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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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18.『レルゼン家の崩壊 上』

「フェイ・ハイルが?」


「セリシア騎士団として、テメェの家族諸共処すつもりなんだろ。記憶が無いのは生憎だが、いづれテメェの首も取りにくんだろ。」


と、ダール・シルドの乾いた回答に対して、ルイは眉間に皺を寄せる。

何故なら、納得がいかない。


――いやいや、アイツに限ってんな事するか?『大悪党』の張本人である俺すらもアイツは即殺そうとしたのではなく、捕縛した。それを家族だからといってジュエリーを即殺すなんて考えにくい。それに、第一...そう思えない。


フェイとは決して長い間柄とは言えない。というか、この世界に来てから長い間柄と言える関係の人間は居ない。強いて言えばセレナぐらいだ。それでも1日程度だが。

それでも、ルイはフェイについてはセレナから聞いていたし、見てもいた。彼は『大悪党』ルイを死ぬ程憎んでいて、ルイに対しては冷たい対応ではあったが、それでも、彼はセレナを常に考えていた。


それだけで、十分だ。フェイを信じる理由は、それだけで十分なのだ。


「...それは、確認取れてんのか?」


「魔力の残穢がアイツから出てたんだよ。拭いきれねぇ程の黒だ。それに、奴は今ロード村を逃げ回ってる。それで証拠は十分だ。」


「...誰かがフェイに濡れ衣を着せようと..」


「っ!テメェ、この期に及んで何言ってやがる!犯人は奴なんだよ!それ以上でも以下でもねぇ!大体何でテメェはそこまで引っかかってんだよ!」


仕方ないのだ。ルイから見たフェイは、命を軽く見ない。彼と出会って日は浅い。正直心の奥底までも見据えれてない。それでも、


「アイツは、そんなことしないと思う。」


それが、大切な存在"セレナ"を護り続けようと誓ったルイが、セレナを託すに値する存在である男、フェイ・ハイルへの思いだった。


「もし、本当にフェイがやったんなら、俺を殺さない意味が分からない。張本人である俺を捕縛だけして、何で家族であるジュエリーは即処刑なんだ。」


「あ?なんだ、お前。フェイ・ハイルに捕縛されてたのか。どうりでさっきから全然動かねぇと思ったよ。」


と、ダールはルイに縛り付けられている鎖を見るやいなやニヤリと嘲笑う。


「お前、今気づいたのかよ!?鈍感ってレベルじゃねえだろ!明らかにおかしいって分かるでしょ!馬鹿だろお前!」


「うるせぇ、とにかく...テメェは、仇を取りたい気持ちは、あるってことか?」


「...当たり前だ。」


「...」


しばらく、ダールの沈黙が続く。

ギリギリだ。ギリギリの綱渡り状態なんだ。

ジュエリーの仇討ちと言えど、ルイ・レルゼンと手を組むなど、ダールにとっては考えられるわけがない状況。


「じゃあ、なんで...なんだ...」


「...え?」


ダールの沈黙を破った最初の一声は、ルイの眉を傾けさせた。


「なんで、って?」


「...なんで、なんで...なんで、そこまでジュエリーを思っていて、なんで、お前はジュエリーを独りにさせたんだっ!?」


声が、響いた。

大きな声が、草原に響いた。


「...」


「どう、考えても!お前しか、お前らしかいねぇだろうが!ジュエリーを幸せにしてやれんのは!!!」


「...お前らって」


「ロイの兄貴は立派かもしれねぇ...でも、『英雄』であることに重きを起きすぎて、家族の事を何も見れてなかった!そんで、ルイ!テメェは言わずもがな、『大悪党』!なんで、なんでなんだ!?なんで、ジュエリーだけあんな目に合わなきゃいけねぇんだよ!!!」


