悪役姫は精霊宮にやってくる。
浮遊感を感じた後、視界はあっさりと切り替わる。
ミリアリアが着地すると、まるで神殿のように清らかな力にあふれた場所に出た。
迷宮というにはあまりにも美しい箱庭のような場所は、元居た場所以上に精霊の気配にあふれていて、精霊の力に敏感なミリアリアは少しクラクラと眩暈がしたほどだった。
「おお、これはまた素敵な場所ですわ」
「入ってはならない神域とかじゃないですよね?」
「その可能性は大いにありそうですわよね」
庭の真ん中には、磨き上げられた大理石のような床に、見事な細工の彫りこまれた柱が何本も並んでいる。
続くそれらが導く道の先には祭壇のようなものがあるのも確認出来た。
「光が温かい……お母様の光の精霊力にも似ているけれど……もっと強くて優しい感じですわ」
「当然だ。光の精霊などと一緒にするなどとんでもないぞミリアリア」
「ダーク?」
ダークは少年の姿でどこか懐かしそうに目を細めていた。
ミリアリアは余計なことは言わずにダークの言葉を待った。
だが指をさしたダークのセリフはさすがに予想してはいなかった。
「アレが精霊王様の祭壇だ」
「え? いきなりですの? わたくしはてっきり上級モンスターはびこる未知のダンジョンで死闘の末にたどり着くものとばかり思っていたんですけれど?」
「ちょっと待ってくださいミリアリア様?……そんな魔界みたいなところに連れてこようとしたんですか?」
「いや違うんですわよ」
メアリーの恨み節は聞かなかったことにした。
ワクワクするミリアリアにダークは肩をすくめる。
「そうだな。普通はそうなるだろう。招かれた―――という事なのだろうな」
おう、それは素晴らしい。
さすがにダークほどの精霊ともなれば、ここでもVIP待遇ということか。
ならば手間が省けたとミリアリアは素直に喜び、手を打ち合わせた。
「まぁ! ではこちらも気合を入れていかないといけませんわね! メアリー! さっそくお仕事ですわよ!」
「えぇ?」
「ちょ、ちょっと待て!」
ミリアリアは真っすぐ祭壇に向かう。
精霊式の礼儀作法なんて全然知らないというか、そもそもそんなものがあるかもわからない。
ならばこちらが積極的にコミュニケーションをとるべきである。
大丈夫、言葉すら通じなくても身振り手振りと勢いでどうにかなるらしい。
ミリアリアは不思議な光あふれる祭壇で闇の精霊術を駆使し、テーブルと椅子を作り出した。
造形にはもちろんこだわっている。
お茶会の準備のためにとっておきのティーセットを取り出して、並べて見せた。
これでひとまず準備完了。
満足したミリアリアは、光に向かって呼びかけた。
「初めまして精霊王様。お招きありがとうございますわ。わたくし、ミリアリアと申します。今はダークと契約させていただいている精霊術師ですわ。お土産にお茶を持参していますの。 よろしければご一緒にいかがかしら?」
ダークは飲めたからたぶん大丈夫。
出来る限りフレンドリーに呼びかけたつもりだったが、仲間達からは震えた声が聞こえて来た。
「ミ、ミリアリア様!?」
「お、お前……ちょ」
ちょっと普通に行きすぎてしまったかな? もっと神様にするような、礼儀作法があっただろうか?
いやいやこれからお茶をしようというのに、作法の心配はしてもしかたがないと思う。
お茶は身分を気にせず楽しめる工夫をするべきだと誰かが言っている気がした。
しばしミリアリアが相手の出方を待っていると、光の中に気配が生まれて―――。
「お土産ありがとう。大丈夫お茶を飲むくらいは付き合えるとも、人間のお嬢さん」
その声は頭に直接声は響いた。