悪役姫はあいびきする。
「ひやっほう!」
馬力を超越するパワーを振り回す感覚は、ミリアリアを新たな世界に開眼させていた。
対策を十分に行い思ったよりも少ない振動の車内でも、スピード感が魂を震わせる。
目的地に到着し、ドリフトしながら停車したミリアリアは飛び切りに満足感を得て爽やかな汗を拭っていた。
「ふぅ……世界を縮めた気分ですわ……これは癖になってしまいそう」
そしてもう一人興奮しているヒヨコ君も中々の素質を秘めているようだった。
「すごいですね! ミリアリア様!」
「そうでしょう! エドワード様も楽しんでいただけたのならよかったですわ!」
引き換えに怒られるかもしれないが、まぁ今から楽しいことが始まると言うのに、後に回した苦労を気にしても仕方がない話である。
「ミリアリア様、ここは一体どこなんですか?」
恐々尋ねるヒヨコ君にミリアリアはうろ覚えの知識を披露した。
「ここは王都の外れのナントカ平原ですわ! 正式名称は特に覚えていません!」
「そうなんですね!」
満面の笑顔が溢れるひよこ君は細かいことは気にしないらしい。
そうまで喜ばれると張り切ってしまうが、さっそくやってきた平原には無数のモンスターの気配を感じて、ミリアリアは腕をパキパキと鳴らした。
「こちらの気配を察知して来ましたか。……大量発生は確かな情報だったみたいですわね」
「モ、モンスターですか?」
「ええ。モンスターも肉がおいしいものがいるのですわ。でも鳥は……いなさそうですわね」
「いないですか鳥?」
ミリアリアが集まってきたモンスターを確認すると、そこにいたのはピッグーというピンク色のブタのようなモンスター。そしてビーフルという牛のようなモンスターだった。
ゲーム時には丸っこい光沢のあるボディのマスコットの様な外観だったが……目の前にしたプリっとしたボディのモンスターはリアリティを足すととんでもないことになっていた。
「……なんでこんなにぷりぷりしてますの?」
言っちゃなんだが、若干不愉快だ。
プリンプリンはまだかわいいと思えたのに、二足歩行の豚と牛の艶プリ具合がミリアリア的になんかもう……って感じである。
しかしミリアリアは覚えていた。
ゲーム上で彼らがドロップするアイテムが何であったかである。
「おいしいお肉(豚)おいしいお肉(牛)……どの程度おいしいのか気になるところですわね」
「あの、モンスター達がこっちに近づいてきます……」
じりじりと馬車を取り囲みつつ、包囲網を狭めてくるモンスターにヒヨコ君がさすがに怯えていた。
ミリアリアにしてみればどうにもイラっと青筋が浮いたわけだが。
「ええ……そのようですわね」
このモンスター共、こっちを舐めているのが透けて見える。
わざとらしく舌を出し、憎たらしくこっちを挑発している奴なんて何を根拠に勝てると思っているのか聞きたいところだった。
あのマスコットじみたつぶらな瞳にあるのは、弱い獲物を眺めるチンピラのそれと変わりがない。
数の優位で調子に乗っているのだろうか? ミリアリアの見立てでは、馬車を引いているゴールドレオですら瞬殺できるのに?
いちいち武器を振り上げて歩くたびにプルリンとでっかい尻が揺れるのが猛烈に苛立たしい。
フンゴっと鼻から出る息が微妙にハーブっぽい匂いがして、これがまたちょっとうまそうなのも微妙にイラッと来た。
ミリアリアはヒヨコ君の頭をなでると、優しく囁いた。
「いいですか? 今からいいと言うまで馬車の中に入っていただけますか?」
「え? は、はい!」
「いい子です。その代わりお昼ご飯は期待していいですわよ?」
「そうなのですか? でも焼き鳥はできないとミリアリア様は言いました」
この期に及んでまだ焼き鳥の誘惑を断ち切れないヒヨコ君は大物になる。
おっとそう言えば筆頭攻略キャラでしたわ。
ミリアリアはなるほどなと妙なことに納得しながら、いつも浮かべている鉄球の砲門を、モンスターに向けた。
準備が完了してミリアリアはぺろりと唇を舐める。
「安心するといいですわ! ……今晩のおかずはハンバーグです!」
ヒヨコ君が馬車に引っ込む。
さぁ今すぐゼッKILLである。
銃撃は嵐となって、にやけた顔を駆逐する。
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