「...だから、俺は記憶を――」


――いや、違うな。そういう事じゃないんだよな。


ダールは地面に泣き崩れながら、怒りを爆発させて雄叫びを上げた。

空気がひりつくのを肌で感じるルイの眼にはただの優しい少年が泣く姿しか映っていなかった。


誰よりもジュエリー想い、誰よりもジュエリーの幸せを願った少年、ダール・シルドの訴えを、ルイはただ黙って聞き続けた。


「...アンタが、居なきゃ...ジュエリーはダメなんだよ...なぁ、アンタはどうしてそんなに人を拒むんだ?子供の時から...どうしてなんだよ!」


「...」


「なにか言えよ!言ってくれよ!なぁ!?ルイ兄貴!!!!」


――――――――――――――――――――――


「...帰ってきたか。」


「お!ダール今日もお仕事お疲れ様〜!」


ニカニカと微笑みながら泥だけの少女が夕日でオレンジに染まる道を手を振りながら歩く。


「汚れすぎだろ...何があったらそうなる。」


「えへへ〜、森の方まで行ったら魔物と遭遇しちゃって、私は逃げ続けてたから泥沼に落ちちゃったの。」


「よく生還できたな。」


「お兄ちゃん達が助けてくれ...て...お兄ちゃん達...」


その少女の後ろでは、何やら言い合いをしている2人の一回り大きい少年達の影があった。


「も〜、お兄ちゃん達うるさい!まだ言い争ってんの〜?」


少女が振り返り、2人の少年たちに向かって怒鳴る。

すると、少年達は指を差し合いながら同時に少女に向かって言う。


「コイツが倒した魔物より、絶対に俺の倒した魔物の方が大きかったハズだ!お前もそう思うだろ!ジュエリー!」


「バカも休み休み言え。俺の倒した魔物の方が高難易度の敵だった。大きさだけで捉えられてるその思考、本当にお前は俺と血が繋がってのか?」


「んだごらぁ!その胡散臭いホストみたいな白髪泥まみれにして新種の魔物みたいな感じにしてやろうか!?ゴブリンの100倍醜い姿にしてやろか!?」


「上等だ、だったらお前のその汚い黒髪全部引っこ抜いて緑の塗料塗ってゴブリンにしてやろうか?」


「だったらゴブリンの100倍醜いテメェの方が負けじゃねえか!今すぐ実行してやろうか!?」


「あぁ、いいだろうお望みどうりやってやる。」


「ふざけんなぁ!どう考えても泥まみれになるお前よりハゲゴブリンにされる俺の方が100倍キツイだろ!もっとフェアな提案しやがれ!」


「お前が言った事だろうがっ!!!」


と、やんややんやと言い争うゴブリンの100倍醜い2人の兄達を見て、少女――ジュエリーは深いため息をついた。


「ごめんね、ダール。こんな馬鹿兄貴達の為にお出迎えしてくれちゃって...。」


「いや、別に通り道だっただけだし...つか、迎えに来たのはお前の方で...」


「ん?」


「ぁ、いや...たくっ、ほら行くぞ。今日もウチの野菜欲しいんだろ?」


「いつもありがとうね、ダール!ほら、バカたち行くよー。」


ダールの後ろを歩くジュエリーは更に後ろで馬鹿げた言い争いをしている2人の兄たちを呼び寄せる。


とある、何でもない日のいつもの日常だった。


「...なーんかアイツらいい感じ?」


「いや、ただの片思いだ。ジュエリーに色恋沙汰なんて早い。」


黒髪の少年はニヤつきながら言う。


「恋人は許さないってか?ジュエリーにとっちゃおっかねぇ兄貴だな、キモ。」


白髪の少年は眉を傾けながら、言う。


「誰もそんな事言ってねぇ。ジュエリーにとっては相変わらず馬鹿な兄貴だな、死ね。」


「んだごらぁ!!!!」


"ロイ・レルゼン"が怒りながら、相手の白髪を掴む。


「っち、やめろ。」


"ルイ・レルゼン"がその手を打ち払う。





「あらあら、今日も随分と汚れたのね。」


美しい銀髪の女性が、扉を開けてジュエリー達を迎え入れる。


「ママ〜!ただいま!」

「はやく!」「飯!」


「はい、ジュエリーちゃんだけおかえりなさーい!」


パタン、と、ジュエリーだけを入れた扉は無情にも閉ざされた。


「...」

「...」


ぐぅ〜と、2人の腹の虫が泣く音は扉伝えでも伝わる程のボリュームで、ジュエリーはそんな馬鹿な2人を扉越しに笑った。


「...お母さ〜ん。」

「...ごめんなさ〜い。」


「「ただいま」」


2人合わさった声と共に、扉は再び開かれ、


「はいはい、おかえりなさい。」


と、2人の子供達を迎え入れて、ようやくレルゼン家の扉は確かに閉められた。


そんな光景を目にしながら、少年は声をこぼす。


「...俺は、邪推だな。」


完成されている彼女達の幸せに、彼の入る余地等無かったのだ。

そう思い、ダールは静かに家路へと経つ。


そんな、たわいもない日々が壊れたのは、あの日だった。






『アバドン魔術学院 学生殺害事件 容疑者として、勇者ルイ・レルゼンが浮上』





――レルゼン家は、その日から徐々に崩壊していった。

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