アプリの秘密①《アプリ視点》
「じゃーん! 今日は唐揚げ弁当だよ! 何と生野菜抜き! お母さんには内緒だよ?」
「ありがとう……ございます……」
今日は土曜日。
魔力の子たちの魔法の授業は、土日休みなので、私はルートさんにお願いして、朝から自分の魔法修行を見てもらっていた。
午後からは、ノアの魔法修行を見ることになっているというので、このお弁当を食べたら、私だけ解散予定だ。
今朝揚げたという唐揚げは、時間が経っていても、ぱりっとしていて、噛むと鶏肉の汁がじゅわっと出てきて、ほっぺが落ちそうなくらい美味しい。
「お肉……やっぱりお肉が好きだな……」
「ふふ、それは良かった。僕も子供の頃は野菜が嫌いでさ、家族のお皿に勝手に乗せて、よく怒られてたよ」
立派な大人に見えるルートさんにもそんな子供時代があったのかと考えると、笑みが溢れた。
ルートさんの料理のお野菜が食べやすいのは、それが理由なのかなあと思いつつ、お弁当の角に鎮座する野菜の皮チップスに目を向ける。
野菜は苦手だけど、これは美味しく感じるのだ。
コーラとサムに教えてもらったお箸で、そのチップスを摘まみ、口に入れると、口の中でパリパリと小気味良い音を立てるのも楽しくて、好きだなあとしみじみ思った。
「ノアくんが来るまで時間があるからさ、少しお昼寝してから戻ったら?」
食べ終わると、ルートさんはそう言って、集めた葉っぱの上に大きな白いスカーフを敷き、私を手招いた。
先月、4歳から9歳の体に成長したのに、いまだ、お昼過ぎになると眠気が襲う。
師の言葉に甘えて、あつらえてもらったクッションの上で丸くなり、目を瞑りながら、この体のことを考えた。
こんなに眠いということは、また急成長するのかもと。
そう遠くない日に、本当の年齢である16歳の姿になってしまうかもしれないと。
みんなにまだ、話せていないのに。
考えながらも、眠気が強くて、すぐに眠りに落ちた。
夢の中で目覚めると、昔住んでいた家の近くの草原に寝転がっていた。
立ち上がり、辺りを見渡すと、懐かしい後ろ姿が目に入る。
自分と同じ白い髪のその人の背に手を伸ばすと、長い髪が揺れて、振り向いた。
その人と私は同じ赤の瞳を持っていたが、私のよりも吊り目がちで、睫毛も長く、母親代わりのコーラを連想させる目元だった。
「お母さん……」
「アプリ、おいで」
ふわりと抱きしめられると、懐かしい匂いでいっぱいになりポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「ごめんね」
どうして謝るのか分からなくて、言葉を返そうと口を開く。
しかし、そこで夢は終わり、目が覚めてしまった。
目を開けると、心配そうに覗き込んでいたルートさんと目が合う。
「アプリ、大丈夫?」
「ん、大丈夫、です」
起き上がり、目を肩口で拭こうとしたが、ルートさんがハンカチ代わりのスカーフを渡してきたので、それを使わせてもらった。
「ありがとう、ございます……」
「どういたしまして……アプリ、お母さんの夢を見ていたね?」
師は、読心魔法の使い手だ。それは、仲間全員の知るところであり、父親代わりのサムは、勝手に読まれる度に憤慨していたりするのだが……
「うん。最近……よく会いに来てくれる……」
私は、出会い頭に読んでもらったおかげで、名前を知ってもらえたり、過去を肯定してもらえたことがあったからか、読まれても何とも思わなかった。
「アプリのお母さん、吊り目系の美人でさ、ちょっとコーラに似てるよね」
「……ルートさんもそう思うんだ。私も同じこと考えてた」
コーラとサムに初めて出会った日。
記憶の中の母と同じ笑みを向けてくれたコーラにとても惹かれた。
それまで、シルバーとノアが家族でいてくれて寂しいなんて思わなかったのに、急に"お母さん"が恋しくてたまらなくなったのだ。
「僕さ、アプリと初めて会った日に、大人たちのせいだから、君は悪くないって言ったじゃない?」
「うん」
「あれさ、少し訂正するね。大人たちは悪いけど、君のお母さんだけは悪くない。君を守るために全力を尽くした人だからさ」
ルートさんの言葉に、嬉しくなって、笑みがこぼれる。
四年前――魔力暴走で両親を跡形もなく消し飛ばし、体が赤子まで退行した私を見つけ、獣人の村に届けてくれたのがルートさんだった。
そして、私が12歳になるまでお母さんと共に過ごしていたこともこの人は読心魔法で知っているはずだ。
「ルートさん、私……コーラとサムに、全部話すべき、だよね……」
親代わりの二人は、私の年齢が本当は16歳だということも、全属性魔力による身体崩壊を起こさずに12歳まで育ったことも知らない。
もちろん、シルバーもノアも、グレイもウィンリィも知らない。
私が本当は、みんなが思っているような小さな子供ではないことを。
「ふうむ。崩壊せずに育ったことなんかは情報としては開示するべきかもねぇ……まあ、無理をしてまで話さなきゃいけないとは思わないけどね。ただ――」
ルートさんは目を光らせて、辺りを見渡した。
多分、探査魔法を使っているのだろう。
そうして、目当ての人を見つけられたのか、師は、くすりと笑みをこぼした。
「サムとコーラがこっちに向かっているよ。君はね、君が考える以上に、二人から大事に大切にされているんだ。だから、自信持ってね」
「……はい」
私の隠し事は、二人に受け入れてもらえるだろうか……
不安が残る中、それでも師の言葉で心が少し軽くなった私は、サムとコーラにきちんと話そうと決心した。
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