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勇者の贖罪  作者: 虚無人
2章 『ロード村』
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25.『勝利へ近付いた者』

フェイ・ハイルは、"正義"を捨てた男だ。

自分とセレナを守る為に、『新魔会』を利用し邪魔をしてくる一般人を致し方なくではあるが、殺そうとした。


だが、その考えに後悔はない。むしろ、そっちが自分の本心なのは、フェイも分かっていた。

本当は、騎士なんて自分には似合わない事くらい、とっくのとうに分かっていたのだ。


だから、後悔はない、ハズなのに。


「...なんで、消えた!?」


先程まで、そこには"終わり"。告げる黒玉が地表に降り立っていた。しかし、遠くからでも見てわかるが、そこには何も無い。無くなっていた。


「まさか、ギリギリで自ら消した?でも、なんでそんな事を...。」


フェイの思惑を見透かし、嫌がらせをしたのか?いや、そうだとしてもセグルドが村人を殺さない理由には足りない。そもそも、『新魔会』なんてものは、市民の命など、虫のように扱っていた。あんなギリギリで、嫌がらせの名目で大量にいる虫達を消さないなんてこと考えられない。


「誰かが、消したのか?」


それは、フェイ自ら有り得ないと考える仮説であり、唯一残った結論だった。


「でも、誰が?あんな魔力を受け止められる人が、この村に居たのか?」


そんな事が出来る人がいるのであれば、その人からも絶大な魔力が漂っているハズだ。なのに、それを感じない。それ即ち、その仮説が間違っているということになる。

だが、考えられるのが、それ以外――


「フェイ、ちょっと...眠い...。」


「っ!」


思考する中で、忘れてしまっていたセレナの疲弊。


「も、申し訳ないです!セレナ様、本当に...本当に、助かりました。お休みになってください。絶対に、守り通しますので。」


「うん、フェイ...無茶しない、でね....」


「それは、保証できませんけど。」


正直、セレナを守るのであれば、命のひとつやふたつ投げてしまっても構わないと思える。魔王城からロード村まで、フェイはセレナに頼りっぱなしだ。忠義以上に、フェイ自身が守りたいと、そう思っているのだ。


