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勇者の贖罪  作者: 虚無人
2章 『ロード村』
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26.『未知の問題』

痛かった、凄く痛かった。


この世界の"魔法"というものをモロに喰らったのは、以外にもそれほどない。

最初の、青髪の女からの魔法攻撃を思い出した。


『――死ね!ルイ・レルゼン!!!』


最初に向けられた感情が憎悪だったのは悲しかったし、いきなり殺されかけて辛かった。


異世界に転生して、よく分からない状況ではあったけど、それなりに楽しみにしていた。

魔法や、剣や、魔獣、魔王、勇者。

色々なファンタジーに胸を高鳴らせたが、やっぱり、魔法は素晴らしい。


現実世界では到底見られることの出来なかった怪奇現象が次々と起こっていく。

説明がつかない、異常がこの世界では通常なのだから、やはり異世界は面白い。


魔法は、現実世界の人からしたら魅力的で、格好良くて、自然と高揚する。


でも、魔法はやっぱり、向けられれば刃物や銃と同じかそれ以上の驚異となる立派な攻撃だ。


痛い。


――――――


脳を巡る思考の中で、ルイは今自分に起こった事を分析する。


――なんで、なんだ、何が、なぜ効いた?今になって、なんで、今


「はい次!」


「ッガル!」


「ぁ」


状況の理解に頭を回していていも、セグルドの魔法攻撃は止まってくれない。

ムムが反応して噛み砕いてくれなければ、間違いなくルイは耐えられない激痛に冴生れていた。


「やはり、コッチはルイ・レルゼンに通用することを、本能的に理解しているな?」


セグルドの幾つもの魔法玉を紫限定で丸呑みし続けて、ムムの息も荒くなる。


「ムム...!」


――ダメだ、思考を停止するな!考えろ、考えろ!何が起こった?何で食らった?さっきまではなんともなかった!


ルイ・レルゼンに激痛を与えた不可解な現象、それがただの魔法であることはこの世界において普通の事、だが、ただの魔法と考えれば、それは本来ルイ・レルゼンには効かないハズなのだ。


