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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第2章 竜の集落とその運命(さだめ)第4話 決裂と対話の兆し

 昔、この土地に住んでいたのが、人間達だって?!

 そして、長い繁栄がもたらした汚染を竜達が浄化しているだなんて。


 僕らの世界にも環境汚染問題があるが、この世界の人々の営みで、どんな汚染があるというのだろう?


 とても素朴で自然と調和した生活に見えたが。

 化学薬品などの汚染ではないとすると、魔法残滓か、人の負の思念によるものか?


 隣のコーラを見ると、彼女も口元に手を当てて考え込む姿勢を取っている。


 グレイはというと、唇を噛み締めて、事実を重く受け止めている様子が見てとれた。


 が、驚いている様子はない。優しく、思いやりのある彼のことだ。薄々勘付いていたのではないだろうか?


「竜とは、この星が産んだ浄化装置そのもの。我々が住まう土地は、常に汚染の強い穢れた土地だ。

故に、お前たちのような瘴気に害される生き物は、我らのいない汚染の軽い土地に移り住むことを勧める。

そこの獣人、グレイと言ったか。体が頑丈だからと、瘴気を舐めていないか? 今はどうあれ、お前の子供は? 孫は? ひ孫は?

後の世代に影響が出ない保証はあるのか?

断言する。影響は必ず出る。

歴史が語っているんだ。お前たちが今、魔獣と呼び、討伐しているものは、瘴気に感化された獣人や、人、その他、知恵ある種族や、動植物だ」


 衝撃なんてものじゃない魔獣の真実に、余所者の僕ですら、冷静さを失いそうになる。


 グレイ、グレイに何か声をかけてやらないと、優しい彼の心が壊れてしまう……


「そっ、それでも! 俺たちに行くところなんて、ありません!」


 しかし、僕の心配を他所に彼は震えつつも、はっきりとした声を上げた。


「我々はこの星中に散らばっている同種と密に連絡を取り合っている。

その情報によると、人間や他種族が住む土地で、空いている土地があるはずだ。何もこんな毒の土地に」


「あっても! 住めません! 俺たちが、この国を出た途端、守ってくれるものは無くなる!! また奴隷狩りや、虐殺に会うのが分かりきってるんだ!  俺の両親だって! ノアの母親だって! この国の国民で大事な人を、家族を一人も失ったことのない者なんていない!!」


 竜の長の言葉を遮って吐かれた、グレイの悲痛な叫び。

 僕は胸が張り裂ける思いだった。隣のコーラも、眉を寄せて、彼から目を離せない。


「……でも、俺らが出て行くのが、道理だってことも分かっています。こんなの、俺たちの我儘だって。もっと戦うべきだって。でも、もう抗い疲れたんです。毒の土地で将来、魔獣になるとしても、今の、誰にも命を脅かされることのない生活を俺たちは、きっと手放せません」


 アルは黙ってグレイの顔を見つめていた。


 おそらく、彼の予想以上に彼らの経験が、置かれた状況が、過酷だと理解した筈だ。


 僕ら余所者が何か言うよりも、余程響いたに違いない。

 そう確信していた。この時の僕は。


しかし、


「そちらの意見は理解したが、我々の意思は変わらない。この星の獣人の7割がこの土地には住んでいる。それらが全て魔獣になるなど、あってはならぬことだ。我らが保つ均衡が崩れる」


 あってはならぬこと、という強い言葉に心臓がドクンと跳ね上がる。


「出て行かぬなら、滅ぼすまでだ」

「っ!」


 場が一瞬にして、張り詰め、一触即発の状態に変貌した!

 グレイが覆い被さるようにアプリを抱きしめ、コーラと僕は、庇うように彼らの前に出る。

 しかし、妻はまだ魔法刀を出していない。

 今、こちらが完全な攻撃態勢を取ることは、即、戦いに直結するからだ。


 僕は呼吸を深くして、頭をフル回転させる。

 武力行使はしたくない。でも、このままでは最悪、全滅だ。

 アプリの魔力を借りて、僕が使える最大の防御力を持つ魔法と、攻撃力を持つ魔法のどちらも即座に作動出来るよう、イメージを纏める。


 そして、アプリの肩に手を置こうとしたその時だった。


 アルが手を上げる。あの花畑の結界を張るつもりなのか? もしかしたら、彼の魔力なら、この村の獣人全てをあそこに引き込むことも可能なんじゃ!?


