ピザ生地の穴を埋めるのは……
「はあ、淫魔が増えた……」
「ルートさん、淫魔じゃなくてエルフですよ」
朝食後、キッチンで昼食に出すピザ生地を仕込むルートさんの手伝いをしていた僕は、彼の重苦しい独り言に反応してしまった。
「リィに近寄る虫なんか淫魔で充分でしょ」
「ルートさん、子供相手に大人気ないですよ? マヴロスくんなんか、本当の17歳なんですし……」
エルフのプラシーくんは、見た目も中身も少年だけれど実年齢は50歳。一方、同じくエルフのマヴロスくんは、見た目も中身も実年齢の17歳そのものだ。
本来のエルフの成長スピードなら、マヴロスくんはもっと幼い子供のはずだった。
魔力の子たちの種族内訳が人間と獣人とエルフがほぼ均等に入り混じっていたので、エルフよりも比重の多い人間と獣人に合わせて成長した結果らしい。
「はあ、サムはほんと、同年代がリィに粉かけてても気にしないんだね……」
言いつつ、作業台に打ち粉をかけるルートさん。
「まあ、ウィンリィにその気が無ければ、何も起きませんしね……」
粉で薄く白くなった上に手のひらサイズの生地玉を二個、僕は置いた。
僕らはこれから、Lサイズのピザ生地を12枚用意しなくてはならない。
それは、50人の魔力の子たちに、アプリにウィンリィにノアくんと、更に大人4人分――合計57人分の昼食だ。
ルートさんが、生地を上から手で押し潰してから、粉を纏わせた麺棒で平たく丸く伸していく。
僕もそれを真似てみる――が、隣の彼のように均等に丸く広げることが出来ずに不恰好なものになってしまった。
「その気、か……スノークに対してはあるんだろうねぇ、それ」
「まあ、なくちゃ困りますけどね、息子としては」
正直なことを言うと、今、ウィンリィと一番距離が近いのはルートさんなので、少年たちに目くじらを立てるのは無意味だと思う。
ルートさん本人は、今のウィンリィの思い人はスノークだと思っていて、僕も、あの氷のお城を見つめるウィンリィの瞳に、父への想いを強く感じた。
しかし、いかんせん、この場にはいない父よりも、恋愛対象ではないとはいえ、ウィンリィが一番信頼しているルートさんに分があるように思えるのだ。
それを踏まえて、僕にも、そろそろ受け入れないといけないことがある。
ウィンリィがこの世界に留まることを望むなら、父さんとの未来も、僕が産まれる未来も、ウィンディが産まれる未来も……この世界で生きるウィンリィには訪れないのだということを。
「はあ、僕にスノーク並の美形要素があれば良かったのかな……」
「何言ってるんですか、ルートさん、高身長で、スマートな筋肉質で、スタイルも良くて、顔も整っていて、充分じゃないですか」
全く、無いものねだりも甚だしい。美形要素なんて、あったって、何の役にも立たないってのに。
話しつつ、五個目のピザ生地を伸すが、やはり不恰好になってしまった。
「あはは、随分褒めてくれるね、サム。もしかして僕ってば、息子公認になれたのかな?」
「なってません。コーラとアプリはルートさんの味方みたいですけれど、僕はまだ、保護者としてのルートさんしか認めていませんからね!」
ああ、麺棒を抑える手に力を込めてしまい、今度は生地が破けてしまった!
最後の六個目の生地だったのになあと思っていると、ルートさんが、横から生地を自分の前にスライドさせて、破けた穴に生地が集まるように伸し直してくれた。
きっと、ウィンリィの心の穴も、こんな風にいつか綺麗に埋めてくれるのだろうな……なんて、僕はつい思ってしまった。
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