(64) グリニザ(3)
フィストとグリニザが対立しているというのも、おかしな話だ。
フィストは、グリニザがドイツに置いていた支部が大戦前中の強権的党独裁政権下、これとむすびつくかたちで本部から独立した。
しかし、当然その目的の同一性は変わらない。各地の政権にはたらきかけ、作業の協力とあるいは黙認をとりつける。おそらくは誰もすすんでやりたがらないが、誰かやらなければならない任務であり、採算はでるが、財政的旨みはいっさいない。
そういう意味で、怪物の出現とは災害であった。
グリニザという組織がやらかす人災であり、原因は不明だが法則性をもって観測される自然災害に分類されるものである。
げんに現在、複数国においてグリニザへの資金提供は、災害対策費をもって充てられている。
あるいは人災か、と聞くところでもあるが、グリニザの駆除作業において破壊行為はていどによってともなうものである。この破壊を必要な破壊とは言っても「必要な破壊」とは述べられない。
そのため、人災である。
多少の言葉の摩擦は生まれるものの、グリニザにおいては「もっとよいやり方がある」という解釈が常にもたれる。
現実に起こりえないはずの現象が起こるという理不尽を相手どるにあたっては、そういう理想的解釈法はつねに必要である。そうすることで、組織は責任を自ら持つからである。
ややこしい組織論めいた拙論はそれでいいとして、複数国においてと述べたように、グリニザの組織体系というのは、国家からの協力体制によって成り立つ。それに重きを置くとも言っていい。協力というからには、貧乏人には期待できないものであるが。
ともかく、歴史的にはあるときは、協力を得られない場合もあった。そのときには非合法の地下活動で、駆除作業を強行した。そういうこともあった。
現在ではおおむねない。
各国に怪物の出現の害と、その情報が拡散された場合にどのようなことが起こるかを、実例をもってしめされ周知されたからである。
その場合においても、やはり、組織が分裂し運営形態を分割してしまっているのは、はなはだ不評である。
国家に協力を得ておもねる、という場合、国家というのは資金源ではなく、国家権力でもある。
国家は権力と示威によって、多大なる収益を可能とする。
冷戦を経た現代においては、徐々に収益は、国家の手を離れ巨大企業へと移行しつつあるとも言えるが、この収益活動におもねるということは、腐敗しやすいといえる。
いや、腐敗は避けられない。
たとい後ろ暗い収益であったといえ、それが紛争や戦争、つまり侵略行為や過去には違法薬物のたぐいがふくまれることがあったといえ、癒着やきなくさい資金供与があったといえ、それを資金として受けるグリニザには、組織としての瑕疵などない。理屈のうえでは。
当然、理屈以外の感情的な瑕疵はある。
この腐敗と感情的な瑕疵の話をあわせるなら、たとえば、フィストが独立したことにも説明がつく。当時のグリニザ・ドイツ支部の一部管理層に狂信的な強権的党独裁政権への、民族的同調があり、当時、同国国民の一部以外は信じていなかった欧州統一への思想的・利権的同調があり、「ここ」を中心として、組織活動もおもねるのが正答であると信じ、離反がおこなわれた。
言葉を強く言えば、「やつら参っちまって、うかれてハイのままゴーサインを出しちまったんだ」というようなことが行われたことも、現在、実際にグリニザの一部職員が言うように、うなずかれているのも納得はいく。
だが本当にそうだろうか。そういうこともあるだろう……しかし、そうでないかもしれない。
ふたつほどおおざっぱに考えられる。ひとつは、やはり当時、グリニザ・ドイツ支部の人員が「参っちまってうかれてハイのままゴーサインを出した」話。
もうひとつは、分離はもうしあわせのうえであり、たまたまそれらしい理由がつけられるときが、その大戦前中にかけてのころにおとずれた。
そのころ、グリニザという組織は巨大だった。巨大であるということは、その維持にかけられる手間も巨大、あるいはこうも言う、無駄に膨大すぎる。
複雑化する国際情勢にあって、これまでどおりの業務規模を維持するためには、組織を分割する必要があった。
その組織は、ほどほどに巨大であらなければならない。そうしなければ、活動に必要な国家・経済組織からの協力は取りつけられない。
それまでに蓄積したアプローチ、ノウハウ、人脈をあざやかなほどまとめて引き抜いて、組織へと還元しひきついでいなければならない。
そのため、もっともな理由として挙げられる離反の口実を待って、はなれわざ的に実行に移したのがフィストという組織だったのだ。
このことは、すでに中国系ともいわれる兎蹴で、同様の理由の形跡が確認されてもいる。
近年ではワイルドホーセスとあだ名される、グリニザアメリカ支部、研磨という独自の突出した技術部門をかかえていた、日本支部、ヨハンナ機関を有するポーランド支部、グリニザ本部の暗部としてメリオダスの帳簿を抱え、独立性を強く要求しつつある事務会。
これらがグリニザという組織にしばられる立場を厭い、本部との対立を深めているとされる。
その中にはクラーダ・オブライエンとよばれるグリニザの技術部門のように、本当に組織内で孤立や独立を深める場合もあるものの、組織の肥大化を緩和するべく動いている面がすくなからず見受けられるのが現状だ。
もっとも、現実とはおしなべて、そうだからそう、という単純で単一的な話では動かないものだ。