「アル! まっ」

「長、お待ちください」


 その時、アルの部屋に2組の人型の竜が入って来た。

 性差が分かりにくい中性的なアルとは違って、男女の別がはっきりした2人だ。


「カイ、イオ、何用だ? 今、取り込み中なのだが?」

「長、この者たちと、今、村にいる獣人達を結界内に運び、その『魔力の子』を使って滅するおつもりでしょう?」


 女型の竜が話す。アルと同じ淡々とした抑揚の少ない声音だが、薄く感情が乗っているように聞こえる。


「そうだが、それがどうした?」

「その前に俺たちの話を聞いて下さい」


 男型の竜が、低い声音だが、懇願するような声質で話す。


「カイ、イオ、この集落は元々、お前たちに任せた場所だ。

意見があるなら、話すがいい。話したところで、何も変わらぬがな」


 カイとイオは、頷き、僕らに目を向けた。


 もしかして、この、カイとイオは僕たちを助けようとしてくれているのか?


 しかし、彼らは無表情で、感情の変化も見えず、何も読み取れない。

 何を思って長であるアルを止めてくれたのだろう?


「成人の獣人、お前はその兎が魔力の爆弾であると分かってて、同じ村で過ごしているな?」


 一瞬、それまでアルが何を言おうとも、無反応だったアプリの瞳が揺らぐ。

 グレイはアルとカイが話し出した時に解放したアプリの体を再度引き寄せて、その手を握った。


「は、俺は、俺たちは、アプリをそんな風に思ったことはありません。この子は、ただの魔力量の多い子供です。

暴発の危険も魔法具があれば抑えられますし、ば、爆弾なんて、子供に言わないで下さい」


 震えながらも、アプリを守る言葉を必死に吐くグレイ。

 コーラと僕は黙って彼の肩に手を置き、頷いた。


「そうか、綺麗事だな。暴発の危険も払拭し切れていないからこそ、村はずれの森が残る場所で育てておるのだろう?」


 確かに、アプリの住むシルバーの家は、村の住宅地から、大分離れた場所にある上、家の壁にも内側から結界が張られている。


「それは、それは……」


 その時、アプリが彼と繋いでいない方の手を自分の手を握ってくれているグレイの手の上に重ねた。

 獣濃度の高い彼の大きな手を小さな小さな子供の人の手が包む。

 そして、小さな彼女の口は『ありがとう』の動きをした。

彼らの絆に僕の胸は締め付けられる。


「お前たちのやっていることは矛盾だらけだ。訳が分からない。しかし、」


 男――カイが一度、言葉を切る。


「私たちは、あなた方に関心があります。だからこそ、その『魔力の子』のことも何もせず、黙認してきました」


 女――イオがアプリを見ながら、今までで1番優しさを感じる声音で話した。


「ふむ。訳がわからなくて関心があるから、滅するのは待てと?お前たちはそう言いたいのか?」


 アルが呆れた様子で2人に声をかける。

その様子は、子供の駄々を嗜める親のようだ。


「長、今までは私たちが行くところに人が居たとしても、皆逃げて行きました。

だから、初めてでした。私たちと同じ、雄雌で番をつくり、家庭を形成する二足歩行の知的な生き物の生活を間近に感じるのは」


「俺たちは、彼らの生活を観察して、我らと変わらない同族間の助け合いと、思いやりの関係を目の当たりにしたんです」


 カイとイオは、アルから僕らに目線を移し、


「長はともかく、子である我々は、あなた方に関心があります。

共存できるならば、したいとも考えている。

もう少し、あなた方の営みを観察したいのです。我々との共通点や相違点を見て知りたい。

理解したいとまでは言えませんが、知りたいと思っている……それが我らの総意です」


 イオが言い終わると、カイが懐から5つの書簡を出して、アルに手渡す。


 アルはそれらに目を通し、は、とため息を吐いた。


「成程。確かに、ほぼ総意だな。この土地に7つある竜の集落のうち、5つの集落がお前たちと同じ意見か」

「ルカの集落も同意見だと、隣の集落であるスイの書簡に書かれています。使いの竜に何かあって、書簡が届かなかったのだと思われます」

 

 アルはカイ達から僕らへと目線を移し、


「お前たちのように、我らと対話を試みたようだぞ?この国の使者と住民が」


 グレイは固まって動けなくなっている。

 僕は彼の肩をゆすって、声をかけた。


「グレイ、国が動いてくれていたんだ。あと、手が届かない場所は、君たちみたいに住民が」


「そういうことだ。子らの総意がこうである以上、我は口を噤もう。カイ、イオ、後は頼めるか?」

「はい、長。任せて下さい。彼らと話を詰めます。これからどうするのかの話を」


 イオがこちらを見ながらアルに話す。

 はあ、危機は完全に脱したようだ。

 僕はほっとして、グレイの左側にいるコーラに視線を向けるが、あれ? また無表情で固まっているぞ……まさか!


 ふと、僕の視線に気付いた彼女と目が合う。

汗をかき、俯いたコーラに、僕は自分の予想が当たっていると確信した。


 届かなかった書簡を、携えていた竜とは、おそらく、コーラが初日に屠った竜なのではなかろうか……


 ま、まあ、余計なことは言わぬが、仏。

 僕らは口を噤むことにしたのだった。


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