セグルド・サターンの魔法はルイ・レルゼンには何故か通用しない。その点から引っかかり、解明するとなると果てしない時間が必要になるだろう。

では、さっきまでの効かなかった魔法と、効いた魔法では何が違ったか。


「...色だ。」


黒い魔法玉の時はルイは傷一つつかなかった。思い返せばルイを痛めつけ、ムムが丸呑みし続けていたのは紫の魔法玉の時。

最初の一撃も紫、今回も紫、ムムが噛み砕くのも紫。


「あ」


となると、最初の村を滅ぼさんとするレベルの魔法玉、アレは黒と紫が混同していたように見えた。


「...つまり、アレが消せた理由は...」


黒→ルイが適応出来る。

紫→ムムが適応出来る。

1人と1匹のコンビネーションによって、奇跡的に導かれた結果という事だ。


「なるほどな...でも、だからどうって訳じゃないんだよなぁ。」


そう、問題点が分かった所で答えが分かったわけではない。


「いや、だが対応は出来る。紫は死ぬ気で避ければいい、それだけでも分かっただけ収穫。」


考え方を変えれば、まだ黒玉はルイ・レルゼンの身体に攻撃を与えていない。攻撃が通用しない状況から半分の攻撃は通用する状況になっただけ。


「まだ、戦える。」


「どうかな、相変わらず僕の攻略は手詰まりなのに、まだ勝機があると?」


「有り得ねぇんだよ、無敵の奴なんか...異世界であっても、必ず、魔法にはそれ相応の対価があるはずだ。」


何事にも、対価というのが存在する。買い物をしたら、商品を貰える代わりに財産を減らす事になる。


「リスク無しの戦いなんて、存在しねぇしそんなもん世界の理が許さねぇ。」


「...で?それは君が望んでる世界の理の話だろ?現実を見ろよ。」


「見てるよ、ずっとな。現実から目を逸らすなんて事は、もうしない。」


ルイ・レルゼンの中にいる、黒澤 零の魂が熱く燃えたぎるのを感じる。

現実を自ら崩壊させ、現実逃避に人生を費やした前世。そんな意味の無い人生は、二度と送ってたまるものか。


「刻み込んでやる、俺が生きた証をこの現実に。ルイ・レルゼンの悪行を引っくり返すぐらいの偉業を、成し遂げる。」


それが、黒澤 零の贖罪。それが、この世界の零の、

ルイ・レルゼンの生きる意味なのだ。


「だから、お前にも見せつけてやるよ、現実っていう残酷な"運命"だらけの世界を。」


「口だけの威勢でどうこう出来るほど、甘くないよ。」


「分かってるよ、口だけじゃねえし。」


これは決して強がりやブラフを張った発言なんかではない、ルイの本気の本心だ。

セグルド・サターンの魔法の弱点を見つけ出す、自分で自分に刻む戒め。


「死んでも見つけ出せ、ルイ・レルゼン...!」


「っ!」


それは、思い出しくもない、癒えぬ傷を与えた男の目だった。


『――やっぱりな、見つけたぜ、お前の魔法の"弱点"。』


「...その目、本当にイライラするね、"運命"に逆らう逆賊が。」


セグルドは怒りを込めて、一回り大きい紫の魔法玉を掌で浮かばせて、大気を歪ませた。


「そうやって、口だけのお前に結局何が出来るんだ!?どうせ、これも避けるしか出来ないんだろ!?」


そう言いながら解き放たれた最大出力の魔法玉はルイ目掛けて飛んで来る。


「ムム!」

「ガルッ!!!」


「鬱陶しい...!」


決定打とはいかないまでも、見つけ出した攻撃手段を妨害されるのはセグルド的にも苛立ちはある。


「まぁ、その方が君達的に痛手だけどね。」


セグルド・サターンは、基本的に情緒不安定だ。

すぐに感情が揺れる。ジェットコースターのような感情の振り幅がある彼の感情をコントロールするのは非常に酷な話だ。


だから、フェイ・ハイルは悩ましい。


今、赤く光り輝くセグルドの目は、本来の実力を発揮しきれていない。

フェイ・ハイルによって仕込まれた赤い目は。


――――――


「クソ、全然感情の誘導が出来ないっ!」


赤く光り輝く目をするフェイは、今も尚『共感覚』でセグルドの意識に自身の精神を汚染させようとする。


「『新魔会』ともなると、自我がハッキリし過ぎて誰かにどうこうされる魂じゃないっていうのか...?」


『新魔会』という異常者の精神に、やや異常であるフェイの疑心暗鬼、人に対する怒りの感情をぶつけても、それは本来のセグルドの精神に値しないレベルの、言ってしまえば異常性の下位互換。

セグルドに通用するわけが無い。むしろ、


「っ!頭、おかしくなりそうだ!」


カウンターでフェイの頭がおかしくなりそうだった。

上位互換の異常性が魂を汚染してきて、あらゆるものに敏感な感情をぶつけてしまう。


今だって、自分がこうやって頑張ってるというのに、のうのうと眠りに落ちているセレナに対して怒りが芽生えてしまっている。

いくらフェイでも、そこまで人に対して憎しみの感情は持たない。

分かりきっている、これがセグルドの精神性なのは。


「さっさと、『共感覚』を切るか...。このままじゃ、コッチの精神が持たない。」


セグルドに忍ばせた『共感覚』を切ろうとした。

その時、ある法則に気付く。


タイミング良く、セグルドがルイに向かって紫の魔法玉を飛ばした時だった。


「...あれ、そういえば...」


――――――


紫、紫、紫、紫だけが飛んで来る。


「テメ、攻撃種類それしかねぇとか、単純な魔法で可哀想だなぁ!?」


避ける事で精一杯のルイの煽りは、セグルドは聞く耳すら持たなかった。


「言ってろ、こうやり続ければ体力が無くなるのソッチだ。犬はそろそろ限界なんじゃない?」


「ガルルル...」


「くっ、これ以上ムムに頼りっぱなしになる訳にはいかない...!クソ、考えろ、考えろ、何が違う!?黒と紫で何が違う!?」


捻っても捻っても、答えは出ない。


それはそうだ。ルイはそもそも自身の魔法を理解していない。

そして、何故自分が黒玉を適応できるのかも分かっていない。

そもそも魔法の基礎すら知らずにここまでやって来た。


何も知らない男が、魔法という未知の問題に解決策を頭を捻るのは、はっきり言って時間の無駄なのだ。


「...俺には、何が...出来る?」


その結論に至った時、ルイはとうとう考える事に諦めかける。


知らない世界の知らない常識の、知らない力の理屈から、知らない事が起こって、知らない"何か"を求めて...。


分からない。


何もかもが分からない。


――魔法って何だ?魔法って、本当に対価とかいらないのか?