フェイはセレナの小さな身体を腕の中へやり、優しく抱き抱えた。


「あ、と....」


「はい?」


フェイの腕の中で眠かけるセレナは最後の力を振り絞って、言い残す。


「ルイ...を、......おね....がいね。」


「...」


それだけ言い残し、セレナは深い眠りについた。


「...それも、保証は出来ません。」


眠るセレナに、聞かせられない本音をフェイは静かに零したのだった。


「さて、確認しにいかなきゃ。」


眠ったセレナを抱えながら、フェイは消えた黒玉の真相を探るべく、屋根の上を飛び回り、再びセグルドの居る場所へ戻って行く。


本来ならば、今すぐ逃げるのが正解なのだが、生憎結界が張られており、どうも外へは逃げ出せそうにない。

セレナの『転移』で逃げる算段だったが、流石にこれ以上の酷使は、治した魔口を再び壊しかねない。

よって、フェイは消えた黒玉の真相を探る事にした。


もし仮に、黒玉を消した者が居るのであれば、それは利用する価値がある。

あわよくば、セグルド・サターンを討伐するのに強力な助っ人になるかもしれない。


淡い期待を抱きながら、フェイはレンガで造られた屋根の上をピョンピョンと跳ねて行く。


――――――


「――あ、あなた、だったんですか!?」


屋根から覗き見ると、そこには逃げ惑う村人達、その中心に2人の青年が立っていた。

1人は嫌でも覚えている『新魔会』セグルド・サターンの後ろ姿。

そして、もう1人は、こちらも嫌でも覚えている存在、『大悪党』ルイ・レルゼンであった。


しかも、状況から見るに、どうやら黒玉は本当に消されて、しかも消したのはルイ・レルゼンの様子。


「何がどうしてそんな事が!?」


フェイの知るルイ、では無かった。

ルイ・レルゼンは、フェイ1人でも拘束出来るほどの弱者。『新魔会』の超高火力魔法を1人で凌ぐ事などできるわけがない。そう思っていたが、


「――っ!?効かない!?」


見ていると、セグルドの魔法をルイはモロに受けても、微動だにせず立っていた。

目の前で起こった事実に、フェイは困惑するばかりだ。


「...待てよ、記憶を失う前のルイさんは...」


ひとつ、ある考えが脳裏を過ぎった。


フェイの知るルイ・レルゼンは、2人いる。

1人は、記憶喪失前の『大悪党』"ルイ・レルゼン"。

彼は災害とも呼べる被害をつくりあげられる程の力を持ち、それで世界を蹂躙し続けていた。

そして、1人は記憶喪失後のルイ・レルゼン。

彼は何もかもを失い、身に覚えの無い罪に頭を悩ませ、もがき、情緒不安定で、ひ弱な存在だった。


「まさか、記憶が...?」


戻った、いや、記憶喪失前の力が再び宿ったのかもしれない。

と、思いはしたがすぐにその憶測は却下する事となった。何故なら、


「うひゃっ!」


再びセグルドによって放たれた黒玉を食らって、ノーダメージのくせにしっかりとビビるのでよろけるルイの姿があまりにも情けないから。


「アレは、記憶喪失後だな、ちゃんと。」


などと勝手にルイに呆れているが、フェイはルイに助けられたのを自覚しなければならない。


「あぁ、クソ。嫌だな...。」


あの時、ルイが村を守らなければ間違いなく村人は滅んでいた。それはフェイの策であり、最終手段として用いた最悪の切り札。

フェイは望んだはずだ、村人の死を。邪魔をしてくる、冤罪の罪をかけ続ける気色の悪い集団の死を。


それでも、自分が虐殺に関わっているとなれば、心に来るものは計り知れない。


ルイが村人を助けたお陰で、間接的にフェイの精神面も和らぎ助けられたのだ。


「いやまぁ、ただの正当防衛ですし...。僕は悪い事をしたとは思ってもいませんが...。」


そう、フェイはあくまで正当防衛をしようとしたに過ぎない。自分の命を守る為に致し方なくやった行動で、そもそも、フェイに殺される理由なんてひとつも無くて、無罪なのにあんな仕打ちをされては騎士などやってられない。


と、行ったり来たりする思考の中で、自身の行動を正当化する自分を俯瞰して見るとまるで、どっかの記憶喪失の『大悪党』みたいな――――



『――俺が何したって言うんだよ!?殺人?街崩壊?戦争?全部知らねぇよ!!何で俺がソレを咎められるんだよ!知らねぇ!全部!ルイも知らねぇ!お前も知らねぇ!"ルイ・レルゼン"なんて知りたくもねぇよ!』



――あれ?なんか、コイツ、見た事あるぞ?


既視感のある醜い人間が居た。

あの時、フェイは『共感覚』を通してではあるが、確かにその目でしかと見届けた。

自分の罪を忘れたかのような物言いに、自分が一番の被害者だと言いたげなその精神。


腸が煮えくり返りそうな感情だった。


今思うと、彼は本当に何も分かってなかったのかもしれない。

記憶を失い、気が付くと世界の敵認定されて訳も分からず殺されかける。確かに、それは可哀想かもしれない。


でも、他人からしたらそんな事は知る訳がなく、知りたいとも思わない。犯罪者の心理なんてわかるわけがない。


そんな風に、フェイは思っていた。

でも、そうか、そういうことか。


「...ルイさん、あなたも...」


――こんな気持ちだったんですね。


理不尽な世界からの攻撃に対して気が気でいられなくなるフェイの姿は、俯瞰して見た時、逆上する醜い犯罪者にしか見えなかった。


それでも、本当にフェイは無実なのに、それを分かろうともしない村人達が腹立たしかった。


でも、それはフェイも同じだったのかもしれない。


魔王城でも、ロード村でも、彼は常に記憶喪失だと言い張り続けてきた。

多分、そこに嘘はないのかもしれない。


ルイは、ルイ・レルゼンは、耐え難い仕打ちを受けたのだ。

何も分からないまま、苦しんで、泣きたくなって、誰にも分かってもらえなくて。


「...」


それでも、世界はそれを許さなくて、"お前は悪人"だと、攻撃され続けてきて、精神はボロボロなハズだ。

誰かを守るとか、助けるとか、そんな事考えている暇なんて、ないはずだ。


なのな、なんで?


