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アテナ・トリガー~AIに見放された俺だけが世界最強へ~  作者: 案山子


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亡霊たちの生活痕

サイバーハウンドを泥臭く撃破した小部屋を抜け、朝日たちは巨大な地下廃都の奥へと足を進めていた。


頭上を覆うひび割れた青空のホログラム。その裂け目から覗く無機質な鉄骨が、点滅する赤い非常灯に照らされて生々しく浮かび上がる。眼下には、蜂の巣のように壁を埋め尽くす集合住宅群が、闇の奥までどこまでも続いていた。


『……おかしいですね』


質量を持ったアテナのホログラムが、通り過ぎる部屋の扉を一つ一つスキャンしながら、珍しく声のトーンを落とした。


『先ほどの小部屋だけではありません。この居住区――ほぼ全ての部屋に、ある日突然、人が消えたような生活の痕跡が残されています』


乾いてひび割れたスープの皿。読みかけのまま埃を被った電子書籍。色褪せた家族写真。

くるみは足を止め、震える声でそれをぽつりと拾い上げた。


「これって……もしかして、予選や本戦で負けて……NPCにされた人たちの……?」


『――正解です、くるみさん』


アテナの蒼い瞳に、暗い影が差す。


『神宮司は、敗者の自我を消去などしていません。システム上で「NPCモード」と「解放モード」のフラグを切り替えているだけ。彼らは大会の裏側で、出口もなく、AIのネットワークも届かないこの地下箱庭に閉じ込められ、「生活」を演じさせられていたのです。……いいえ、正しくは「生かされ続けていた」のですよ』


「自我が消えてねぇなら」


朝日の拳に、血が滲むほどの力がこもった。


「――救えるってことじゃねえか」


スイッチ一つで人の自我を弄ぶ神宮司の狂気。喉の奥から込み上げる怒りを、朝日は歯を食いしばって抑え込む。


「怒りは後にとっておきなさい、朝日」


雪那の声は氷のように平坦だった。だがその冷たさの下に、確かな熱が滲んでいる。


「感情で動いて死ねば、彼らを救う人間が一人減るだけですわ。まず装備を取り戻します。――アテナ、セキュリティブロックへの最短ルートを」


『こちらです。ただし――警戒を』


メインストリートに出た瞬間、暗闇の奥から重い金属音が這うように響いた。 姿を現したのは、先ほどのサイバーハウンドを一回り凶悪にした上位種『アルファ』二体と、通常型三体。赤いセンサーアイが、暗闇を舐めるように旋回する。


「……完全に塞がれていますわね」


雪那が舌打ちを噛み殺した。ボロ布同然の装備、武器はナイフ一本とポケットの弾丸二発。正面から挑めば、答えは一つしかない。


「朝日くん、弾……使う……?」


くるみの問いに、朝日は即座に首を振った。


「バカ言え。この二発は、マスタングを取り戻した時の“命綱”だ。ここで撃つ弾は一発もねぇ」


「――結構ですわ。それなら、私が道を切り開いて差し上げます」


雪那のバイザーが蒼く発光する。


「くるみ、前方の倒れた標識の裏へ。センサーがこちらを捉えたコンマ一秒だけ、シールドで音を殺しなさい。朝日は右の瓦礫から回り込み、デコイを投げて敵の意識を逸らした隙に、アルファの足元――露出した油圧パイプをナイフで切断。機動力を奪います」


「了解」 「はい……っ!」


短く息を合わせるだけで、動きが始まる。 くるみの展開したシールドが、一瞬だけ索敵波を殺した。朝日の投げた瓦礫が、遠くで乾いた音を立てる。ハウンドの群れが一斉に首をそちらへ向けた、その隙。


朝日は影から影へ、呼吸すら殺して滑り込んだ。


ガキィンッ――!


「グガァッ!?」


装甲の隙間、剥き出しの油圧パイプにナイフを突き立てる。噴き出したオイルが、鋼鉄の関節を軋ませて固めていく。 弾を一発も使わず、研ぎ澄まされた頭脳と泥臭いフィジカルだけで、三人は最強の群れの包囲網を突破した。


***


息を切らしながら辿り着いたのは、鉄格子で封じられた【第3セキュリティブロック】

朝日は錆びたナイフを扉の隙間にねじ込み、強靭な腕力でギギギ、と重い鉄扉をこじ開ける。


「開いたぞ……!」


高鳴る胸を抑えて飛び込んだ暗がりで、三人は言葉を失った。


棚は、空だった。 マスタングも、コキュートスも、大盾のデバイスも――何一つ、残されていない。すでに何者かによって、持ち去られた後だった。


「そんな……嘘、ですよね……?」


くるみの膝が、崩れ落ちそうに震える。


そのとき朝日は、棚の最下段、埃の奥に沈んでいた「何か」に気づいた。 引きずり出したのは、見覚えのない、傷だらけのサブマシンガン。金属フレームには、拙く、けれど確かな力で手彫りされた文字があった。


【1回戦敗退・ライアン】


「……俺たちの装備じゃない」

雪那が息を呑む。


「これは――ここに格納されていた、過去の敗者の遺品……」

自分たちと同じように相棒を奪われ、この絶望の底で抗おうとした誰かの、生きた証。


「……神宮司」


朝日はライアンの名を刻んだ銃身を、白くなるほど強く握りしめた。 全員を必ず救い出す。この胸糞悪い世界を、必ず終わらせる。声にならない誓いが、三人の間で音もなく重なった。


――その時だった。


ガチャン……ガチャン……。


保管庫の奥、分厚い鉄扉の向こうから、地鳴りのような重い足音が、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


第58話、いかがだったでしょうか。

明かされた「NPC化の真実」。敗者たちは自我を消されたわけではなく、この地下廃都で生かされ続けていました。

怒りを押し殺し、たった2発の弾丸を温存してハウンドの群れを突破した三人でしたが……たどり着いた保管庫はまさかの空っぽ。


残されていたのは、かつての敗者「ライアン」が遺した傷だらけのサブマシンガンだけでした。


絶望的な状況下で、過去のプレイヤーの生きた証を受け取った朝日の決意。

そして、保管庫の奥から迫り来る「重々しい足音」の正体とは……!?


「NPC化の真実エグい!」「遺品を見つける展開が熱い!」「次が気になる!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部の【☆】を【★】に変えて応援していただけると、毎日の執筆の最大のエネルギーになります!


これからも『アテナ・トリガー』の熱い物語を全力でお届けしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします!

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