ウィンリィの拠り所① 《ウィンリィ視点》
ポタポタと、絡めた小指から滴る血が、地面に染み入る。
「僕たちは、互いを裏切りません。はい、復唱」
「……僕たちは、互いを裏切りません」
互いに目を合わせる。君の黒曜石の瞳に浮かぶのは少しの戸惑いの色。
その中に映り込むのは、見慣れた僕の顔だ。
「「ゆーびきーり、げーんまん! 裏切ったら、針千本のーます!」」
「「指切った!」」
君と出会ったあの日、交わした誓いは、互いの命を守るためだけのものだった。
それは、敵同士だった僕らの、保身の行為でしかなかったのに、今は――
――――――――――
「はあ、はあ、はあ、は……」
告白されて、思わず逃げ出してきてしまった僕は、手近な木に手をついて、荒くなっている息を整えた。
「はあ……どうしよう、プラシー、変に思ったよね……」
あんな風にストレートに好意を向けられたのは、スノーク以来だ。
彼の時は、僕もずっと好きだったから、受け入れるだけで良かったのだけど――
「友達だと思ってた子から告白されたの、初めてだ……何て返せば、良かったんだろう……」
息が整った僕は、トボトボと歩きながら考えた。
どうしたら、プラシーを傷付けずに済むのだろう。
彼は、とても優しくて、綺麗で、僕なんかを好きになるべきじゃないのに。
「はあ……何で、僕を好きなんだろ、プラシーは……あれ?」
木立の合間から見えたのは、可愛らしいうさぎのお耳と――
「インター……」
僕が最も信頼している保護者の姿だった。
―――――
無意識にインターの魔力を辿って来ちゃったのだろうか。
思えば、この世界に来てから、彼はずっと隣にいた。
僕が困っている時、戸惑っている時、誰かに甘えたい時――当たり前のように両手を広げていてくれた彼に、すっかり甘える癖が付いてしまっている。
インターへの甘えを紛らわすように、可愛いうさぎの妹分、アプリへと目を向けた。
「いつもならもうとっくに自由時間のはずなのに」
何度も何度も同じ呪文を練習する姿に、僕は、それは自分のせいなのかなと胸が詰まる。
「僕が油断して、怪我を負ったからだ」
治療して、目が覚めた朝、優しいアプリは、自分のせいだと言って泣いていた。
自分の強大な魔力に怯えていたあの子が、それを克服する気になったのは、きっと大きな前進で、良いことのはずだ。
だけど、中身がまだ4歳の子供に、それを急がせてしまったことがとても、やるせない。
アプリの健気な姿に飛び出してしまいそうだった僕は堪えて、またインターの方へ目を向けた。
優しい表情で、アプリに魔法を教えるいつもの彼に、僕は何処かほっとして、肩の力がすっと抜けた。
でも、インターの姿を見るだけで、安心してしまう自分に、いつまで彼に甘えるつもりなんだろうとの思いが胸を締める。
彼を、元の世界の息子くんのところに早く返さなくちゃいけないのに、まだ、今日も、彼を頼りたいと、話を聞いてほしいと思ってしまっている……
そこまで考えて、下を向いた。
そもそも、資格がないのに、そのことを彼は知らないのに、僕は本当に狡くて、卑怯だ。
「ウィンリィ?」
声に顔を上げると、いつの間に近付いて来ていたのか、目の前の木の幹からアプリがひょこっと顔を出していた。後ろのインターも僕の方を見て、手を振りながら、こっちに向かっている。
「あ……アプリ、ごめんね、修行の邪魔だったかな」
「ううん、もう終わったよ。ウィンリィ、あの……」
アプリは、後ろにいたインターの方を振り向いてから、僕に向き直ると、
「私、先に帰るから」
「えっ? あ、アプリ!」
たたっと僕の横をすり抜けて走り出した可愛らしい背中は、あっと言う間に木立の中へと消えて行った。
「リィ、どうしたの? 野いちご狩りは? プラシーと何かあった?」
「インター……」
目の前まで来た彼は、下を向いてしまった僕の顔を覗き込み――
「ふうむ。とりあえず、こっちにおいで? じっくり話を聞くからさ」
と言って、僕の手を引いてくれた。
「面白かった!」
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