23.『光速の中で』
目の前に立ちはだかる黒い壁を見つめて、2人と1匹は棒立ちしていた。
「で、どーするつもりだ。」
「ガルルル...」
「...とりあえず、ムム、お前この結界に噛み付け。なんか変な力でババっと解決しろ。あの黒い影殲滅した時みたいに――」
「ガブ」
今度は目の前が黒い壁から、黒い世界に切り替わった。随分と不思議なことが起こるものだ。やはり異世界は面白――
「いたたたたたたたたたた」
「ガブ、ガブ、」
「...ムムに何でもかんでも出来ると思うな、調子乗んな、って事だろ。」
「だからっていきなり、丸呑みすん、って、いたいたい!マジで死ぬ!」
どうやら黒い世界の正体はムムの口の中だった。
「ベタベタする。」
「食い殺されなかっただけでも感謝しとけよ。」
「ガルルッ!」
顔が唾液まみれになったところで、やはり解決策は見つからない。
黒い結界は今も尚、2人と1匹を通さんとして、そびえ立ち続けている。
「しっかし、よく出来てるよなぁ。これ一つ一つ魔力で出来てるんだろ?」
そう言って顔を近づけ見る、結界の内部でウネウネと動き回る黒い粒子達。
「...ありえない。」
「え?」
そう言うのは、ルイの隣で同じく、動く粒子から目を離そうとしないダールだった。
「これ、本当に一つ一つ魔力出できてやがる...!頭、おかしいんじゃねえのか!?」
「え、何?普通とは違うの?」
"結界"というのは初めて見たが、魔力で作られる壁みたいな認識であったため、特段この結界がおかしいとは思えなかった。
だって、普通に魔力で作られている様子だし、何をそんなに驚くのか。
「ありえねぇだろ!結界を、魔力で作り上げる!?そんなの常人がやれる事じゃねえ!」
「待て待て、わけがわからん。結界だって、魔法みたいなもんなんだろ?なら、魔力で作られてるに決まってるだろ。」
「そりゃ、どんな結界だって大元は魔力だ!それは揺るぎない!」
「じゃあ、何を...」
「...結界術は、高度な魔法。広範囲の場所を自身の手で掌握するイメージ、球体の檻を作るイメージなんだけど、基本的な結界術はある程度の骨組みに魔力を流せば出来る。だが...これは、骨組みも何も無い、ただ魔力を積み重ねてる。」
「...つまり、めちゃくちゃ非効率ってこと?」
「そうだ、非効率過ぎる。魔力の無駄遣いにも程がある。だが、それだけに利点もあるな...。穴がねぇ、普通の結界よりも魔力が大きいんだから当然かもな。」
それは、つまりお手上げ状態ということになるのではないか?と、ルイは思いため息をついた。
ロード村で起こっている事はダールからしか聞いておらず、しかとこの目で確かめておきたかったのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「しっかし、魔法ってのはやっぱり面白いなぁ。こんな結界だってすぐに作れ――」
この世界では当たり前なのかもしれない魔法の異様さに改めてルイは感心する。その証拠として魔力で作り上げられた結界に手を伸ばして触れてみせる。
しかし、奇妙な事が起こる。
ルイの手は、結界に触れることなく、そのまま素通りしたではないか。
「...あれ、結界って入れないって訳じゃないんだ。」
ここで発見。結界というのはどうやら外から入れないという訳でもないらしい。恐らく、中から外に出さない為のものであって、外から中なら簡単に入れるのだろう。
「よし、じゃあ入るか。」
と、ルイが意気揚々と言った時だ。
ダールの表情が驚きを隠せていない様子であった。
「...ま、て。まてまてまて!はぁ!?おい、どういう事だ!?」
「っ!な、なんだよ!いきなりデカイ声出すなよ!ビックリするだろうが。」
「ビックリしてんのはこっちなんだよ!どういう事だ!なんで結界入れてんだお前!」
「えぇ...?普通、入れないの?」
ここで発見。どうやら結界は普通、侵入することも出来ないらしい。
「そりゃ、実力者なら結界を破壊する事も出来る。だが、どう見ても力の無いお前と、破れる気配の無いこの結界じゃあ、お前が素通り出来てる事実に納得いく訳ねぇ。」
「っつーことは、俺が異常ってことか!?」
「何嬉しそうな顔してんだよ。」
ルイは頬を赤く染めてウキウキした表情を隠しきれなかった。
なにせ、この世界に来てようやくやってきた――
「俺TUEEEE展開っ!!!そーだよ!これだよこれ!俺だけが、この世界の理から外れる存在として、異世界転生者の特権が、必要だったんだよ!」
待望の、特異体質イベント遂に発生。
通常不可能とされている結界の素通りを容易くこなしてしまったルイには、恐らくこの世界に転移した時に何らかの特典が着いてきたと考えていいだろう。
この世界の常識から外れることの出来る...それは、
「まさか、俺には魔法を無効化する力とかが...!」
「まぁ別に結界術を解読して破壊や素通りする奴はいるっちゃいるか...。記憶ねぇお前にも、"ルイ・レルゼン"の一応潜在能力的なのはあるからな...。まぁ納得するしかねぇか。」
んだこいつ、勝手に驚いて勝手に納得しやがった。こっちの思考を弄んでるようにしか思えない。
「なんで悲しそうにしてんだ?」
「別に。」
無念の表情を浮かべるルイに、ダールは首を傾げる。
何だかやるせない気持ちになりつつも、ルイはため息をついた後、作戦を語る。
「とりあえず、俺は入れるわけだから中の状況確認して来る。出来れば結界も壊すから、その後合流って感じでいいか?」
「分かった、ちゃんと無茶しろよ。出来れば死ぬくらいの勢いで。」
「俺への本心隠せてないぞ。」
「隠すつもりねぇよ、クズ野郎。犯罪者、大悪党。」
と、信頼を得られたと勝手に勘違いしていたため、そのままド直球な罵詈雑言(ただの事実)を浴びせられて凹むルイであった。
「だが、ジュエリーに関しては協力してやる。そこは本当だ。信じろ。」
「わーった、わーった、ありがとさん。とりま、行ってくるから、ムムの世話たの――」
「ガルル...」
ルイが向けた視線の先には、身体の上半身半分を既に結界の奥へと入れて、結界内部への突入準備万端の様子のムムが居た。
「お前も入れんのかいっ!!!!」
結局、ルイに特殊な力があるという展開ではないことを確信して、一人と一匹は、結界を素通りして内部へと突入していく。
その様子を、ダールは見届けるしか無かった。
「...頼んだぞ、クソ兄貴。」
――――――
結界に侵入してすぐだった。異変に気付いたのは。
――さっきから、人の気配が全く無い。ここに人が住んでるのか!?
