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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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20.『レルゼン家の崩壊 下』

次の日の朝、ダールはレルゼン家を訪れたが、玄関の扉が開く事は無かった。

ジュエリー、ロイは勿論、母親であるミレイルすらも、家の中には居ない様子。


「...探しに行ってるんだろ、ルイを。」


隣でそうぼやくニックスにダールも首を縦に振った。


「やっぱり、そうだよな...。どこまでいってもアイツらは家族なんだ。そう簡単に見切りをつけれる訳がない。」


「ここから先はいよいよ家族の問題だ、俺達が出る幕じゃないよ。ダール、今日はもう帰ろうぜ。」


「...でも、ジュエリーが心配だ。」


「ジュエリーだけかよ?」


「そりゃあ、ロイ兄貴もおばさんを心配さ。でも、一番は...」


「あいあい、分かってるよ。」


ダールのジュエリーに対する好意は村中の誰もが知っている事であり、今更茶化す者は居ない。

気付いていないのはジュエリー本人のみである。


苦しい顔をするダールの横顔を見て、ニックスはため息混じりに言う。


「もうさ、お前がルイ兄貴の代わりになればいいんじゃね?」


「簡単に言うなよ。アイツらの関係を超える事なんて無理な話だし、そんなの俺だって望んじゃ居ない。」


ルイという最低な兄貴が消えたのは、傍から見れば鬱陶しいウジ虫が消えたぐらいに思えるが、家族はそうはいかない。そして、完全な外野でも家族でも無い間柄のダールとしては、かなり複雑な心境であることは確かだった。


