幕間 とある魔法少年の懺悔
※ 身体欠損などの残酷な描写あり
「ガウラっ!! 今、今助けるから!」
目の前には、見たことのない悲痛な顔のウィンリィ。
そんな顔、"あの時"ですら見せなかったのに。
「離せ! ガウラを! 僕の友達を返して!」
もう、いいんだ、ウィンリィ。
お前に酷いことをした俺なんか……
「ガウラ! もう大丈――!? っっ」
あれ? 腹から下が……
「あ、あ、あ、うわああああー!!!」
目の前でウィンリィが絶叫している。魔力も滝のように溢れていて、暴発寸前だ。
止めないと――そう思って手を伸ばしたが、届かなくて、腕から先が失われていることにようやく気付く。
絶望的な状況――なのに、俺はこの時、安堵していた。
コイツを穢した部位が全部無くなったって、犯した罪が無かったことにはならないのに……
――――――――――
「ふっ、うっ、ひくっ、うえ、うええ、ガウラ……」
耳に届く泣き声に、意識が浮上する。
目を開けると、見慣れた白の天井に、薬の匂い……
ここは、軍病院のベッドの上か。
胸の上の重みに、そちらに目をやると、淡い桃色が視界いっぱいに広がった。
緩慢な頭でしばらく考えて、それがウィンリィの頭だとようやく気付く。
手を伸ばすと、今度はちゃんと届いて、ガバッとウィンリィが起き上がった。
「ガウラ……起きたの?」
「ああ、ウィンリィ……大丈夫か?」
手を顔に伸ばす。久しぶりに触れた頬は、あの軍命が下される前に、じゃれてつねった時と同じ感触だった。
「僕は、無傷だよ……ガウラが助けてくれたから。ごめん、ごめんね、僕、最強になったはずなのに……」
最強? そんなもの、好きで得たわけじゃねーのに、責任まで、負うなよ……ほんと、コイツは……
ポロポロとこぼれ落ちる涙を指で掬って、親指で涙の通った跡を消した。
「バーカ。気にすんなって。むしろ、食われて軽くなったから清々したんだぜ?」
さっきまで無くなっていた下半身に目を落とす。ガレットが治してくれたようで、無くす前と変わらない感覚がそこにはあった。
有難いが、あの時、腹から下が無くなってて、正直ほっとしたんだ。
もう、コイツに酷いことしなくて済むって……
「……そんな、こと、言わないで……軍命だったんだ。ガウラは悪くない、みんな、誰も悪くないよ。だから、自分の体を厭わないで、お願いだから、大切にして」
未だ、頬に触れていた俺の汚らしい手を両手で包み込んだウィンリィは、絞り出すようにそう言った。
「はは、優し過ぎ、お前……」
「……ガウラ」
あんな酷い目に遭って、本当に誰のことも恨んじゃいない。
でも、俺は、恨んで欲しかった。罵詈雑言を浴びせて欲しかった。
軍命だったとしても、関係ない。俺が、俺たちがウィンリィにしたことを絶対に許しちゃいけない。
「……もうすぐ、第一国方面へ行ってたカリスが戻って来るよ。それまで休んでて」
「ああ、付き添い、ありがとな」
ウィンリィは、俺の手をしばらく見つめてから、布団を捲り、その手を中に入れてくれた。
と思ったら、布団を跳ね除け、手を掴み、小指に噛みついた。
「いっ! ウィンリィ!?」
「ガウラ、カリスも、僕まだ、ドッジボールやり足りないよ。だから絶対死なないで。絶対だよ」
言って、自分の小指を差し出した。
ああ、血の誓いか。本来なら、初めて戦地へ向かう朝に付け合うものだ。
俺は、差し出された小さな小指になるべく最小になるように咬み傷を付ける。
血が混ざるように小指を繋いで、俺たちは、呪を唱えた。
「僕たちは」
「俺たちは」
「「互いを裏切りません――」」
これを唱えても、俺は戦場で命を落とした。
最期の時、頭にあったのは、ウィンリィのこと。
行方不明のあいつに俺の死が届くことのないよう……思考の終わりに、ただただそれだけを祈っていた。
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