悪役姫は納得する。
嵐はすぐに収まり、戦闘は終了。
成果は上々で、これでお肉パーティ決定だと、ミリアリアは大活躍の鉄球をなでた。
だがぐずぐずしてはいられない。ミリアリアは15禁くらいはありそうなグロテスクな風景をすぐに片付けに掛かった。
「ふぅ……よしこれでいいでしょう」
ミリアリアがパンと扇を開き一仕事終わった汗を乾かしていると、車の中からヒヨコ君が顔を出す。
「……大丈夫だったのでしょうか?」
「もちろん。せっかく狩りにご招待したのですから。お待たせするようなことは致しませんわ」
まぁちょっと暴れすぎて平原が禿げてしまったけれど、その分獲物は大量だった。
「え!? 風景が変わっていますけど!」
「元からこんなもんでしたわ!」
「そ……そうでしたか?」
力強く断言したミリアリアに、ヒヨコ君は首を傾げた。
時には嘘も方便だ。
興奮したヒヨコ君がぴょこぴょこ跳ねていたけれど、ご機嫌を損ねた様子もなく結果オーライということにしておいた。
「これで……おいしいものができますわ!」
「はい! 楽しみにしていますね!」
あらあらかわいい。
さてこのまま特注馬車の性能テストでキャンプ飯を楽しむのも悪くはないが、急な話で食材が乏しい。
モンスターの焼肉だけで焼き鳥以上を目指すのにも限界があるのは間違いなかった。
しかしヒヨコ君がわざわざミリアリアを名指ししてきたということは、普通ではあの味に到達できないということ。
ここはひとつリクエストに応えるためには、最高の一皿を目指すべきだとミリアリアは考えた。
というわけで城に帰ったらしこたま怒られた。
ミリアリアはしかし負けずに地味に半泣きで、キッチンに突撃した。
「えーでは、エドワード様のリクエストにお応えして! ミリアリアの創作お料理を始めますわ!」
みんな遠巻きにしか見ていないけど、ヒヨコ君だけパチパチと手を叩いている。
独断ではないことも強調したし、ミリアリアはさっそくクッキングと行くことにした。
「ではまず食材を―――精霊術で包みます」
真っ黒な空間にモンスターを2匹ほど丸ごと飲み込ませてみる。
お子様に、家畜の解体シーンなど気軽に見せる気がしない。
ミリアリアの用意した闇はそれらの肉を飲み込んで、食べない場所を的確にカット。
数秒後そのままスーパーで売れそうなほどにトリミングした、豚と牛のお肉が出て来た。
「うわぁ! これが先ほど手に入れたモンスターですか?」
「そうですわ。ではこれを……ミンチにします!」
再び今度は小型の闇が登場。全部肉を叩き込むと、ムリムリひき肉を押し出し始めた。
ミリアリアはこれ攻撃に使ったらエグそうだなーなんて、食前にふさわしくない想像を振り払う。
「お肉が細切れに! 先ほどから使っている黒いそれは精霊術なのですか?」
「そうですわ! やろうと思えば色々出来るのが精霊術というものなのです!」
「そうなのですね!」
ニコニコ笑うヒヨコ君はご機嫌なのだが、周囲の視線は疑わし気だった。
しかしそこで、わずかながらミリアリアは引っかかりを感じた。
「……!」
「どうしたのですか?」
ヒヨコ君がミリアリアを見る瞳はとても純粋なものだった。
だからこそこの光景は目に焼き付くことだろう。
しかし―――どうなのだろう?
このまま精霊術だけ使って料理を完成させるのはかっこ悪いんじゃないか?
