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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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19.『レルゼン家の崩壊 中』

"ルイ"が、グレた。

元々人付き合いを得意としていなかったのもあるが、"ルイ"の性格は成長するにつれて曲がっていき、何に対しても当たる様な危なっかしい正確になっていった。


「お兄ちゃん、今日は何を――」


「話しかけんな。血も繋がってねぇのに兄妹ヅラすんなよ。」


噴水広場でそんな冷たい言葉を、ジュエリーに投げかけ、今日もルイは一人で森の中へと歩いて行く。

徐々に、ルイとロイが二人一緒に居ることは無くなり、最近は殆ど別々に行動している。


「...」


「ジュエリー、大丈夫か?」


「あ、ダール。うん、平気平気、今お兄ちゃん反抗期だから。」


「完全に親目線じゃねえか...」


ひどいことを言われたのにも関わらず、相変わらずケロッとしているジュエリーの寛大さは流石と言うべきか。

当の本人であるジュエリーが笑っているというのだから、外野であるダールがとやかく言うことでもない。本音を言えばボコボコにしたい所だが。


「そういや、今日はロイ兄貴は何してんだ?」


「あ〜、ロイお兄ちゃんは...」


ダールの質問に対して、ジュエリーは苦笑いをしながら応える。





「だーかーらー!ロイ!お前何度言ったら分かるんだ!もっと魔女が苦しんでるような飾り付けをしろと言ってるのだ!」


古びた石像の前で怒鳴り声を上げて怒るのは、ロード村の村長 ハルルグだった。


「だーかーらー!さっきからそれどんな飾り付けの事言ってんだぁ!ジジイが飾った花と同じ赤の花だろ!何が違うっつーんだ!」


「何を言うか、全然ちゃうわ!ワシが飾ったのは赤の花"ネパイル"!花言葉は"地獄の業火の苦しみ"という意味だ!お前が飾ってる赤の花は"アルパ"花言葉は"美しくて神秘的で凄くて可愛くて強くて立派で神秘的でめちゃくちゃすごい"という意味だ!」


「同じ色の花で意味違いすぎだろ!つか、アルパの花言葉なにそれ!?絶対IQ低い奴が考えた花言葉だろ!語彙力皆無だし長すぎるし"神秘的"2回入れちゃってるし!」


「やかましい!とにかくそんな花は魔女には似合わん!そんなモン飾るぐらいならその辺の雑草飾っとけ!」


「それのどこが飾り付けになるんだ!クソジジイ!」


少年とジジイの言い争いの雄叫びは、村全体に響き渡る声量で繰り広げられ、辺りの大人達は呆れた目線を送り、装飾をする子供達はケタケタと笑っていた。


「いつ通り...こんな感じ。」


「はは...」


と、子供ながらに大人達同様の呆れた目線を送るジュエリーの言葉にダールは苦笑いしか出来なかった。


「うーん、『祝滅日』くらいはルイの兄貴もハメ外してくれると思ったけど、やっぱりダメだったか。」


「うん...去年まではロイお兄ちゃんと楽しんでたんだけどね。反抗期って怖いよね〜。」


随分とあっけらかんとしていて、彼女の器は寛大だと改めて思う。


「まったく...まぁ、あっちの方がただバカなだけだから扱いやすいんだけどね、ルイお兄ちゃんは反抗期だから言う事聞いてくれないし、連れて行こうとしたらまた殴られちゃうし。」


