母の事実②
「三国が乱入してきた?? それ、本当に?」
「本当だよ」
僕らの世界では、星が定めた順位が各国に振り分けられている。
僕とコーラ、ウィンリィの祖国は、第二国で、ルートさんの祖国は、第一国。
そして、そのどちらの国とも面している第三国。
この三つの国は、星の中でトップ3の軍事力を有しており、長い間、冷戦と戦争を繰り返してきた。
「教科書には、そんなこと書いてなかった」
「隠蔽したんだ。不都合な事実だったから」
僕は、ウィンリィの膝の上の調査書を手に取り、目当てのページを開いて見せた。
「っ! まっ、漫画だ!! 凄い! 絵、うま!」
「今はそれは置いといてね。この絵の通り、ヘリオスは、一国の魔道士との戦闘中に、三国から押し寄せた大量の魔獣に市街地まで押し込まれたんだ」
その後のページをパラパラと捲り、ウィンリィに見せていく。
漫画には、市民を守るべく、魔獣に応戦する第一国の魔道士たちと、それに助力する第二国の魔導士たちの姿があった。
「お母さん……市民を守ってる……」
「うん。敵国だからって、決して一般人を巻き込まなかったヘリオスと仲間たちを僕は誇りに思うよ。でも、魔獣だけじゃなかったんだ」
更にページを捲る。そこには、空を睨んで舞い上がったヘリオスと、ヘリオスが睨んだ先に光る僕らをこの世界に送った元凶……
「高魔力……砲……そんな……市街地に……」
第三国は、第一国の市街地へ高魔力砲を打った。
第一国の魔道士たちは、おびただしい数の魔獣の群勢から市民を避難させ、守るのに手一杯で、それに気付かなかった。
奇しくも、誰よりも早く気付いたのは、第二国最強の魔法少女だったのだ。
ウィンリィを泣かせてしまうかもしれないと思うと、次のページを捲る手が震えてしまう。
でも、これこそ、知らせなきゃいけない情報なので、意を決して次ページを捲った。
そのページを見て、ウィンリィの大きな桃色の瞳はどんどん見開かれていき、見たことのない大きさになる。
「……へリオスは、被害を最小限に抑えるために、落ちてくる高魔力砲に向かって飛び上がり――全魔力を放ったんだ。そして、市街地を直撃するはずだった高魔力砲は、空中で大爆発を起こして、ヘリオスと真下にあった軍病院のみが、爆発の被害を受けて消滅した」
本来なら、街一つ消滅させるだけの威力を持つ高魔力砲による被害を建物一つで済ませたヘリオスの功績は偉大だ。
それなのに、祖国はヘリオスを、市街地戦闘を仕掛けた張本人として、魔道士だけでなく市民の命を大量に奪った者として歴史に記している。
「……お母さん……」
「この軍病院には逃げ遅れた人がいて、その人たちは残念だけど、助からなかった。それでも、ヘリオスが身を犠牲にして迎撃しなかったら、街ごと消し飛んでいたはずなんだ。だから、ヘリオスは……」
「お母さんは、最善を尽くした……」
「そうだよ、だからヘリオスは」
悪くない、と僕は言えなかった。
泣くどころか、ウィンリィは唇を噛み締めて、見たことのない表情をしていたからだ。
「ウ、ウィンリィ?」
「お母さんのおかげで、たくさんの命が助かったんだとしても、死んでしまった人の家族にとっては、そんなの関係無いと思う」
それは、そうだ。それでも、ヘリオスが故意に仕掛けたわけじゃないし、命を賭して、多くの人間を救ったことに変わりはないと僕は思う。
そう言いたいのに、これでもかと眉を顰めて、苦しそうに本を見つめるウィンリィを前に、言葉が出てこない。
「……サム、このこと、インターに話した?」
「話してないよ。どうして?」
「インターには言わないで、お願い」
……それだと、ルートさんの知る歴史の中で、ヘリオスは悪者のままじゃないか。
「ルートさんは、大多数を助けるために犠牲者が出たことは仕方がないって言うと思うけど……」
「っ! じゃ、じゃあ、サムはもし、コーラが同じ目にあっても仕方なかったって思える!?」
「それは……」
「思えないよね!? 僕だって無理だよ。きっと憎むし、許さない……」
ぎり……と歯を食いしばる音が隣から聞こえた。
「……インターだって、きっとそうだよ……だから、お願い、黙っていて」
「……分かった」
そう答えるしか、僕には出来なかった。
「面白かった!」
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