ギィンっ!!
一際大きく響いた剣戟に、僕は思い出から、意識を目の前のコーラとフローガに戻した。
弾かれて、天高く舞ったその剣は、クルクルと回転して、ザクっ! と地面に突き立つ。
「ふっ、見事だ、コーラ。俺の負けだよ」
フローガは、そう言って、引き抜いた剣を鞘に戻し、コーラも、ショコラさんに鍛えてもらったウルツ鋼製の剣をアイテムボックスに仕舞い込んだ。
「フローガ、あなたの指導を受けることが出来たこと、本当に感謝しているわ。これからも、手合わせ、お願いしてもいいかしら?」
「もちろん、いつでもおいで? 可愛いコーラ」
フローガは、エメラルドグリーンの瞳を細めて、そう告げると、赤い髪を靡かせて家の中へと戻って行った。
人の妻に、"可愛い"だなんて、夫の目の前で宣う軽口には、多少苛立ちを感じたが、それ以上に僕には気になることがあった。
コーラの剣への未練は、果たして、これで昇華されたのかと。
「コーラ……」
「サム、今日、来てもらえて良かったわ。見ててくれて、有難う」
微笑む妻の顔は、すっきりしていて、彼女の中で一区切り付いたのだと僕は確信した。
「いや、僕も見たかったからさ。ずっと、気に掛かっていたから。……それで、コーラ、今、どんな気持ち?」
聞かなくても分かることをあえて聞く。
声に出すことで、この区切りはきっと明確に彼女の心を明るくすると思ったから。
「ふふ、もっと早くこうしていたら良かったと思ったわ。私も、ルベルも……職性魔法に縛られ過ぎていたわね」
僕を見て、天を仰いだコーラの顔は、澄み渡る空と同じくとても晴れやかで、美しかった。
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