アテナ・トリガー
「逃げんじゃねェェェッ!! かかってこいよ三下がァァァッ!!」
崩壊するタワーの空中。
急降下する朝日の背中へ向けて、怒りに顔を歪ませたハルが二丁のSMGを乱射しながら吠える。
王者の余裕を完全に失い、血を吐くような殺意をぶつける絶叫。
だが――その声は、朝日の耳には一切届いていなかった。
(……見えた)
アルティメットスキル『プレデター・ゾーン』。
黄金と蒼光が混ざり合う朝日の瞳に映るのは、スローモーションで落下していく無数の瓦礫と、交差する銃弾の軌道だけ。
恐怖も、焦燥も、ハルの放つノイズ(殺意)すらも、今の彼には微塵も届かない。
アテナと完全に同調した朝日の脳内には、ただ一つ。
『勝利への道筋』だけが、光り輝く一本の線として明確に描かれていた。
朝日は空中で身体を捻り、ハルの弾幕を紙一重で躱しながら、瓦礫の山へと滑り込む。
彼の視線の先にあるのは、気を失った雪那の傍らに落ちている漆黒の銃身――『グングニル』。
バチィッ! と。
急降下の勢いのままグリップを握りしめた朝日の手に、硬くて不格好な「布」の感触が伝わった。
「……これは」
グングニルのグリップには、血と泥にまみれた小さな布が、解けないように何重にもグルグル巻きに縛り付けられていた。
くるみが神社で買ってきた、『必勝』のお守り。
合理主義で、データしか信じていなかった孤高の狙撃手(雪那)が。
最強の敵を前に、震える手でこのお守りを武器に巻きつけ、仲間のために祈りながら引き金を引いていたのだ。
(……ああ。俺は、一人で戦ってるんじゃない)
掌から伝わる、雪那とくるみの確かな温度。
無音の世界の中で、朝日の呼吸が完璧な『静寂』へと澄み渡っていく。
『――距離15。敵、上空より急降下。……朝日、撃てますか?』
アテナの問いかけ。
重厚な対物ライフルであるグングニルは、本来なら伏せて固定しなければ撃てないほどの反動を持つピーキーな銃だ。
だが、朝日はグリップに巻かれたお守りを強く握りしめ、片手でその巨大な銃身を天へとカチ上げた。
「余裕だ。……俺たちの『最強の矛』は、これっぽっちもブレねぇよ」
頭上から、狂乱のハルが二丁の銃口を突きつけて迫り来る。
朝日は、その眉間へと漆黒の銃口を真っ直ぐに合わせた。
『――撃て、朝日!!』
アテナの叫びと同時。
朝日は、極限の無音の世界を破るように、迫り来る最強のライバルへ向けて、静かに、けれど熱く言葉を放った。
「ここまで俺を引き上げてくれて、ありがとな……ハル」
その声が届いた瞬間、わずかに時間の流れが戻る。
圧倒的な死の予感と共に朝日の言葉を聞いたハルの顔から、ドロドロとした怒りがスッと抜け落ちていく。
ハルの見開かれた瞳に、ほんの一瞬だけ、かつての純粋な『ゲーマーとしての歓喜の笑顔』が戻った気がした。
だが、朝日の引き金は止まらない。
相棒の演算と、スナイパーの矛と、盾の祈り。すべてを乗せた一撃を、天へ向けて解き放つ。
「――でも、俺たちはまだまだ強くなるぜ!!」
ズガァァァァァァァァンッ!!!!!!!
アーク・ルインズの空を真っ二つに割るような、規格外の轟音と極太の閃光。
反動で朝日の腕の骨が悲鳴を上げるが、お守りを巻きつけた手はミリ単位のブレすら許さなかった。
放たれた一撃は、ハルの放とうとしたSMGの弾幕ごと彼のアバターを完全に呑み込み、空の彼方へと消し飛ばした。
激しい閃光が収まり、静寂が訪れる。
カラン、と空からハルの遺したSMGが一つだけ落ちてきて、瓦礫の上で乾いた音を立てた。
直後。
全サーバーの生き残りたち、そして世界中の中継モニターを見つめる数億人の観客の前に、巨大な黄金のホログラムが展開された。
『――VICTORY!!』
『――全サーバー頂上決戦・優勝:【チーム・アテナ】!!!』
「……っしゃあ、終わったぞ。テナさん、雪那、くるみ……」
腕をだらりと下げ、天を仰いだ朝日の顔に、最高の笑顔が浮かぶ。
最弱と蔑まれた劣等生とAIのコンビが、最高の仲間と共に全サーバーの頂点を完全に制覇した、伝説の瞬間だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
皆様の応援のおかげで、無事に第一章の完結となる第55話まで駆け抜けることができました。
激昂する最強の王者ハルに対し、仲間の想いを巻いたグングニルで応えた朝日。
劣等生、完璧なスナイパー、孤独な盾。
凸凹な3人と1機のAIが紡いだバトロワの頂点への軌跡、いかがだったでしょうか。
「ラストの撃ち合いに痺れた!」「第一章完結おめでとう!」と少しでも心が熱くなっていただけましたら、
ぜひページ下部の【☆】を【★】に変えて、優勝した彼らへのお祝いと応援をしていただけると本当に嬉しいです!
(皆様からの星や応援が、次なる物語を書き上げる作者の最大のエネルギーになります!!)
第一章はこれにて完結となりますが、まだまだ彼らの道は続きます。
頂点に立った朝日の前に立ちはだかる、真の黒幕の思惑とは……?
次章でも、さらに熱い展開をお届けします。引き続き応援よろしくお願いいたします!




