氷のプレデターと狂乱の舞踏
「王様気取りは……そこまでですっ!!」
下層から放たれたくるみの防衛爆撃が、タワーの頂上を容赦なく粉砕した、その数秒前。
崩壊する玉座から、二つの影が空中の瓦礫へと飛び出していた。
「ハルゥゥゥゥッ!!」
「あははっ! 待ちくたびれたよ、朝日ィ!!」
二丁のSMGを構え、底抜けに無邪気な笑顔で瓦礫を蹴り出すハル。
マスタングを構え、真っ直ぐにハルを見据える朝日。
互いが空中で交差し、その最初の一歩を踏み出した、まさにその瞬間だった。
ズガァァァァァァンッ!!!
眼下から逆流してきた極太の閃光が、ハルの隣を飛んでいたキョウの胴体を跡形もなく消し飛ばした。
空中で、ハルの笑顔がピタリと凍りつく。
『――朝日! 雪那さんは無事です! 瀕死のダメージですが、脳波に異常はありません!』
アテナの迅速な報告。
「……ッ、よくやった雪那!!」
仲間が生きている。その事実が、朝日の心から一切の迷いと「怒り」を消し去った。
だが、ハルは違った。
「キョウ……? 嘘だろ……?」
落下していく相棒の光の粒子を見つめ、ハルの瞳孔が極限まで収縮する。
そして、彼に張り付いていた『無邪気な王者の仮面』が、完全に剥がれ落ちた。
「貴様らぁぁぁぁぁぁっっ!!!! ぶっ殺してやるッ!!!」
大気を震わせるほどの、鼓膜を劈く絶叫。
それはゲームを楽しむ余裕など微塵もない、純度100%の真っ直ぐな殺意だった。
「キョウくんっ! 待っててハル、私がそのライフルでカバーを――」
崩れるタワーの縁で、シオンがキョウの遺した対物ライフルへ手を伸ばそうとする。
しかし。
「邪魔をするなァァァァッッ!!!」
ハルの血を吐くような怒号が、シオンをビクッと硬直させた。
味方の援護すら拒絶する、ハルの孤独な狂気。シオンがその圧力に萎縮し、動きを止めたコンマ一秒。
「――よそ見しないでくださいっ!!」
「えっ――」
崩落する瓦礫を蹴り渡り、シオンの眼前に肉薄した小さな影。くるみだ。
彼女はかつてのオドオドした少女ではない。アテナの地獄の特訓を乗り越えた、前線を張る盾。
くるみの放った強烈なショットガンのゼロ距離射撃が、萎縮したシオンを容赦なく吹き飛ばした。
『――【チーム・フェンリル】1名脱落』
仲間たちが作り上げた、完全なる1対1(タイマン)の盤面。
落下していく無数の瓦礫の中、ハルと朝日だけが空中に残された。
「死ね死ね死ね死ねェェェッ!!」
アルティメットスキル『ファントム・ダンス』。
激昂したハルがシステムのリミッターを完全に破壊する。空中に無数の残像を生み出しながら、ありとあらゆる死角から、予選とは比べ物にならない速度と凶暴性で二丁SMGの弾幕を乱射してくる。
狂乱の舞踏。普通なら、その圧倒的な弾幕と殺意の前に一瞬で蜂の巣にされるだろう。
だが、朝日の心は、極限まで研ぎ澄まされた『氷』だった。
(……頼むぜ、テナさん)
『――ええ。私たちの【最適解】を、彼に教えましょう』
アルティメットスキル『プレデター・ゾーン』。
朝日の瞳が、野生の「黄金」と、アテナの演算を象徴する「蒼光」のマーブル模様に輝く。
世界が、完璧なスローモーションへと移行する。
怒りに任せて殺到するハルの無数の残像。その中から、アテナのサポートロジックが【本物】の軌道を完全に可視化し、朝日の肉体が一切の無駄なくそれを躱していく。
感情を捨てた氷の捕食者と、怒りに我を忘れた狂乱の王者。
空中で交差する無数の弾丸を、朝日はアテナの演算(最適解)に従ってミリ単位で躱していく。
やがて、空中でついにハルの二丁SMGから「カチッ」と弾切れの乾いた音が鳴った。
リロードの隙はない。アテナの演算が『ハルの攻撃終了』を予測し、朝日へ反撃フェーズへの移行を指示する。
だが――。
「舐めるなァァァァッッ!!!」
空中、身をよじるような無理な体勢。システム上、絶対に不可能とされる重心移動。
ハルは弾切れの硬直をキャンセルし、朝日の顔面へ向けて強烈な回し蹴りを叩き込んだのだ。
ガッ!!
「ぐ、はっ……!?」
完璧な回避軌道を描いていた朝日の顎に、ハルの蹴りがクリーンヒットする。
『――なっ!? 私の演算を、上回った……!?』
アテナの驚愕の声が響く。怒りと殺意によってシステムの上限を突破した、ハルの純粋な闘争本能。
ハルはその蹴りの反動を利用して空中で姿勢を立て直し、信じられない速度でSMGのマガジンをリロードした。
「死ねェェェッ!!」
再び始まる狂乱の弾幕。アテナが慌てて軌道修正の指示を出すが、ハルの気迫と勢いは完全にAIの処理能力を凌駕し始めていた。
空中を蹴り合いながら落下していく中、朝日はマスタングで応戦するものの、その圧倒的な圧力にジリジリと防戦一方へと押し込まれていく。
(クソッ……! なんだこの重圧は……っ!)
プレデター・ゾーンの中でさえ、ハルの殺意が肌を焼くように伝わってくる。
このままでは押し切られる。何か、盤面をひっくり返す最後の一手は――。
視線を巡らせた朝日の黄金の瞳が、瓦礫の山に倒れ伏す雪那の姿を捉えた。
いや、その傍らで黒鈍い光を放つ、『漆黒の銃身』を。
同時に、朝日の脳内で膨大な演算を回していたアテナも、その存在に最適解を見出していた。
『……朝日』
「……ああ、テナさん」
極限の防戦の中、人間とAIの思考が完全に、寸分の狂いもなくシンクロする。
『雪那さんが遺した、あの【最強の矛】で――』
「雪那が遺した、あの【グングニル】で――」
「『――決着をつける!!』」
朝日はハルの弾幕を強引にマスタングの銃身で弾き返し、自ら空中から地上――雪那の倒れる瓦礫の山へ向けて、真っ直ぐに急降下を開始した。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
第54話。雪那の覚悟を受け取った朝日と、相棒を失い激昂するハル。
『氷のプレデター』と『狂乱の王者』による、限界を突破した空中戦でした!
AIであるアテナの予測すら上回るハルの執念、いかがだったでしょうか。
防戦一方に追い込まれた朝日は、倒れた雪那が遺した【グングニル】へ向けて急降下します。
いよいよ次回、すべてが決まる第一章の最終話(決着編)!
チーム・アテナの絆が紡ぐ最後の一撃を、絶対に見逃さないでください!!
「ハルとの空中戦、熱すぎる!」「アテナとのシンクロ最高!」と少しでも思っていただけましたら、
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