居なくなってくれてジュエリーの安全が確保されたのは喜ばしい事。それと同じくらい、ジュエリーの心に穴が空いてしまう可能性がある。


ダールは、知っているのだから。あの笑顔を。


「俺には、アイツを幸せには出来ないんだよ。」


ジュエリーを幸せにさせられるのは、この世でたった2人の兄しか居なかったのだ。


「失恋で浸ってる所悪いけど、」


「浸ってねぇよぉ!って、いってぇ!」


「あんま動くなよ、まだ絶対安静なのに歩いてる時点でおかしいんだから。」


「...うるせぇなあ、なんだよ。」


「ジュエリー達の帰還だ。」


ニックスがそう言いながら、森の方向を指さした。


「...」


薄暗い表情を浮かべて、重い足取りで森から帰還したのはジュエリーとロイ、そして母であるミレイルであった。


昨夜の攻防の残骸を見下しながら、ジュエリーは進む足が遅くなって行った。


「ジュエリー...!」


「あ...ダール。おはよう...身体は大丈夫?」


「俺はへーき...それで、ルイ兄貴は...?」


ダールに気が付き、精一杯の微笑みを作るジュエリーに心が痛められる。

ハリボテの微笑である事は分かりきっているが、それでも、ダールに心配をかかまいとしようとしている彼女の優しさが伝わる。


ジュエリーは、ダールの言葉に静かに首を振りながら応える。


「...見つかんないや。大丈夫、きっと2、3日したら戻ってくるよ。そういうお年頃なんだよ、きっと!」


「ジュエリー...」


心が痛む。

どうか、そんな顔をしないで欲しかった。


目元にある赤い擦り跡は、沢山泣いた確かな証拠だった。


「ダール、本当にごめんね...ルイのせいでそんな身体になってしまって。」


そう言ってきたのは、同じく精一杯の微笑みをする、母親ミレイルであった。


「い、いえ、僕は大丈夫です!と言うか...すいません、僕が余計な事したせいで...」


「ダールのせいな訳ないでしょ!そんな顔しないで!ほら、ダールもウチで朝ごはん食べてこ?」


痛む首筋を全力で曲げてお辞儀をするが、その頭を優しく撫でて、ジュエリーか優しく言ってくる。

決して、ダールのせいではないかもしれないが、それでも、ルイが家出をしたきっかけを作ってしまったのは事実であり、そこにダールはずっと煮え切らない思いをしていた。


ジュエリー言葉に救われたとは決して言えない。やはり自分が首を突っ込んだからこんなにもややこしい事態に発展してしまったのかと思ってしまう。


「ま、考えてても仕方ない。とりあえず飯食おうぜー。」


と、能天気な喋り方で誰よりも早く玄関に足を進めるのは、ロイであった。


ケロッとした表情で頭で腕を組みながら歩くその後ろ姿からは、ルイへの心配が微塵も感じられず、ダールは少し困惑した。



一晩中森を探したレルゼン家の成果は、"ルイ"が何か大きな決断をして、人生を決めたという事実だけがわかった事だった。


"ルイ"の気配は無く、魔力の残穢は遥か彼方まで進んでおり、追跡が不可能な程の距離だった。


ジュエリーは兄を一人失った。


ミレイルは息子を一人失った。


"ロイ"は、"自分と半分の存在"である、兄弟を失った。



家の中でポツリと、ロイは呟く。


「...冗談じゃねぇ。次こそ、やってやるって、決めたんだ。」


誰にも聞かれないその一言は暗い玄関で呟かれた。


――――――


ルイがロード村を去ってからしばらくの月日が流れたが、意外にもこれといって大きな変化は特に無かった。


ジュエリーとミレイルは最初の内はかなりショックを受けて家から出る事もままならない状態だったが、時間が経つにつれて徐々にいつもの2人に戻っていった。今ではジュエリーの笑顔もよく見られるようになった。


そして、ロイに関してはまるで知ったこっちゃないと言わんばかりの態度で不自然な程いつも通りだった。

ルイがロード村を去った直後からその態度だった事に対してダールは若干不気味に思える程だった為、一度聞いてみた事がある。


「ルイ兄貴の事、心配じゃないのか?」


夕日が落ちていき、オレンジに染まるロード村を一望しながら、草原で二人は語り合う。


「んー?別に。アイツは自分なりにやるべき事見つけたんだよ。それにとやかく言うのはいくら兄弟でも違うと思うからなぁ。」


「...そうか。」


――そういう話なのか?


