開戦の合図と、勝率1%の盤面
「……上等だ」
朝日は不敵に笑い、愛銃『マスタング』の銃身を遥か上空の玉座へ向け――。
「――って、何堂々と身を晒してカッコつけてますのこのバカッ!!」
「わわっ!? 朝日さん、早くこっちに!」
次の瞬間、雪那に首根っこを掴まれ、くるみに引っ張られた朝日は、無様に瓦礫の陰へと引きずり込まれた。
「いってぇな! なにすんだよ雪那!」
「狙撃手に撃たれたいんですの!? 相手はあのキョウですわよ!」
一方、タワーの頂上。
バチバチの宣戦布告を終えたハルの後頭部にも、容赦ない平手打ちが炸裂していた。
「いっっっつ!?」
「……ハル。全体チャットを私物化して、わざわざ自分たちの位置をひけらかすバカがどこにいる」
副官であるキョウが、巨大な対物ライフルを構えながら氷のように冷たい視線を下す。
「い、いいだろ別に! これで朝日も本気で――」
「次やったら、その脳天ブチ抜くぞ」
「……はい」
絶対王者の威厳は、ものの数秒で呆気なく崩れ去っていた。
「……さて。ふざけるのはここまでですわ」
瓦礫の裏。チーム・アテナの作戦会議が始まった。
雪那の表情から先ほどのコミカルな怒りが消え、IGLとしての冷徹な顔つきに戻る。
「周囲に隠れている6部隊を適度に削り、互いに潰し合わせる。極限まで盤面が荒れたところを、私たちとフェンリルで同時に漁夫って掃除する……そこまでは造作もありませんわ」
雪那は手元のマップにピンを刺しながら、淀みなく盤面整理を行う。
「問題は、他部隊を全滅させてフェンリルとの純粋な3対3になった後です。私のデバイスで現在の戦力差と残弾数を元にシミュレーションを回しましたが……真正面からぶつかった場合の勝率は1%未満。勝ち筋が見えませんわ」
雪那は悔しそうに唇を噛む。どんなに優秀な指揮官でも、フェンリルという絶対的な実力差の前では盤上をひっくり返す最後の一手が導き出せない。
「……なぁ、アテナ。お前ならどうする?」
沈黙を破ったのは朝日だった。
彼は自分のデバイスを軽く叩き、相棒であるAIに意見を求めた。
『……簡単なロジックですよ、朝日』
朝日のインカムから、アテナの落ち着いた、けれどどこか楽しげな声が響く。
『フェンリルとの最終決戦において、真正面からの撃ち合いは間違いなく死を意味します。ですが、彼らの完璧な連携を根底から狂わせ、勝率を跳ね上げる【極悪な一手】が一つだけ存在します』
「ほう……?」
『最終盤面を整えるための漁夫を利用し、フェンリルの視覚と戦術予測を逆手に取るのです』
アテナから語られる、常軌を逸したカウンター戦術。
システムの常識を覆すその提案に、雪那は目を丸くした。
「ちょっ……アテナ、あなたAIでしょう!? なんですの、その性格の悪い戦術は……!」
『お褒めいただき光栄です、雪那さん。私はただのシステムですが――私の朝日が非合理な勝利を望む以上、常識的な演算など無意味ですから』
どこか誇らしげに語るアテナのAIらしからぬ言葉に、朝日は「ハッ」と嬉しそうに笑った。
雪那もやがて呆れたように小さく笑い、グングニルのボルトを引き直す。
「……狂ってますわ、あなたたち。でも、それならハルの鼻を明かせるかもしれませんわね」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
バチバチの邂逅からの、両陣営のコミカルな日常(?)パートでした。
そしてついに導き出されたフェンリル打倒のシナリオ。雪那のIGLとしての盤面コントロールに、相棒AI・アテナの「ちょっと性格の悪い(人間臭い)」極悪な一手が加わります! これぞ【相棒AI×VR-FPS】の真骨頂!
「怒られてる2人に笑った!」「アテナの策が気になる!」と思っていただけたら、
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