名もなき村と、氷の狙撃手の涙
激流に飲み込まれた三人が流れ着いたのは、マップの外れにある名もなき小さな集落だった。
目立った物資が一切配置されていないため、他の猛者たちが見向きもしない空白地帯。皮肉にも、満身創痍の彼らにとってはこれ以上ない安全地帯となっていた。
「……ふぅ」
古びた木造の小屋。朝日は濡れた髪を乱暴に拭いながら、簡素なベッドに横たわる小さな姿を見つめた。
気絶しているくるみのバイタルは安定している。VR上の強烈な痛覚ショックで意識を失っているだけだ。
『――無茶をしますね、朝日。あの激流への落下時、生存確率はわずか12%でしたよ』
朝日のデバイスから、相棒AI・アテナの静かな声が響く。
朝日は薄く笑い、壁に寄りかかった。
「ハッ、ゼロじゃねぇなら上等だ。……それに、あのままくるみが撃ち抜かれるのを見てるくらいなら、一緒に落ちた方がマシだ」
『……ええ。それが「あなた」という人間です』
AIのロジックでは測れない朝日の不合理な、けれど確かな『芯』の強さ。アテナの声には、どこか呆れと、深い肯定が入り混じっていた。
「朝日……っ!」
その時、小屋の扉が勢いよく開き、水も滴る姿の雪那が飛び込んできた。
いつも完璧に整えられている銀髪は乱れ、制服は泥だらけ。何より、普段は冷徹な彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ出していた。
「おお、雪那。無事だっ――」
「バカッ!!」
駆け寄った雪那は、朝日の胸をポカポカと叩きながら泣き崩れた。
「2人とも……っ、死んじゃったかと思いましたのよ……! 私を置いていかないで……っ!」
「悪かったよ。くるみも無事だ、奥で寝てる。……よく生きて合流してくれたな、雪那」
朝日は驚きながらも、泣きじゃくる雪那の正面にしゃがみ込み、「怪我はないか?」と優しく覗き込んだ。
その瞬間、雪那はたまらず朝日の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「……今度、同じマネをしたら絶対に許しませんわ。私より先に死んだら、絶対に許さない……っ!」
「雪那……」
「私はもう、誰も失いたくありません。だから……次は必ず、私の【IGL(戦術指揮)】で、あなたたち2人を完璧に守り抜いてみせますわ……!」
涙交じりの、しかし決意に満ちた最強の司令塔の誓い。朝日は少し照れくさそうに、彼女の背中をポンポンと叩いた。
「あ、ぅ……」
その静かな余韻を破るように、小屋の奥でくるみが目を覚ました。
肩にはまだ銃弾に貫かれた痛覚の残滓があるはずだ。しかし彼女は、朝日の姿を見るなり痛みを忘れ、ふらふらと立ち上がって勢いよくその胸に飛び込んだ。
「朝日さん……っ! よかった、無事だったんですね……!!」
「ばっか、お前……! 俺のことはいいんだよ。お前が庇ってくれなきゃ、俺は死んでた。ありがとうな、くるみ」
朝日は飛び込んできたくるみをしっかりと受け止め、その頭を優しく撫でた。
「俺はピンピンしてる。……それより、お前の方は無事か? 肩、まだ痛むだろ」
「へへっ……朝日さんが無事なら、こんなの全然痛くないです!」
ボロボロになりながらも、誰一人欠けることなく合流を果たした【チーム・アテナ】。
雪那も歩み寄り、三人は互いの無事を心から喜び合った。
『――生存チーム、残り9部隊(計27名)。最終安全地帯への収縮を開始します』
空から響く、無機質で無慈悲なシステムアナウンス。
朝日は立ち上がり、愛銃マスタングの撃鉄をカチリと起こした。
「……さあ、休憩はお終いだ。ここを出て、あのバケモノどもを狩りに行くぞ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
激流からの生還。冷徹なIGL・雪那の涙と、自分の痛みより朝日の無事を喜ぶくるみ。
極限状態だからこそ描ける『チーム・アテナ』の絆の形でした!
そして無慈悲に告げられる安置収縮……いよいよ最終決戦が迫ります!
「雪那のデレ最高!」「くるみ健気すぎる!」と思っていただけたら、
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