と、言いたい気持ちを堪えたが、どうやらロイはあまり気にしてない様子だった。


「それで言うと、ロイ兄貴はあんのか?」


「ん?」


「やるべき事、ってやつだよ。ルイ兄貴言ってたじゃん。"魔王の首を獲る"って。ロイ兄貴もそうなんじゃないの?」


そう、ダールが聞いたルイとロイの会話、あの森の中でロイは確かに言っていた。


「ルイ兄貴の言い方的に、ロイ兄貴も目指してんじゃないのか?"魔王討伐"。」


「...あぁ。そうだよ、確かにそうだ。」


「...行かないの?ロイ兄貴は。」


「...一緒に、夢見てたんだ。魔王を倒そうって。今よりもっとガキの時にな...。でも...」


ロイの顔が分かりやすく曇る。

眉間にシワがより、今にも目から水滴が零れ落ちそうになる。


「でも?」


「...俺は.....俺は、まだ.....れ――」


ロイが何かを言いかけていた時、ロイの背後から小さな手がぎゅっと、ロイの身体を包み込んでいた。


「...ジュエリー、なんでここに。」


「ごめんね、ダール。お話遮っちゃって。でも、お兄ちゃんも色々大変なんだと思うの。だから、今はそっとしておいてあげて。」


「...ジュエリー、苦しい。離せー。」


「ふふー、あと少しで泣き顔見れそうだったのに止めてあげたんだから、これくらい我慢しなよー。」


と言いながら、ジュエリーはロイの身体をまた更に強くぎゅっと抱く。


「...はは、そうだな。ごめん、ロイ兄貴。余計な事聞いたな。ロイ兄貴はロイ兄貴なりにルイ兄貴の事考えてたんだもんな。」


「んだよ、ダール。お前まで俺の慰め係になろうとしてんな?舐めるな!お兄ちゃんは泣きません!お兄ちゃんはちゃんとお兄ちゃんなんだから、勘違いしないでよね!」


「意味分かんねーし、何その言い方、男のアンタがやるとなんか気持ち悪いぞ。」


「これは"ツンデレ"と言うやつだ。テストに出るぞ。」


「意味分からん。」


結局、そんな感じで有耶無耶な話になったが、まぁ、ロイもロイで一応考えてはいたようだった。

しかも、割と本気で、かなり深刻な面持ちで。

それ以上は本当に家族の問題な気がして、ダールも足を踏み入れ無かった。


そんなこんなで、日は経って行く。


――――――


『アバドン魔術学院 学生殺害事件 容疑者として、勇者ルイ・レルゼンが浮上』


早朝の新聞に、大々的に書かれていたのは、その記事だった。


ルイが勇者として名を上げていたのは聞いていた。

しかし、大きな成果を挙げることは無く、ただ何となく勇者をやっている、という噂程度の認知度だった。


だが、この記事でその全てがひっくり返る。

ただの捏造では無く、しっかりと白黒写真で血に染まったルイの姿が写っていた。


「...ジュエリー!!!」


いつものようにミルクを飲みながら新聞に目を通していたダールだったが、この記事を読んで一番に頭に浮かんだのはジュエリーの事だった。


パジャマ姿である事等気にすることなく、ダール家の扉を荒々しく開けて外に駆け出す。

向かう先は一直線、レルゼン家だ。


「こんなの、やばいに決まってる...!ジュエリー...!」


心優しいジュエリーの精神が崩壊してしまうかもしれない。消えた兄が大罪人になってしまった事実を知ったら、ジュエリーはどうなる?


いてもたってもいられないダールはとにかく走り続けた。


すると、噴水広場で集まるみんなの姿。


「な、何してんだ?こんなに集まって...。」


「お、ダール。お前見たかよ、今朝の新聞。」


人だかりの中で能天気なこの男、ニックスに話しかける。


「見たに決まってんだろ!ジュエリーは、ここにいないのか?こんなの、ジュエリーが見たら――」


「もう、見たよ。」


「っ!?」


背後から聞こえてくる、聞き馴染みのある声。

ジュエリーが立っていた。


「...ジュエリー、その...なんて言うか...」


「...ダール、今朝ね...新聞を見たら、お母さんが倒れちゃったの。」


「ぇ」


ジュエリーの声は淡々としていて、まるで感情が無い機械の様な話口調だった。


「ショックを受けてね、私も倒れちゃいそうだった。」


「...それは、その......」


かける言葉が見つからなかった。

こんな時に気の利く一言も言えない自分に対して嫌気が指し、ダールは顔を曇らせるしかなかった。

そんなダールの肩に手を置き、ニックスが割り込む。


「でも、もっと衝撃的な事が起こったから、ジュエリー、お前は倒れてる暇なんか無くて、今ここに居るんだろ?」


「...えぇ。」


「ん?ど、どういうことだよ。」


2人の会話がイマイチピンと来ず、ダールだけが置いてけぼりになる。

どうして衝撃的な事が起こったとニックスは言い切れるのか。

そして、何故それがここに居る理由と繋がるのか。


「ロイお兄ちゃんが、家を出た。」


「......は?」


困惑。それしかダールの頭には無かった。


「そんで、ロイの兄貴を探して走り回ってたと?そんな所か。でもまぁ、ロイ兄貴が家を出た理由は大体察しがつくくね?」


ニックスだけが、冷静に話し続ける。

ダールは頭の中がてんやわんやでもう聞くだけで精一杯だった。


「...うん、手紙が置いてあったの。」


「...それは、どういう?」


ダールがそう言うと、ジュエリーはすっと小さな紙を2人の前に出した。

そして、そこには小さな文字で荒々しくこう書かれていた。


『俺がルイを必ず連れ戻す。それまで、待っててくれ。ジュエリー、母さん。』


「....」


それは、兄弟としても責任なのか、ロイの確固たる意思が、ロイを動かしたのかもしれない。

そして、その行動は決して間違いではないのかもしない。悪の道に染まろうとする兄弟を止めようとするのは、普通の思考だ。


でも――



「...ジュエリー」


虚ろな目に浮かぶ、一粒の涙が、ダールの心に突き刺さった。


ロイの行動は良い事かもしれない。

でも、妹にこんな顔をさせてはいけないだろう。


1人の兄を失い、母は倒れ、最後にお前までジュエリーを置いていったら、一体誰がジュエリーを...


