幻影の王者と、アナログの咆哮
『――現在、生存チーム残り12部隊(計36名)』
本戦決勝が開幕してわずか数十分。無機質なシステムアナウンスが告げたその数字は、全サーバーから集まったバケモノ同士の潰し合いがいかに苛烈かを物語っていた。
『チーム・アテナ』はマップ東側のビル群を抜け、最終安置となる中央の【セントラル・タワー】を目指していた。
しかし、彼らの前には巨大な谷底を流れる激流と、そこへ架かる巨大な吊り橋が立ち塞がっていた。
いや――「立ち塞がっていた」という表現は正確ではない。
「……なるほど。完全にやられていますわね」
雪那がバイザー越しに見下ろした先。巨大な吊り橋の中央部分は、見事に爆破され、無残に崩落していた。
「他のチームが渡れないように、あえて橋を落として『関所』を完全に封鎖したんですわね。決勝の連中、中々えげつない盤面コントロールをしますわ」
「うわぁ……下は激流だし、落ちたら一貫の終わりだよ……」
くるみが谷底を覗き込んで身震いする。
渡る手段は、辛うじて残っている数本の太いワイヤーのみ。
「行くしかねぇだろ。くるみ、盾頼むぜ」
朝日は迷うことなくワイヤーの上へ跳躍し、駆け出した。くるみも慌てて後を追い、空中でドームシールドの展開準備に入る。
――その瞬間だった。
ポォンッ、ポォンッ!
対岸の高所から、無数の円筒状の物体が放物線を描いて飛来した。
「スモークグレネード!? しかもこの量……!」
瞬く間に、橋の残骸は視界ゼロの濃密な煙に包まれた。
『――見つけたぜ、日本のバケモノ共』
煙の向こう、対岸に陣取っていた他サーバーの王者連合が嗤う。
「心音センサー、捕捉完了。……一斉掃射!」
ズガガガガガガッ!!!
煙で見えないはずの対岸から、朝日の心音を正確に狙った十字砲火が襲いかかる。
「展開しますっ!!」
くるみが展開したドームシールドが銃弾を弾くが、相手は決勝の猛者。数人がかりの重火器による集中砲火は、尋常ではないDPS(火力)を叩き出していた。
ピシッ、ピキキキッ……!
「きゃあっ……! 朝日さん、シールドがもちませんっ!!」
「チッ……! 雪那、撃ち返せるか!?」
「ダメですわ! 奴ら、光の屈折スキルで無数の分身を生み出しています! 煙と分身で、本物の的が絞れません!」
パァァァンッ!!
限界を超えたくるみのドームシールドが、ついに空中で粉砕される。
その直後、敵の一発が朝日の腕を掠めた。
「もらったァ!!」
対岸の敵が勝利を確信して叫ぶ。彼らのスキルは『一発でも弾を当てれば、相手の武器をオーバーヒートさせる』という凶悪なデバフ。
バチバチッ!!
朝日の背中にマウントされていた最新鋭のアサルトライフルが、強制的なシステムダウンを起こし、火花を散らして沈黙した。
「メイン武器が死んだぞ! あとは的当てだ、詰めろ!!」
分身と共に、煙の中から一気に距離を詰めてくる王者たち。
絶対絶命。誰もが朝日の死を確信した。
だが――朝日の口角は、凶悪な弧を描いて吊り上がっていた。
「……雪那。本物は見えるか?」
後方の遮蔽物に身を隠していた雪那の瞳が、淡い蒼光を放つ。
アルティメットスキル『ラプラスの神眼』。
「――ええ。光の屈折の分身には、『未来の予測線』は出ませんわ」
無数の分身の中から、未来への軌跡を描く「本物」だけを完璧に見抜く神眼。
ピシュォォォンッ!!
雪那の放った氷の凶弾が、分身に紛れて突っ込んできた敵のIGL(指揮官)の頭部を正確に撃ち抜く。
「なっ!? 分身を見抜いた……!? だが、前衛の武器は死んでる!!」
残る敵が朝日へ銃口を向ける。
しかし、煙を切り裂いて飛び出してきた朝日の手には、アサルトライフルではない『別のモノ』が握られていた。
「電子制御がイカれたくらいで、俺が止まると思ったか?」
それは、電子制御も冷却システムも一切搭載されていない、ゴリゴリのアナログ旧式銃。
デバフなど一切通用しない、鉄と火薬だけの野性の牙――『マスタング』。
「な、旧式のアナログ銃だと……!?」
「遅ぇよ!!」
ズガァンッ!! ズガァンッ!!
鼓膜を破るようなマスタングの咆哮。
ワイヤーを蹴り上げ、空中に舞った朝日の圧倒的なフィジカルから放たれた二発の特大火力が、驚愕で硬直した敵の顔面を正面から粉砕した。
これで一つ目のチームを無力化――。
しかし、朝日の視界の端で、別の殺気が跳ねた。
『――バカめ。俺たちの本命は、お前が突っ込んできたその瞬間だ』
結託していたもう一つのチーム。彼らは最初から味方を囮にし、朝日の動きが空中で止まるこの一瞬を、別角度の死角から完璧に狙い澄ましていたのだ。
マスタングを撃ち終えた直後の朝日には、回避する術がない。
「もらったァ!!」
無慈悲な銃口が朝日に向く。
――その時。
「朝日さんっ!!」
朝日の視界を遮るように、小さな背中が飛び込んできた。
くるみだった。
先ほどの集中砲火でドームシールドが破壊され、再展開まではまだ数秒足りない。
それでも、誰よりも仲間を想う彼女の身体は、デバイスの演算を待たずして「本能」で動いていた。自らの肉体を、最強の盾とするために。
ズバァンッ!!
「あ、ぅ……っ!!」
敵の放った凶弾が、くるみの左肩を容赦なく貫く。
現実と同等の痛覚設定。強烈な痛みと衝撃が、彼女の小柄な身体を空中に吹き飛ばした。
「くるみ……ッ!?」
朝日の目が見開かれる。
バランスを崩したくるみの身体は、崩落した橋の縁を越え、遥か眼下の激流へと真っ逆さまに落ちていく。
「――っ、くるみ!!!」
朝日はコンマ一秒の躊躇もなかった。
敵への反撃も、勝利への執着もすべて投げ捨て、落ちていく小さな盾を追って、自らも激流の谷底へと飛び込んだ。
「バカッ、前衛が二人とも何を……!」
残された雪那が舌打ちをする。しかし、彼女の行動もまた早かった。
「――お前たちに構っている暇はありませんわ」
コキュートスで敵の足元へ威嚇射撃を放ち、足止めをしたその一瞬の隙。
雪那もまた一切の迷いなく、ライフルを抱えたまま、仲間たちの待つ谷底の激流へと身を躍らせたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
本戦決勝の中盤戦! 敵の極悪コンボをアナログ銃『マスタング』で破ったものの……まさかの展開!
クールタイム中の盾に代わり、自らの身を挺して朝日を庇ったくるみ。そして、一切の躊躇なく激流の谷底へ飛び込んだ朝日と雪那。
圧倒的不利な地形で描かれる、チーム・アテナの真の『絆』です!
激流に飲まれた3人は、この絶体絶命のピンチをどう生き延びるのか!?
少しでも「くるみ熱い!」「3人の絆に泣けた!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
ぜひページ下部の【☆】を【★】にして応援していただけると、明日の執筆の最大のエネルギーになります!
よろしくお願いします!