ルイ・レルゼンは、突然この世界に呼び出された、ごく普通の一般人。

そんな彼に、『新魔会』の魔法を解読するのは不可能だ。


セグルド・サターンの魔法は、そもそもこの世界の人間ですら理解できない魔法なのだから。


「そうだ、コッチの犬から殺すか。」


「ガッ!」


「ムム!」


黒い魔法玉が無慈悲に、ムムの白い毛並みを真っ黒に染めた。


「ガルゥアアアアッ!!!!!」


これほどまでに、ムムが声を上げたのは初めてだ。

黒い粒子がムムの身体を蝕んでいき、身動きを取れなくする。


「――っ!」


「さて、終わりだ。」


目の前に迫る紫の魔法玉。

為す術無く、ルイ・レルゼンの全てを包み込むように解き放たれ――


「――ハエ?」


大量のハエが、ルイの視界を覆い尽くした。


「っ!おい、今良いところなんだけど、邪魔して来るクソ野郎は、どこのどいつだぁ!?」


セグルドは怒り狂った大声を上げて辺りを見回した。

大量に飛んで来たフリューバエを斬撃で粉々にしていく。


「っ!?斬撃?どういうことだ、アイツの魔法はただの魔法玉じゃ...」


「違います、彼の魔法は魔法玉や斬撃と言った攻撃系じゃありません。」


「!?」


突然、耳元で囁かれる聞き馴染みのある声に、ルイはビクッと肩を揺らす。

振り返るとそこには、セレナを抱き抱えるフェイの姿があった。


「おま、今までどこに!ってか、セレナ!?」


「それは後で話します、それより今は、一時撤退です。」


そう言いながら、フェイはルイの首元を持ち上げ、無理やりの力で立たせる。


「ちょ、お前もっと丁寧に扱えよ!魔法玉食らって身体中痛いんだよ!」


「セレナ様、最後です。本当に最後ですので、お願いします。お力を。」


ルイの言い分を無視し、抱き抱えるセレナに囁くフェイ。


「...ハエ、いっぱいだから...こんな所、早く...居たくないから...」


「そうですね、こんな気味の悪い場所、さっさと抜けましょう。」


「うん...!本当に、フェイはしょうがないなぁ...。」


「僕は、セレナ様がいなければ生きていけない弱虫です。」


「えへ....よく、言えました....ご褒美...私の力...かして、あげる。」


「感謝です、セレナ様。」


「...『転移』」



フリューバエの大群の中から、三人の人影が消えて行く。一瞬の出来事を、セグルド・サターンは見逃さず、逃げられた事を理解する。


「...ふっざ...けるなぁ!!!フェイ・ハイルゥ!!!!」


フリューバエの中で、男の叫びだけが響いていた。


――――――


「...ぁ」


セレナの魔法『転移』、何度も味わったが、やはり突然世界が変わり、場所が移動している感覚というのは不思議な感覚だ。

チャンネルが切り替わるように、プツンと世界が一瞬で塗り変わるのだ。

いや、それは言い過ぎかもしれない、毎度毎度、性懲りも無くあの、白い世界が一瞬だけ映し出される。


「要は、あの白い世界が空間転移の経由地点的なところなのかな?」


魔法についてもっともっと勉強しなければならないと考えた今日この頃、今まで関心が無かった『転移』の理屈についても改めて考えさせられた。


「それで、セレナはどうだ?」


「大分起きないでしょうね、随分と魔法を行使させてしまいましたから。魔口も治したばかりなのに、また壊れてしまいます。全く、可哀想ですよ...どこかの使えない騎士のせいで、こんなに...。」


「誰がそんだけ使わせたかは聞かないでおくよ、俺も人の事言えねーし。」


「...」


「で、俺をわざわざ回収したんだ、何か言いたい事がありそうだな?」


ルイ・レルゼンがききであろうと、セレナを守る事に全神経を注ぐフェイ・ハイル、実際そっちの方がルイ的にも助かるのだが、大量のハエの中、セグルドに襲われる可能性もあったというのに、わざわざルイを回収しに来たフェイ。


ルイは何かあると、踏んでいた。


「...そうです、伝えなければならない事を。」


「...なんだよ、セグルドの魔法でも見破ったか?」


「はい。」


「それ以外だったら今すぐ俺をセグルドの元へ行かせろ、俺はアイツをぶっ飛ばさないと.....え?」


「だから、見つけました。」


「...は?」


「セグルド・サターン、その魔法のカラクリ、そして、弱点を。」

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