悪役姫は精霊宮への扉を見つける。
術を解き、先に進むと。樹海の緑はさらに濃くなってゆく。
しかしそれよりも色濃く感じるのは強い精霊の気配だった。
ミリアリアも張り詰めた雰囲気を感じていたが、ダークの緊張はそれ以上のようだった。
「……ミリアリア、近いぞ」
「そう、今外に行きますわ」
ミリアリアはレオンに車を止める指示を出し、車外へと出る。
そこはまだ木々が生い茂ってはいたものの、明らかにただのジャングルとは違っていた。
植物が、建物を飲み込んでいる。
それはとても立派な都市だった物の名残だと、ミリアリアも一目見ただけでわかるほどに、未だその外観のほとんどが健在だった。
「滅んだ後に植物に飲まれたみたいですわね。かつては相当に繁栄していたでしょうに……」
「これはすごいですね……こんなところにこんなにも大きな遺跡があるだなんて」
メアリーも感嘆のため息を漏らしている。
私達はレオンを車とともに都市の入り口に止めると、連れだって都市の中を進んだ。
先導する大きな鎧は、どこかぼんやりとした足取りながらも迷いなく進む。
ミリアリアはダークに尋ねた。
「この都市は何なんですの?」
闇の精霊神とまで言われたダークだ、すんなりとその答えは返って来るものとばかり思ったが、残念ながらそうでもないらしかった。
「わからない。ただ……どこかなつかしさのような物を感じる」
「ダークはこの都市に住んでいたということかしら?」
「いや……懐かしい気配は……あの門の向こう側だ」
「「門?」」
ミリアリアとメアリーの声が揃って、ダークの指し示す方向を見る。
すると確かにそこには、門にも見える石で出来た石板のようなものが立っていた。
ただ言われても門だとわからなかったのは、ほとんど瓦礫と変わらなかったからだ。
建物があるわけでもなく、広場にぽつんと取り残されたようなそれはミリアリアには長方形の石のオブジェにしか見えなかった。
「あれですか? どこかに通じているようには見えませんが?」
「まぁ……見た方が早い」
メアリーが率直な意見を口にするが、ダークは頷いてオブジェに手を添える。そして門を開くように押し込むと、ガコンと音を立てて門は開いた。
開いた先にあったのは当然のように向こう側の風景というわけではなく、空間の歪んだ歪な渦だ。
グニャリと空間が歪み、油を浮かせた水面のように妙な色合いのそれを見て、ダークは満足そうに頷いた。
「ここが精霊宮の入口だ―――どうする?」
尋ねるダークはいたずらっぽい響きを言葉に滲ませていた。
ふむ、確かに得体が知れないが、ここまで来てそんなもので心が乱れたりはしない。
ミリアリアはぺろりと唇を舐めると、喜び勇んで叫んだ。
「よし! 行きますわよ!」
「まぁ……そうだよな」
目的地が決まっているのに、今更怖気づく時間がもったいない。
当然みんなそうだと思っていたが、メアリーは顔を青くしてダッシュで逃げた。
「やっぱりいいです!」
だが想定通り。ガシッとすかさず捕まえる。
ここまで着て逃げるのはナシである。
「まぁそう言わないでよメアリー。わたくし寂しいですわーお姫様ですし貴女がいないとダメなのですわ?」
「大丈夫です! ミリアリア様ならどこでだって一人でも生きていけます!」
「そんなことありませんわ」
ひどいことを言うメアリーの首根っこを捕まえて、ミリアリアは門の向こうの謎の空間に飛び込んだ。




