人魚の子の帰る場所①
魔力の子50人を保護してからひと月が経った。
「ウィンリィ! 行くぞ!」
「トト、受けて立つよ! アプリ、溢れたらよろしくね!」
「うん」
「トト! 加減しろよー! アプリに当たったら許さないからな!」
「んだよ、ノア! お前誰の味方なんだよ!」
目の前には、外でドッジボールをする子供たちの姿。
50人のうち、半数ほどの子供たちはリハビリも終え、すっかり普通の子供のように走り回れるようになった。
アプリとウィンリィとノアくんは、午前中からお昼過ぎまでに各々の修行を終えた後、魔力の子たちと全力で遊ぶのが日課となっている。
ちなみに、ボールは僕がアイテムボックスから提供したもので、母――ウィンリィの代から僕の娘のウィンディに至るまで活躍した思い出深い品だ。
「ふふ、子供たち、本当に楽しそうねぇ……」
「本当だね……」
元気な子供たちがいる中、まだ心が回復し切らなくて、外に出ようとしない子たちも何人かいる。
胸が痛むが、根気よく見守っていくしかないと自分に言い聞かせた。
「みんなー! おやつにミルクアイス作ったよー! 取りにおいでー!」
長の家から出て来たルートさんが子供たちを呼ぶと、我先にとみんな家の中へ入って行った。
子供たちと入れ替わるように「今日は暑いねー」と言いながら僕らの方へ歩いて来たルートさんに僕は疑問を投げかける。
「ルートさん、ミルクアイスなんて、どうやって作ったんですか?」
「んー? ああ、ウィンターンへ行った時さ、国境付近は魔法が行き渡っていなくて、雪が残ってたじゃない? それをさ、回収してアイテムボックスに入れておいたんだ」
「つまり、雪で冷やして、作ったと?」
「雪だけじゃないよ、塩を混ぜて急激に冷やしたんだ。アイスを作るには充分だよ」
そう言って、僕とコーラにも、小さなカップに入れたアイスを渡してくれた。
エルフの里は、年中真夏の国、サマーン付近ということもあり、気候はやや夏寄りだ。
溶けないうちにと、僕らはすぐに一口掬って口に入れた。
羊ミルクの素朴な味わいが口内いっぱいに広がる。
「ふふ、アイスエッジの屋台にも売っていたわね」
「ウィンターンの人はアイスが余程好きなんだね……僕らは寒すぎて買わなかったけれど……」
「そうそう。トトがさ、ウィンターンのおやつはアイスが主流だったって言うんだよね……あの気候を生かしたおやつってことなんだろうねぇ……」
トトのリクエストに答えて作ってあげたのか……
ルートさんは、育児放棄属性とは思えないくらい子供にとても優しい。
ウィンリィのこととなると、その子供にも容赦はしなくなるのだが。
「トト、子供たちにアイスを食べさせてあげたくてルートにそう言ったのかしら?」
「あはは、そうだろうねぇ……」
「優しい子だよね……」
「あ、トトと言えばさ、今度は川遊びがしたいって言うんだよね」
川遊び……確かにこの里には、森から流れる長い川がある。
暑い日もあるこの里で過ごすのに、たまの水遊びは息抜きにもなっていいかもしれない。
―――――
翌日、僕とコーラは、子供たちを率いて、川に来ていた。
メンバーは、ウィンリィ、アプリ、ノアくん、トトに、マヴロスくんを含めた魔力の子数名。
その中の一際目立つ色彩の女の子が、感嘆の声を上げた。
「ふわあ……ほんとうに大きな水たまりがある!」
アプリと同じ背格好のその少女は、期待に溢れた桃色の瞳で、光る川面を見つめている。
魔力の子たちの最年少、モモは、ウィンリィに似た珍しい桃色のボブヘアを揺らし、今にも川に飛び込みそうだ。
「これはね、川よ」
「あっ! ほら! 魚も泳いでいるんだよ!」
「ほんとだ! みんな、気持ち良さそうに泳いでる……」
ここは、生活用水を汲んでいる場所の先にある下流だ。
つまり、ここで子供たちが激しく遊んで川が濁ってしまっても、水流は里の外へ出るのみなので、生活に支障はないと長が勧めてくれた場所である。
僕とコーラは、木陰にビニールシートを敷いて、子供たちを見守ることにした。
この世界……というか、エルフの里に水着と呼べるものはなく、ウィンリィをはじめ、13歳以上の女の子たちは、厚手の布を胸に巻き、下はGパン生地の短パンを履かせている。
この格好に、ウィンリィは、「重たくて嫌だよ! 普通の短パンでいいじゃん!」と抗議を上げたが、ルートさんの圧に渋々Gパンを履くことを受け入れた。
この件に関しては、ルートさんのことを過保護だとは思えなかった。かくいう僕も、透けなくてほっとしている。
「モモ、足からそっとだぞ」
「うん! そっと、そーっと……」
先に川に入ったトトに両手を支えられながら、ただ一人、ワンピースを着ているモモは、ゆっくりと足先から川に浸かり……
瞬間、水面から、大きな魚のヒレのようなものがジャパッと顔を出した!
それは、トトの顔に水飛沫を飛ばしたが、繋いだ手を離すことなく、トトは、ただただ濡れた顔で、モモの脚を見つめている。
「きゃはっ! 本当に変化出来たっ! 見て! トト、これ! 魚の尾っぽだよ! 私――」
ばしゃん! と水面をヒレになった脚で叩いたモモは、満面の笑みをトトに向けて言った。
「人魚なんだよっ!」
「……知ってるよ」
その時、トトの顔が曇っていることに気付いて、僕は、隣のコーラに目を向けた。
「ねぇ、コーラ、トトのやつ、モモのために川遊びがしたいって言ったんだよね?」
「そうでしょうね……」
「なら、何であんなに浮かない顔をしているんだろう……」
またトトとモモに目線を戻すと、アプリやノア、ウィンリィ、他の同年代の魔力の子たちと共に楽しそうにはしゃぐ姿が目に入った。
トトも楽しそうに仲間に水を掛けている。
さっきの顔は、気のせいだったのかなあ? と思った僕は、勝手に安心して、子供たちの笑顔を眺めたのだった。
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