「ジュエリー、丁度いいところに来た。ちょっと聞いてくれるか?」


噴水広場の中央から、人混みを退けて歩いてくるロード村村長ハルルグ。

彼は神妙な面持ちでジュエリー近づき、ゆっくりと腰を屈めて話した。


「これより、セリシア騎士団がロード村にやって来る。ルイの故郷として、調査にやって来るのだろう。色々とルイについても聞かれるかもしれない。」


「...」


「...ワシらは、その調査に全力で協力するつもりだ。...はっきりと言おう。ワシらは、"ルイ・レルゼン"を"罪人"として扱う。」


「...!」


「...すまない、だがこれ以上被害が出たらロード村としても、何よりお前達レルゼン家の名が悪に染まってしまう。だから、どうか分かってくれ。」


ジュエリーは村長の言葉をただ真顔で聞いているだけだった。右から左に聞き流してるだけのようにも見えた。


「...クソッ」


ダールは何も出来ない。

何も変えられない。


結局、ジュエリーはそれから笑顔を見せなくなった。



――――――


ジュエリーは、変わったと誰もが言う。


「前は天真爛漫な女の子だったんだけどねぇ...でも、仕方ないわよね...」

「俺はどんなになっても、アイツには優しく接するぜ。」

「ちょっとでいいから、もう一度あの子の笑顔が見たいよ。」

「また、あの2人の兄の間に挟まれて大笑いするジュエリーを見たいよな。」




確かに、前よりかは笑顔が少なく...いや、無くなった。

でも、それでも、


ジュエリーは、変わってない。


まだ、ジュエリーは――



――――――――――――――――――――――


「何とか言えよぉ!!!!ルイ兄貴ぃぃっ!!!!!!」


雄叫びは草原に響く。


白髪の勇者と、白い大狼はぐっと、力を込めて構える。


「お前の、せいでぇ....ジュエリーはぁ!!!!!!」


ダールが剣を握り締めて土を蹴る。

涙を零しながら風を切る少年の顔は、悲しそうだった。


「ガルルファア!!!!」


ムムが大きく口を開けてダールの飛びかかる。

噛み砕きそうな勢いで飛び出すムムの後ろ姿を見て、ルイは、歯ぎしりを立てて叫ぶ。


「っるえせええぇええ!!!!!!!!」


「――っ!」


「ガルっ!」


ビクッとなるダールとムム。

大声の発信源であるルイを見つめて、唾を飲み込む。


「ゴタゴタうるせぇ、テメェは俺を殺したいのか?ジュエリーを助けたいのか?どっちだよ。」


「テメェがなんでそんなこと...」


「どっちだよ!」


「...ジュエリーは、もう、死んでんだよ...!」


「それは、確実な情報なのか?本当に確定した事実なのか?」


「...いや、それは」


ダールが聞いた情報によれば、かなり危うい状態で教会に向かっており、現代の魔法技術では治癒不能の毒を患っている。


でも


「...まだ、確定はしてない。」


「まだ、助かる!助けられる!取り戻せる!」


「...」


「こっち来い、クソガキ。この鎖を解け。そんで、黙って償わせろ、"ルイ・レルゼン"の悪行全て、俺が償う。償って、償って、償いまくる。」


「なにを...」


「やってやる、やってやるよ"ルイ・レルゼン"。こんな犯罪履歴だらけのクソみたいな転生先でも俺は全部ひっくり返して『大英雄』にでもなってやるよ。」


「...っ!」


昔、虚ろな目をしていたその少年は、


今、光り輝く眼差しをしており、とても、とっても、


『大悪党』には見えなかった。

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