「また!?おい、ジュエリー...お前ルイ兄貴に殴られた事あんのか?」


「へ?兄妹だしそれくらい普通なんじゃないの...?」


本気で疑問に思っているのか、ジュエリーはダールの発言に対して首を傾げる。

どうやら殴られることはしょっちょうありそうな雰囲気だ。


「いやいや、は?妹だぞ!?有り得ねぇだろ...!」


「そ、そうかなぁ?」


「ジュエリー!目覚ませよ!おかしいぞ、それ!」


「は、はい!」


必死に彼女の肩を揺さぶり、ダールは開いた口が塞がらない。


「冗談じゃない。妹を殴る?とんだバカ兄貴だ。待ってろ、俺がボコボコにしてくる。」


「ちょ、ダール!いいって!私全然気にしてないし、ダールも殴られちゃうよ!」


「ジュエリーが気にしてるかどうかじゃない!これは俺がやりたいからやるんだ。俺だって勇者目指して日々鍛錬してんだ。簡単に負けるもんかよ。」


ダールはそう言いながら、ルイが向かった森の方向まで歩き始めた。


ジュエリーの事を好いているからここまでしている、というのもあるにはあるが、それを差し引いても妹を殴る兄など許していられない。

正義感の強いダールとしては一発報いを入れなきゃ気が済まないのだ。




「...あ?んだよ、お前。」


緑の森の中で、一人黙々と剣を振るう白髪の少年が、ギロリとコチラを睨んで来た。


「...ルイ...兄貴..アンタ、ジュエリーを殴ってるらしいな?」


「ぁ?別に今日は1回しか殴ってねぇが?」


何がおかしい、とでも言いたげなその表情にむかっ腹が立ったのは言うまでもない。

ダールは握った拳を更に強くし、ルイを睨み返す。


「兄貴として、恥ずかしくないのか?ジュエリー

寛大さに甘え続けて、そうやっていつも人間関係から逃げやがって...!」


「...外野のお前にとやかく言われる筋合いはねぇが...。そうだな、俺も更生する時が来たのかもな。」


「え...」


やけにすんなりとダールの言い分を飲み込み、ルイは強ばった表情を緩めた。

その意外な反応にダールは困惑する。


「ジュエリーに謝ってくる。アイツの元まで案内してくれないか?」


「...やけに、素直だな。」


「お前が教えてくれたんだろ?兄貴としての筋みたいなもんを。ちゃんと反省したっていう証拠だよ。」


「...わかった、じゃあこっちに...」


ルイを案内すべく、ダールが村の方向を振り向いた直後だった。


「バカかお前は。」


冷たい冷酷な声が、背後から聞こえ――



「――っ!?」


低い重低音が鼓膜に響き、頭に激しい衝撃が伝わってきた。

一気に全身に電撃が走ったような感覚を味わい、ダールはその場で倒れてしまう。


「....な、...なにを....」


真っ赤に染まる視線の先には、赤い血に染った棍棒を握るルイの冷たい目線があった。


「ぅ....」


信じられない激痛が全身を走り、完全に意識が途絶えようとする。


「ガキが俺に指図するなんざ、100年早ぇ。俺は人間関係から逃げてるつもりはねぇし、俺のやった事に間違いがあるなんて微塵も思ってねぇ。」


――クソ、やっぱり...この男は....クズだ



ダールはその場で意識を失った。


――――――


「....ん」


瞼を開けると、薄暗い照明がダールを照らしていた。


「ここは...いっ........」


上体を起こすと同時に首から腰にかけて激しい激痛が襲って来た。どうやら正常な動きは出来ないようになっているらしく、ダールの身体は異常事態になっていることが分かった。


「起きたかよ、ダール。」


「...ニックス、ここはどこだ?」


ヒョイと顔を覗かせて来たのは幼馴染であるニックスだった。


「レルゼン家。森で倒れてたお前をジュエリーが運んできたんだ。かなり重症だったらしいぜ、何で生きてんだよ。」


「知るか、親父の影響じゃね?」


「あ〜、冒険者だもんな。子供のお前も頑丈に育ちましたってか。」


ニックスがケラケラと笑いながら包帯まみれのダールに語りかける。

そんなニックスの反応にもう少し心配しろよと言ってやりたかったが、ダールが気にしてるのは今は、


「ジュエリーは...どこいった?」


「んなもん、言わなくてもわかるだろ?」


「...まさか...」


例えば、自分の為に駆け出した人間が、そのせいで怪我をしたのなら、自分はどうするか。

ダールなら申し訳なさで胸がいっぱいになる。ダールでさえ、そうなる。

では、人一倍優しい少女がその状況に置かれたら、どうなる?