ミリアリア唐突な疑問である。
伊達や酔狂を好むミリアリアにしてみれば、そもそもかっこよさがかなり重要なのだ。
刃物が使えないと勘違いされて、料理を完成させる図というのは残念だが、ミリアリア的にかっこ悪い感じだった。
というわけでミリアリアは普通に野菜を切り始める。
ダンジョンで刃物の扱いは一通り習得している。
用意した玉ねぎを前にしてミリアリアはスーっと息を吸い、そして一気にみじん切りに切り刻んだ。
「すごいです! 一瞬で玉ねぎが!」
計画通り。ミリアリアは満足した。
「当然ですわ! さてメアリー! 先ほどの合いびき肉をもっていらして!」
「は、はい!」
そして先ほど作ったミンチを持ってきたのはエプロン姿のメアリーだ。
このメアリー、実は水の精霊術の使い手で、冷やしたりするのは得意なのだ。
メアリーに冷やしてもらっていたミンチを手早く刻んだ玉ねぎとパン粉、牛乳と各種調味料と共に混ぜ合わせ、小判型に整形してゆく。
両掌で肉の塊を叩きつける工程にヒヨコ君を交えておく小粋なお約束もやって、メインフェイズに突入する。
「さてこれでハンバーグ本体は完成間近です!」
「はい! とても楽しいですね! ミリアリア様!」
鼻の頭にミンチをくっつけ頬を紅潮させている美少年を脳内のフォルダーに保存しながら、ミリアリアは最後の仕上げに取り掛かった。
いい感じの焼き色を付けてハンバーグは仕上がりつつあった。
このまま焼き上げさえミスをしなければおいしいハンバーグは出来上がるだろう。
だがヒヨコ君を魅了するには、お子様が大好きな濃いめの甘辛いソースがなければ、本当の意味で完成には至らない。
「……フッ、ついにこの技を披露する時が来てしまったようですわね」
ミリアリアはおもむろに器に手をかざすと唱えた。
「暗黒液体」
手から流れ出る黒い液体。
醤油だって黒いのだからいけるはずだ。
この応用幅、もはや天下が獲れるとミリアリアは思った。
更には酒とみりんの味を加味した特別製のそれを砂糖と一緒に煮詰める。
これでいい匂いがしてくるはずだから、取り囲んでいるお前たち、目を覆ってアーッという顔はやめなさい。
周囲を威嚇しつつ、ミリアリアは出来上がったとろみのあるソースをハンバーグの肉汁と合わせ、焼きあがったハンバーグにかければ完成である。
「さぁ熱いうちにおあがりくださいな!」
どんと完成した照り焼きハンバーグを差し出すと、その暴力的な匂いが嗅覚を直撃したヒヨコ君がよだれを垂らした。
無理もない、ミリアリアでもこの香りは反則だった。
ミリアリアは自分用にも用意したそれを口いっぱいに頬張ると、ヒヨコ君も慌てて続いた。
「「うっ……まーい!!!」」
とりあえず声を上げてしまうほどに大成功である。
「中からとろりとしたものが!」
ちなみにヒヨコ君のハンバーグは渾身のチーズ入りなのだからまずいなんて言わせない。
これだけおいしかったらヒヨコ君もでたらめに強くなっても、処刑とかしないでいてくれるといいなと思うミリアリアだった。
「どうです? 焼き鳥とどちらがおいしいかしら?」
ただ、ミリアリアはハンバーグの渾身の出来に、ついついそんな尋ね方をしてしまう。
するとびくりと固まったヒヨコ君は視線をさ迷わせ、しゅんと眉毛をハの字に下げて答えた。
「その、このハンバーグもとてもおいしいのですが……でも……僕はヤキトリの方が」
「……まぁ焼き鳥の口になってましたものね。今度いい鳥を用意しておきますわ」
大変申し分けなさそうなヒヨコ君に、ミリアリアはフッと微笑んでそりゃそうだよなとヒヨコ君の肩を叩くと、ヒヨコ君の表情はばぁッと明るくなった。
「ありがとうございます! えっと! ……それでですね! このソースですが! ヤキトリにも合うと思うのです!」
「……わかりますか。貴方見どころがありますわよ?」
調理工程を見ていた料理人たちは、本当においしいのか? という視線を向けていたが食べてみなさい、おいしいから。
そして照り焼きソースさえあれば容易にてりやきバーガーにだってたどり着くだろうという進化の二段構えは最強である。
ミリアリアは食後に渾身の照り焼き用暗黒液体を披露して樽いっぱいにすると、料理人達は微妙な表情を浮かべていた。
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