侵入したはいいものの、人の気配が全く無い村に対して、ルイは少々困惑気味になる。
時間にしておよそ12時間ぶりのロード村な訳だが、昨日と比べるとやけに静かだった。
「まさか、フェイの所に集中してるんじゃっ!?」
ダールの話だと、ジュエリー殺害容疑でフェイが追いかけられている状況。そして、既に場所も特定されていると聞く。そうなれば、村の人々もそこに集中するのは当然の話だ。
「ったく、世話が焼ける騎士だ。...ん?」
やれやれと、フェイに対しての気持ちを言葉にした所で、ふと、引っかかったことがある。
「...つか、なんで、俺は、今まで」
どうして、気づかなかった。
彼女と別れてから数時間。
最初はただ迷子になってるだけだと確信していた。
そして、ダールがやって来た。
ダールに色々と説明されて、村の状況を知った。
だから、ここまでやってきたが、
そもそも、彼女がこの村に向かった理由は、
「...おい、待て、セレナは無事だろうな?」
どうして気付かなかったのだろうか。セレナが危ないかもしれないという事態に。
「やばい、フェイと一緒にいるのか?だとしたら、やばいじゃん!一緒に殺されちまうかもしれねぇ!」
いてもたってもいられなくなり、ルイはロード村を全利息力で駆け巡った。
すると、ある地点が以上に光っていることに気付く。
「ん?黒い、玉?」
黒玉、その表現で合ってるのかは分からないが、丸い黒色の球体が、村のある地点で浮遊していた。
魔法の世界でも異常な光景だと思った。
禍々しく、まるで、村を滅ぼそうとしているかのような魔力を込めていて――
「ぁ?」
腑抜けた声を零した時には、黒い玉が地上目掛けて解き放たれた。
「ちょ、待て!何だか知らねえが、アレは流石にマズイだろ!」
「ガルル...」
「ムム!背中乗せてくれ!そんで、あそこまで全速力で、って、うぉっ!」
ムムに背中に乗せるよう頼もうとしたと同時に、ムムは大きな身体をルイの足元まで下げて、力づくでルイの身体を軽々と自身の背中へと乗っけた。
「ガル!」
「言われるまでもねぇってか...!よし、頼んだ!」
「ガル――」
「え、早――」
刹那、一秒にも満たないスピードの中で、ルイ・レルゼンの身体は音速を超える、光速の中に辿り着いていた。
突如として白くなった世界に、ルイは混乱しつつも、その原因であるのは、下にいる獣であることはルイでもわかった。
一瞬の中を、駆け巡る中で、ルイは自分が光速の世界に居ることを理解していた。理解出来ていた。
まるで、これは、異世界に飛ばされた時と同じ様な――
「この小さな村ごと滅べ!クソ騎士!!!」
「―――」
突然、雑音が耳に届く。
それと同時に、ルイの脳内で電撃が走る。
「...止めろ、ムム。ココだ。」
世界になを轟かせる『大悪党』ルイ・レルゼン
世界の悪という象徴『新魔会』セグルド・サターン
両者の魔法の特性により、決着がつくことの無かった戦い、"三カ国戦争"ガリアーヌ帝国での戦い以来、ついに、2人は再会を果たした。
――――――
「第一村人発見」
「...誰だ、お前。」
黒い結界を前に、2人の男が睨み合う。
正確に言えば、睨んでいるのは片方だけだ。
もう片方の男はひょうしょうとした態度で男に近づく。
「そーんな怖い顔すんなよ、少年。俺ぁただの正義の味方、セリシア騎士団ですよー。」
「...騎士、騎士がこの村に何の用だ?」
「いやいや、ちょっと"ルイ・レルゼン"が出たって聞いて援軍でね。それが来てみたらなんかえらいこっちゃになってて、大変大変。今はぶらりと歩き回ってる最中よ。」
「そうか、"ルイ・レルゼン"なら中にいるぞ。」
「ありゃ、何か知ってそうな奴だな。」
「そりゃ、さっきまで奴と一緒に居たし、俺はこの村の人間だ。色々知ってるさ。」
「へー、興味深い。なら、一個質問なんだけどさ」
「ん?」
「ミレイル・レルゼンって、知ってる?」
男はニタリと微笑み、質問をした。




