コーラルフラワーとコーラルベル②
コーラたちと生活を共にして、ひと月が過ぎた頃、軍の魔導士訓練が始まった。
大広間に集められた大勢の訓練生たちの中を、真っ直ぐ僕ら四人目掛けて向かって来る女の子。
赤いリボンで結んだツインテールを揺らすシルエットは、遠目でもルベルだと分かり、僕はげんなりとした気持ちで彼女を迎えた。
「サム、なんでアンタがコーラと同じチームなのよ!?」
「はあ? 知らないよ、大人が決めたことなんだから……」
僕の時代は、四人一組のチームに一人担当の魔導士教官がつくシステムだったのだが、その四人は、チームごとの魔力量に偏りがないように大人が考えたものだった。
「コーラは、私の従姉妹で、パパの姪なんだから、私とパパのチームになるべきだったのに! アンタの魔力量がしょぼいせいよ! サム!」
「……」
この時すでに、コーラとオーレンは、上級魔導士並みの魔力量で、アニは文句なしの高魔力保持者。
対して、僕は平均以下の魔力量で、今期の訓練生の中では、下位も下位だった。
コーラたち三人は、そんな落ちこぼれの僕をフォローするために集められたと言っても過言ではなかったと思う。
知らないよと言いつつも、そうやって僕は冷静に理由を考察していたが、同じチームのアニとオーレンは怪訝そうな表情をルベルに向けていた。
二人とも優しいから、落ちこぼれとはいえ、同じチームの僕が罵倒されたのを快く思わなかったのだろう。
しかし僕は、感情的なルベルが難癖をつけてくるのは日常茶飯事だったので、彼女の苦言を適当に聞き流していた。
そんな中、コーラがふいに口を開く。
「あなたが、ルベルなのね……」
その瞬間、ずっと僕に向けて捲し立てていたルベルの口がぴたりと止まって、ついでに体も微動だにしなくなった。
「ルベル?」
訝しんだ僕が名を呼ぶと、ルベルは、はっとして――何故か僕を突き飛ばした。
ドタン! と音を立てて尻もちを付いた僕を、アニとオーレンが助け起こす。
「大丈夫?」
「大丈夫か?」
「いててて……アニ、オーレン……有難う」
流石にルベルに文句を言おうと顔を向けると、
「あっ、あの、んんっ、そうよ! 私がルベル! あなたの従姉妹よ! 初めまして! コーラ!」
何故か偉そうに名乗りを上げたルベルに呆気に取られ、文句も引っ込んでしまった。
「初めまして、ルベル。どうして、サムを突き飛ばしたの?」
「えっ?……そ、それは、その……昔から知ってるから! コイツには何したっていいの!」
「あなたにとって、どんなに気安い相手だとしても、突き飛ばすのはダメよ。謝って」
「え……」
困惑して目を白黒させるルベルに対し、コーラの表情は全く変わらない。
しかし、瞳には有無を言わさぬ凄みを湛えていた。
「ルベル」
「っ、ご、ごめん、サム」
「えっ!?」
この時、僕は生まれて初めて、ルベルのごめんを聞いた。
僕が遊んでいたおもちゃを横取りしたのを母親のチュラさんに叱られても、
僕の分のおやつを食べてしまったのを父親のアベル先生に注意されても、
僕にした理不尽の全てを謝ったことなどないルベルが、僕に謝る日が来るなんて、天地がひっくり返っても来ないと思っていたのに。
「ルベル、それで? どうしてサムを突き飛ばしたの?」
「あ、それは、その……て……」
「て?」
「あなたに……初めて会えて……照れ臭かったの。それで、その、誤魔化したくて、叩いちゃったのよ……」
謝るだけでなく、素直に理由を話したことにも驚き、僕は信じられない思いで、ルベルを見た。
目線を横に泳がせ、とてもバツの悪そうにしているその姿も、初めて見るもので、僕は更に驚く。
「……ルベル、私も、あなたに会えるのを楽しみにしていたわ……でも、二度と私を理由にサムに危害を加えないで」
「うっ……わ、分かったわ……」
ルベルの"叩いちゃった"に対し、それを"危害"と言い切ってくれたコーラを僕はカッコ良いと思ったし、庇ってくれたことが嬉しかった。
この日を境に、合同練習の時は、ルベルが常にコーラの隣に来るようになった。
コーラと孤児院時代からずっと一緒だったアニとも、普通に仲良くなっていて、僕は、ルベルが我儘を発揮するのは、どうやら僕の前でだけだったのだと思い知る。
「ほら、これで私とお揃いよ!」
ある日、ツインテールを結んでいた赤いリボンを一つ解いて、コーラのサイドテールに結んだルベルは、自分の髪型もお揃いのサイドテールにして、とても満足気だった。
「ありがとう」と応えたコーラの顔にも微かに笑みが浮かんでいて、この時の二人はまるで姉妹のようだと僕は思った。
しかし――
「なんで……なんで、あなたが……」
職性魔法を知る訓練で、コーラが初めて刀を生み出した日――二人の仲は、脆くも崩れ去ってしまう。




