アプリの秘密② 《アプリ視点》
「アプリ、今日もたくさん頑張ったのね」
服に付いた土をパンパンと軽く叩いてはらってくれる優しい母。
「アプリ、休日まで熱心なのは凄く偉いよ? けれどね、最近、みんなと遊ぶ時間帯まで修行してるじゃない? 僕はね、遊ぶ時間も大切だと思ってるんだ。特に子供のうちは、それはもう大切な時間なんだよ」
少し過保護だけど、やっぱり優しい父。
三人で手を繋いで森を歩く帰り道が私は大好きだし、繋いだ両手から伝わる温もりは何ものにも代え難いと思っている。
だけど、彼らの本当の娘――ウィンディのことを思うと、二人に愛されていることを手放しで喜ぶことは出来なかった。
出会った頃、コーラは私に、
『うちの子と同じ4歳児。可愛くて仕方ないわ』
と言っていた。
私が、ウィンディと同じ歳じゃなかったら、親代わりを引き受けてくれただろうか?
それを考えると、とても不安になるけれど、二人にこれ以上隠し事をしたくない。
「あのね……サム、コーラ……もし、もしも、私が16歳だったら、どうする?」
意を決して聞いてみる。だけど、怖くて二人の顔は見れなくて、地面を見つめながらになってしまった。
「……16歳!? そんなの、変な虫が付かないかめちゃくちゃ心配な年齢じゃないか! どうしよう……やっぱり、コーラと二人で片っ端から倒していくしかないかな」
予想していなかったサムの言葉に、私は驚いて隣を見上げた。
「あなた、全員倒してはダメよ。その中にアプリが気になる人がいる可能性は否定出来ないわ。それと、ノアくんもいるのだし」
「あっ、ノアくんは別だから安心してね、彼はアプリの大好きな男の子だものね!」
にっこりと微笑まれて、私は脱力しそうになり、脚に力を入れた。
「あなた、私もノアくんはアプリにとって特別だと思うわ? でも、未来はまだ分からないのよ?」
「ぐ……分かってるよ。でも、ノアくんならさ、僕らが出会う前からのアプリの大事な人だし、許せるかと思って」
「はあ……アプリ、ごめんなさいね? あなたのお父さん、ちょっとだけ過保護なの。ウィンディにも親しい男の子がいるんだけど、その子に対する当たりも酷いのよ。でも私は、あなたが認めた男の子なら、誰であっても祝福するわ。だから安心してね?」
二人の斜め上のやり取りに、私は悩んでいたことがおかしくなって、笑いを堪えられなくなり……
「ふふっ、あははっ、可笑しい……」
とうとう声を上げて笑ってしまった。
「?? そんなに笑うほど面白いことを僕ら言ったかな?」
「多分、面白いのはあなただけよ、サム」
ええ!? なんで!? とコーラに突っ込むサムに、私はまた吹き出してしまった。
「ふふっ、あはは……悩んでいたのに、悩まなくてもよかったのかな……」
「えっ? アプリ、何か悩んでたの!? お父さんに話しなさい! 溜め込むのは良くないよ!」
「大丈夫。もう解決したから……」
「ええ……本当?」
「うん、サム、あのね、私、サムとコーラが大好きだよ。二人の娘代理になれてね、凄く幸せなんだ」
サムとコーラは、顔を見合わせ、立ち止まると、私に向き直り――真剣味を帯びたキャラメル色の瞳と、優しさを宿した赤紫の瞳で、私を見つめた。
「もう代理じゃないよ。僕らは、アプリのことをウィンディと同じくらい大切に思ってるんだ」
「そうよ、アプリ」
きゅうっとコーラに抱きしめられた。夢の中の母と同じ温もりに、目が滲む。
「だからさ、いつか、お父さん、お母さんって呼んでくれたらなーなんて、はは……」
そんなの、今すぐにでも呼びたかった。
だけど、ウィンディにも悪い気がする。
サムとコーラがそれを望んでくれていても、ウィンディの権利を奪うようで恐れ多いと思ってしまう。
それでも――
「……サム、コーラ、いつか絶対に呼ぶよ。呼びたい」
「アプリ……うん。その日が楽しみだな」
「そうね。いつでも待っているわね、アプリ」
嬉しそうに微笑む二人を見て、私は決意した。二人が元の世界に帰るその時に一度だけ、呼ぼうと。
(ウィンディ……それなら、良いかな? たった一度だけだから……)
ウィンディの権利を奪うことにならないよね? と私は、会ったことのない姉妹に問いかけたのだった。