『――お前は、セレナを...大事に出来るんだよな?』


貴方は、そんなことが言えるんですか?


貴方、昨日はあんなに取り乱してたじゃないですか。

僕を殺そうとしてた。頭がおかしくなっていた。


「――っ...」


なんで、なんで、



――なんで、この理不尽に耐えられる?


――――――


分かった事は2つある。

1つ、セグルドの再生能力は尋常ではなく、頭を飛ばされても回復可能。正直、傷がすぐ治る系の敵は頭を取れば勝てるパターンが多いので、その勝ち筋を早々に潰されてしまったのはかなり絶望的だ。

しかし、分かった事のもう1つ、セグルドの攻撃がルイ・レルゼンに機能していないという事。


互いに決定打が見つからない完全なる泥試合。

先に敵の攻略法を見つけた方がこの泥試合を制する訳だが、


「如何せん、無理ゲー過ぎる!」


慣れない手つきで剣を振りかざすも、セグルドは避ける気配がない為しっかりと傷を負う。

そして、再生する、を繰り返し続ける。


「だが、剣の使い方を学ぶ良い機会だ。たっぷり、練習台として付き合って貰うぞぉ!」


ルイはこの世界に来て何度か剣を使用しているが、どれも付け焼き刃の即興の剣振り技術だ。

自身の白い剣の真の力を振り絞るには、使用者にも相当の実力が必要になると考えていた。

その為、セグルドというほぼ無敵とも考えられる敵との戦闘という絶望的状況は、良い言い方をすれば絶対に相手が倒れない模擬戦として有効活用しないてはない。


しかも、自分には攻撃が通じないと来た。死ぬリスクも無いため、本当にただの特訓として捉える。


「剣は重い、腕の力だけじゃなく、全身を使って振るった方が良いに決まってる...!」


そう言い、ルイはぎこちなく右足を前に出して、剣を後ろへ振りかざす。


「っとおりゃあ!」


そして、重心を一気に右足へ傾け、剣と共に全身をセグルドの方向へと叩き込む。


――ズサっ!と、手応えのある音がして、咄嗟に瞑ってしまった目を見開く。


「――お、おぉ!!!」


すると、セグルドの身体を頭から腹まで綺麗に真っ二つに割ることに成功した。

しかし、血は一滴も垂れ流れず、一瞬で回復していくのであったが。


「よしよし、斬れ味抜群、威力も申し分ない。次は、連続斬りにちょうせ...って、あれ、抜けね...!ぬおおぉぉ!!!」


自身の剣の才能にドヤ顔を披露したところで、剣が腹に突き刺さったまま抜けない事に気付く。

回復してしまっているので、セグルドの身体と剣が一体化したように思える程くっついている。


微動だにしないセグルドから全力で剣を抜こうとするルイを、セグルドは見向きもしない。


それもそのハズ、なにせ攻撃が通用しないのは今までに無いパターンだったからだ。


――"ガリアーヌ"での戦いの時、奴は僕の攻撃を避けたり受け流したりはしたが、直撃した時はしっかりダメージを負っていた。それがなぜ、今になって攻撃が通じなくなった?


セグルドの記憶だと、前のルイ・レルゼンは今よりも戦闘能力が高く、魔法と剣の才を駆使してセグルドに渡り合える程の実力者だった。

しかし、勝率の期待度で言えば、圧倒的に今の方が厳しい。なにせ、攻撃が通じない。セグルドは戦闘の根本の部分で詰みが生じている事に気付いている。


それに、このまま長引けば、ルイ・レルゼンは気付くかもしれない。

いや、かもしれない、ではなく、間違いなく気付く。

だって、あの時、ルイ・レルゼンは気づいてしまったから。


『――やっぱりな、見つけたぜ、お前の魔法の"弱点"。』


「――っ!クソ、記憶を失ってるとはいえ、ルイ・レルゼンはルイ・レルゼン!脳の思考回路が同じなら、いつかは辿り着く結論だ...。」


記憶と共にセグルドの魔法の攻略法を全て失ってしまったルイ・レルゼン。しかし、攻撃が通じない今、それはセグルドにとって有利に運ばれない。状況は均等と言っていい。それに、同じルイ・レルゼンの脳であれば、再び攻略法にたどり着く。


