荒野の公開処刑と、野生馬の咆哮
学園地下に広がる、全校生徒が日常的に使用するフリーの1V1用ダイブルーム。
そこは、赤茶けた土と無造作に転がるいくつかの岩しかない、ただのひらけた荒野のフィールドだ。
小細工や奇襲が一切通用しない、純粋な「撃ち合いの強さ」だけが試されるベーシックな練習場。
現在、そのフィールドを囲む観戦モニターの前には、噂を聞きつけた生徒たちが黒山の人だかりを作っていた。
「千堂のやつ、逃げずに来やがったぞ」
「相手は学年トップの桐谷さんだ。いくら奇跡のバグでダイヤⅡになったからって、1V1の正面からの撃ち合いで勝てるわけがない」
ギャラリーの冷笑が響く中、荒野のフィールドで朝日と桐谷が対峙する。
「お前の運もここまでだ、千堂」
桐谷は余裕の笑みを浮かべ、腰に帯びた最新鋭のスマートハンドガンに手をかけた。
「こんな遮蔽物のない平地じゃ、得意の逃げ隠れもできない。開始の合図と同時に、俺のデバイスがお前の頭を100%の精度でロックオンする。……AIの計算外のバグは、俺のシステムが駆除してやるよ」
『朝日。相手の武器は最新型のスマートガン。射線に出た瞬間、0.2秒でヘッドショットをくらうわ』
耳元で警告するアテナの声にも、朝日は顔色一つ変えない。
ただ静かに、腰のホルスターに収まった重厚な相棒――『マスタング』のグリップに手を添えた。
「……テナさん。AIの予測演算ってのは、要するに『過去のデータから、人間がどう動くか』を計算してるだけだろ?」
『ええ、そうね』
「なら、AIの計算速度を上回る速度で動けば、ロックオンなんて外れるってことだ」
朝日もまた余裕の笑みを浮かべた。
『――カウントダウンを開始します。3、2、1……』
無機質なシステム音声がフィールドに響く。
『GO!!』
「死ね、劣等生!」
開始の合図と同時、桐谷が素早く銃を構えた。AIの照準アシストが赤い光を放ち、朝日の眉間を正確に捉えようとする。
しかし、桐谷の視界から、突如として朝日の姿が「消えた」。
「なっ……!?」
一直線に走るというAIの『最適解』を嘲笑うかのように。
朝日は地面を爆発的な脚力で蹴り上げ、隣にあった岩の側面に張り付くように跳躍していた。そこからさらに壁蹴りの要領で空中に身を躍らせる。
あまりにも三次元的で野性的な動きに、桐谷のスマートガンの照準がエラー音を鳴らして外れた。
「AIのレールの上からじゃ、俺には弾一発すら当てられないぜ」
宙を舞う朝日の手には、鈍い鉄色の旧式リボルバー『マスタング』が握られていた。
AIのアシストなど一切ない。己の動体視力と、極限まで研ぎ澄まされた直感だけが頼りの一撃。
桐谷が慌てて銃口を上空へ向けようとした、その瞬間。
ズドンッ!!!!
荒野の練習場に、今まで誰も聞いたことがないような鼓膜を揺らす轟音が響き渡った。
マスタングの銃口から噴き出した猛烈な火柱。反動で朝日の右腕が大きく跳ね上がるが、強靭な体幹でそれをねじ伏せる。
放たれた大口径の弾丸は、桐谷が引き金を引くよりも早く、その眉間を寸分の狂いもなく撃ち抜いていた。
『勝者、千堂朝日』
桐谷のアバターが光の粒子となって砕け散り、無慈悲なシステム音声が響く。
開始から、わずか3秒の出来事だった。
「……すげえ反動。けど、最高に馴染むな」
着地した朝日は、軽く痺れた右手を振りながら、マスタングのシリンダーをカチャリと回してホルスターに収めた。
観戦モニターの前に集まっていた数十人のギャラリーは、誰一人として言葉を発することができない。
学園トップの圧倒的敗北。そして、AIのアシストを一切使わない、純粋な人間の闘争本能が魅せた神業。
完全な静寂に包まれたダイブルームで、ただ一人、朝日の足音だけが静かに響いていた。