「どこだっ!ジュエリー...いや、ルイはどこだっ!?」


「...森の中だよ。」


ニックスの返しを聞いて、激痛を無視してダールは森へと駆け出した。


――――――


「しつけぇんだよ!離しやがれ!」


「ぜっだい!はなさない!!!ダールにあやまって!!!」


鼻血を出しながら、兄であるルイの服を引っ張り、怒鳴り声を上げるジュエリーがいた。

服はボロボロで、何度も殴られた形跡があり、見るに堪えない姿になっていた。


「なんで、俺が謝る?アイツが首突っ込んで来たからこうなった。アイツの自業自得だろ?」


「ダールは私達家族の事を思って行動してくれたのよ!?そんなダールにあんなことするなんて許せるわけないでしょ!」


「だから!それはあいつが勝手に!」


「それでも!謝って!!!」


喉が張り裂けそうになるくらいのしゃがれ声が、森に響き渡る。


ダールは唇をプルプルと震わせながら、奥底から燃え上がる感情に、今にも気が狂いそうになった。


「...やめて、くれ...」


怒りなのか、悲しみなのか、分からないけど、ただ今、ダールが率直に思っているのは1つだけだった。


「...っ!もう、やめてくれ!!!」


これ以上、ジュエリーを傷付けないで欲しかった。


「ダール...!」


「...んだよ、また首突っ込みに来たのか?」


「どうしてなんだ!どうして、アンタはそうやって人を傷つけることしか出来ないんだ!?」


ダールの言葉に、ルイは黙ったままだった。


「俺は、ただ...アンタらには、ずっと、幸せでいて欲しかった...俺は、ただの傍観者でも、良かったのに...」


「ダール...」


月の明かりが暗い森の中へと差し込まれ、ルイの表情が徐々に見え始める。

きしむ身体を支えながら、ダールは彼の言葉を待つ。すると、ルイは語った。


「――あぁ...ダメだ。」


「...へ?」


月に反射されたルイの顔は、恐ろしかった。


目が見開き、血管が暴発しそうなくらい頭に血を登らせたその表情と、彼が手に持っていた小刀は、ダールのトラウマとなった。


「なにを...!」






「――この世界でも、ダメだったか。」


「っ!?」


「逃げてっ!!!!!ダール!!!!!!」


ジュエリーが叫ぶと同時に、ルイか地面を蹴り上げ、ダールの元までひとっ飛びでやってくる。

小刀を向け、ダールの顔面目掛けて。


「ぁ...」


飛んで来るルイに対して、ダールは動揺しているだけで、何も動けずにいた。

尖った先端が、ダールの眼球をえぐり出そうとした、その時だった。


「...ぇ」


キンッと、目の前で金属の音がぶつかり合う音がした。瞬時につぶった目を開きながら、ダールは目の前の現実を直視する。すると、そこには意外な光景が映っていた。


「――やっぱり、俺はお前が全く理解出来ねぇよ。ルイ。」


「...ふん、同感だ。ロイ、俺もお前が理解出来ない。」


「「双子なのにな。」」


「...ロイ兄貴!」


ダールとルイの間に割って入り、小刀を小刀で受け止めたのは、ロイ・レルゼンであった。


「んで、どういう状況だこりゃ。なんでダールを殺そうとした?なんでジュエリーがボコボコだ?」


「...ソイツは殺しても構わないと思ったから。ジュエリーは、ただの教育だ。」


「...言い合いすんのも馬鹿らしいか。ルイ、どうやらお前に本気で向き合わなきゃいけない時が来たのかもな。」


「黙れ、テメェのそういう善人ブってる所に反吐が出る。もういいだろ、向き合わとか、そんなもんはもうどうでもいい。」


2人はお互いに距離を取り合い、鋭い視線を交わす。


「よく聞け、ロイ...」


「...」


ルイが森の奥へ振り向き、背中越しにロイへ語りかける。


「俺は、そろそろ獲りに行くぜ、"魔王の首"。」


「っ!おい、待て!まだ早いだろ!」


ルイが森の奥へと歩いていくのを、ルイは必死で止めようとする。


「待って...お兄ちゃん..!ルイお兄ちゃん!」


ジュエリーも、ボロボロになった身体を引きずりながら、ルイの後を追おうとする。


「着いてくんな。」


二人を一蹴したその一言は、今までの日常とのお別れの一言と捉えてよかっただろう。

もう、決して止まることの出来ない、ルイ・レルゼンの悪の道。


「...ジュエリー、ロイ」


「...お兄ちゃん」


「...ルイ」


二人の目を見て、ルイは一言だけ呟いた。


「――――」


その言葉は何だったのか、遠くにいたダールには聞くことが出来なかった。



そして、ルイは森の奥へと再び歩いて行く。


ルイ・レルゼンは、その日以降、ロード村に帰ってくる事はなかった。



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