「それまでに、僕がコイツの攻略法を見つけなけば...!」


「ブツクサとうるせぇよ、サンドバッグは黙ってろ。」


「それは、お互い様だと思わないか!?」


ルイの剣がセグルドの腹に、セグルドの紫の魔法玉が、ルイの顔面に叩き込まれる。


「――ガブッ!!!」


「うぉ、ムム!」


「ふん、鬱陶しい犬だな!」


剣はそのままセグルドの腹を貫通。しかし、魔法の玉の方は横から飛んできたムムによって噛み砕かれる。


「そうだ、このまま刺さった剣をお前の内部で動かせまくって、人肉抉りとってやるぅ!」


「勝手にしとけよ。」


閃いたと言わんばかりのニヤケヅラでルイは剣をセグルドの腹を中心に8の字を描くように肉を抉りとる。

勿論、即再生され表情ひとつ変えないセグルドを見てバカバカしくなり、すぐやめたのは言うまでもない。


「ったく、僕を殺すのは無理なんだよ、いい加減諦めろ。それに、君の犬も本当に邪魔でしかないから、どっか行かせ....」


――待てよ、そういえばさっき...。


この時、セグルド・サターンの脳内で、ある場面がリプレイ再生される。

それは、ルイに攻撃が通じないと判明する前の出来事。


既に、セグルドはルイに魔法玉を何発をぶち込んで攻撃が通じない事は検証済みなのだが、最初の一撃を思い出す。


それは、ルイに見え透いた罠だと言われた"友達作戦"。結果的には両者が尻餅を着く事態に至ったが、あの時、


――あの時は、攻撃が通じていた?


そう思い、セグルドは振り返りルイの胸元を見下げる。


「...ぁ?」


急に見られ、困惑しつつも威嚇してくるルイ、その胸元。


「...やっぱり」


今も尚魔法玉を喰らった代償として赤くなっているルイの皮膚が見えた。


――待て待て、考えろ、なんであの時は通じた?何が違った?


思考を止めない、回転を止めない。今やめてしまえば辿り着かなくなる。ルイ・レルゼンの攻略法に。


「...黒、紫....あ、」


紫の、魔法玉の時、必ずと言っていい程、白い犬はその玉を噛み砕く。

ルイにたどり着こうとする魔法玉を、紫の時だけ、噛み砕く。

黒い玉の時は動く気配すら無かったのに。


「一度目の攻撃も、アッチの魔法玉の時だったな...。」


「...あ?一度目?」


「...」


「な、なん――」


セグルドはムムの居場所を確認し、即座にルイの顔面に再び紫の魔法玉を打ち込む。


「――ガル」


「は」


咄嗟に降りかかる紫の威力に、ルイは目を瞑る。

突然の事で驚いてしまっただけで、攻撃が通じないハズなので、別に痛いことは――



「ぅあああぁぁぁあああ!!!!」


「やっぱりなぁ!!!」


激痛、が、灼熱の痛みが、ルイの顔面を覆った。

劇薬を顔に浴びせられた様に、皮膚が溶ける様な感覚を味わう。

本来の魔法玉の実力が、ルイ・レルゼンの神経を蝕んだ。


――痛い、痛い痛い痛い、痛いっ!なんで、な、んで!効かないんじゃ、無かったのか!?なんで、紫の、痛いが、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


炎が永遠にまとわりついている様な、皮膚が爛れ、顔面の肉が浮き彫りになっている様な、感覚。

実際にどうなっているのかは分からないが、酷い激痛が、ルイを襲う。


「コッチは、効くんだな!」


セグルドは、容赦無く二発目をルイの顔面に再び解き放つ。


「ガルっ!!!」


すると、再びムムが飛び出し、紫の魔法玉を噛み砕く。


「そうか、そういう事か!お前がなんで魔法玉を食べるのか、ようやく分かった!コッチの玉は通用するからか!」


「ガルルル....!!!」


「いだぁい...いったぁい!!!...くっくぅ...!うあぁ...!」


泥試合かと思われていたこの戦い、勝利に大きく近付いたのは、セグルド・サターンだった。



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