ウィンリィの拠り所② 《ウィンリィ視点》
「リィ、何があったのか話せるかな?」
さっきまで、アプリが修行していた所に腰を下ろすと、インターは、優しい声音で聞いてくれた。
「……ん、プラシーに、キスされた」
あったことをそのまま話すと、インターから魔力が溢れる気配がした。
でも、隣の彼に目を向けると、何にも変わらないいつもの姿だったから、気のせいだったのかと思い直す。
「それは……君は嫌じゃなかったの?」
「嫌とか、嫌じゃない、とかそんな風にタグを考えたことないから、嫌ではなかったよ。ただ……」
プラシーの好意が自分に向いていることが信じられなくて、僕は言い淀んでしまった。
自分の自信のなさに、「あまり卑屈だと相手に気を遣わせるし、あなたを好いている人間にも失礼よ」と言ってくれた親友のリアの言葉が頭を過ぎる。
意を決して、僕は、あったことをありのまま伝えようとまた口を開いた。
「プラシーは、僕が好きだってはっきりと言ったんだ。それなのに僕、何にも考えないでタグだと思って、キスを受け入れちゃって、無神経なことしちゃった……」
「リィ」
名前を呼ばれたと思ったら、口にいつもの感触があって、僕は驚いて、彼の顔を見つめた。
「インター?」
「落ち着いた? ずっと瞳が揺らいでいたから、動揺してるなあと思って」
あ、いつもの行動で、落ち着かせようとしてくれたのか。
「ありがとう、インター、君のは安心するよ……というか――
君の存在そのものが僕をほっとさせるのかな。いつもありがとうね」
僕がそう言うと、彼は、黒曜石の瞳を見開いた。
その中に、あの時と同じように映った自分の顔に、僕は驚く。
凄く良い笑顔だった。僕は、彼にこんな顔を向けるようになっていたのか。
「君は、無自覚が過ぎるよね……その点だけは、プラシーに同情するかな」
「えっ? や、やっぱり、僕が悪いってことだよね? どうしよう、やっぱり早く謝らないと」
「それでも、突然キスをするような奴に謝ることはないよ。君はただ、自分の気持ちを正直にプラシーに伝えるだけでいいんだ」
「そ、そっか。正直で、いいんだ」
プラシーの好意自体は、素直に嬉しかった。でも、僕はそれに応えられない。
まだ、元の世界に帰るべきかも迷っているくらいだから。
ふと、インターは、そのことについてどう思っているのかなと思い、僕はずっと聞かずにいたことを意を決して、口に出した。
「インターは……元の世界に帰りたくはないの?」
「帰りたくないわけじゃないし、会いたい人がいないわけでもないよ。けれどね……」
口に出してすぐに、唐突だったかなと後悔したが、インターは、何も聞かずに質問に答えようとしてくれている。
その間、彼の黒曜石の瞳は、ずっと僕を見つめていて、僕も早く先を聞きたくて、彼を見つめ返した。
「君の味方でありたいって気持ちが、その全てを上回るんだ」
それは、僕が心の底で欲していた言葉だったと思う。
でも、そんなことを言ってもらえる資格が僕にはない。
ほんとうのことを言わないと、と口を開くが、何度声に出そうとしても、出てこなかった。
「っ……」
この期に及んでまだ自分は保身をしようとしている。そんな自分に失望した僕は俯いて、唇を噛み締めた。
「リィ、君が何に悩んで、何を黙っているのか、僕は知らない。けれど、これだけは言えるよ」
肩に彼の暖かな手が置かれた。
隣の彼の顔を見上げると、今まで見た中で、一番と言ってもいいくらいに優しい表情のインターがいて、目を瞠る。
「君が何者でも、例えば、僕の大事な人を葬っていたとしても、僕のこの気持ちは変わらない。僕だって、君の仲間を何人も葬っているから、お互い様なんだ。
それとね、僕らが今、一緒にいるのは理屈じゃないと思ってる。
そもそも、戦場で出会った僕らが共にいるのに理屈なんか、いらないんだよ」
「そんなの……」
僕に都合が良すぎる。
「ねぇ、リィ、君が今、一番に頼りたいのは僕だよね?」
「そ、そうだけど」
「この、知り合いが一人もいなかった異世界で、僕は強引に君の保護者になった。君は最初、そんなの要らないって言っていたのにね?」
確かにそうだけど、何で今更、そんな昔の話を掘り返すのだろう?
「結果、僕は君の隣に居座って、君は僕を信用するようになった。それってさ、僕がそうなるように仕向けたと思わない?」
「そ、そう、なのかな? よく分からないよ」
「白状するとね、仕向けたよ。子供なのに、誰も頼らないなんて言う君が、昔の僕に重なったから」
「インターの、子供の頃?」
「あの頃、僕はそれでいいって思ってた。でも、そんな僕を諦めないで構い続けた人がいたことは、確実に今の僕をかたち作っているんだ。良い方向にね」
子供の頃のインターにも、僕にとっての彼や、コーラやサムやアプリ……仲間がいたってことなのかな?
「つまりね、全部、僕がしたいからしてるってだけなんだ。だから、これからも、君の隣にいさせてね」
にっこりと笑った顔に、僕も釣られて笑顔を返した。が、彼に比べると、迷いだらけで、申し訳なくて、上手く笑えた自信はない。
「僕も、君に隣にいてほしい。でも、僕、まだこの世界に残るのかすら決められていないんだ……」
スノークの声が聞きたい。リアにもチュラにもガレットにも、優しくしてくれたアベルや、気にかけてくれるジンとココさん……泣き虫のベリーはちゃんと眠れているのだろうかとか気にし出したらキリがない。
他のflowersの仲間たちにも本当は会いたくてしょうがなかった。
会いたいだけじゃなくて、僕がいないことで、守れない命があるんじゃないかと胸が押しつぶされそうになる夜だってある。
「うん。それもゆっくり考えるといいんじゃないかな? サムが方法を構築するのも、まだまだ時間がかかりそうだしね」
「うん……あ、でも――」
これだけは、インターにちゃんと言わないと。
「君の敵にだけはもう絶対に戻らないから、それだけは信じてほしい」
その選択肢だけは全力で避けてみせる。今の僕が一番譲れない願いだから。
「僕も同じ気持ちだよ。そうだ、それを含めた"指切り"やり直す?」
言われて、彼の左手の小指に目を移す。そこには、前に僕が噛みちぎった痕がくっきりと残っていた。
「……いいけど、前のとこ、上手く避けて切れる自信がないよ、また傷痕残っちゃうかも」
「あはは、気にしてるの? いいよ、痕がさらに残っても」
言って、彼は僕の目の前に小指を差し出す。
それを手に取り、なるべく痕を避けて、小さく犬歯で噛みちぎった。
ぽたり、と僅かに赤の雫が地面に染みる。
「君のも」
「ん」
あの時と同じ左手の小指を彼に差し出す。
ほんの僅かに噛み切られた指に痛みはほとんどなく、あの時もそうだったなと思い出した。
血が混じるように小指を絡めて、僕らはまたあのおまじないを唱える。
未来から来たサム――僕の息子は、何も言わないけれど、多分、僕とインターは未来で殺し合うことになるのだと思う。
どうか、このおまじないが、僕らの運命を上回りますように――
僕は、繋いだ小指にさらなる願いを込めずにはいられなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




