ランクのバグと、超越する常識
「ふざけんな!! なんだあの旧式のゴミ武器は!!」
「あり得ない! 俺たちのAIは、あいつを『脅威度ゼロの丸腰』だと判定していたはずだぞ!!」
フルダイブVRルーム。カプセルから跳ね起きるなり、二人のエリート生徒が怒声と共にヘルメットを床に叩きつけた。
つい先ほど、千堂朝日の放った「たった2発」の旧式リボルバーに頭を撃ち抜かれた敗者たちだ。
「おいおい、みっともないぜ。万年最下位の劣等生に負けた言い訳がそれかよ」
彼らの喚き声をせせら笑うように遮ったのは、ダイブルームの特等席に座る一人の少年だった。
桐谷――この学園で現在トップの成績を誇る、冷酷なエリートだ。彼の胸元には、全校生徒のわずか1割しか到達できないエリートの証、そして学園最高到達点である【ダイヤⅣ】のエンブレムが誇らしげに輝いている。
「AIの予測演算は絶対だ。お前らが千堂のイレギュラーな動きにビビって、射線管理を怠っただけだろう。……まあいい、ちょうど今期の『ランク反映』の時間だ。俺のランクの輝きでも見て、少しは頭を冷やせよ」
桐谷が余裕の笑みを浮かべながら指を鳴らすと同時。
学園のダイブルームに設置された巨大なメインモニターと、全生徒のデバイスに、無機質なシステム音声が鳴り響いた。
『――これより、全生徒のランク反映を実行します』
この学園のランクシステムには、一つの絶対的なルールが存在する。
それは『一度でも1位つまりチャンピオンを獲得しなければ、累計ポイントがランクに反映されない』というものだ。
だからこそ、エリートたちはこぞってAIの最適解に従い、順番にチャンピオンを取って自分のランクを上げてきた。
モニターのランキングボードが激しく明滅し、生徒たちの名前が次々と入れ替わっていく。
「さあ、俺の名前は……なに?」
一番上に自分の名前が表示されると信じて疑わなかった桐谷の表情が、一瞬で凍りついた。
1位の欄に刻まれたのは、桐谷ではない。
【 学内ランキング 1位:千堂 朝日 】
「……は?」
「な、なんだよこれ……千堂が、1位……!?」
「待て! バグだ、あり得ない! あいつのランクエンブレムを見ろ!!」
誰かの悲鳴のような声に釣られ、全員の視線が千堂朝日の名前の横に輝くエンブレムに釘付けになった。
そこに表示されていたのは、桐谷の「ダイヤⅣ」を遥かに凌駕する、見たこともない圧倒的な輝き。
プロの領域に片足を突っ込んだ証――【ダイヤⅡ】のエンブレムだった。
「だ、ダイヤⅡだと……!? プロの一歩手前じゃないか! この学園にはダイヤⅣ以上の生徒は存在しないはずだぞ!?」
「AIの計算エラーだ! こんなの絶対に認めない!!」
パニックに陥る生徒たち。しかし、彼らの耳元のデバイスは無慈悲な事実を告げる。
『エラーではありません。対象者・千堂朝日は、入学から1年半、すべてのマッチにおいて【最終安置】まで生存し続けています。今回、初のチャンピオン獲得により、蓄積されていた膨大な生存総合ポイントが一括でランクに反映されました』
――誰も気づいていなかった。
万年3位と嘲笑われていた劣等生が、実はこの学園の誰よりも長く戦場を生き抜き、誰よりも泥臭くポイントを稼ぎ続けていたという、異常な事実に。
「……嘘、だろ」
桐谷はその場にへたり込み、絶望に染まった瞳でモニターを見上げた。
AIの弾き出した「正解」だけをなぞって生きてきた彼らの常識が、たった一人の「人間のバグ」によって完全にへし折られた瞬間だった。
その頃。
騒然とするダイブルームの隅で、ゆっくりとカプセルを開けて身を起こした朝日は、軽く首を鳴らしながら小さく息を吐いた。
「……なあテナさん。なんか周り、すげえ静かじゃない?」
『ふふっ。皆、朝日の叩き出した「計算外」の数字に、演算処理が追いついていないだけよ。……おめでとう、朝日。最高の景色ね』
相棒の優しい声に、朝日はただ「そうかよ」とだけ呟き、まだ少し火薬の匂いが残っているような右手を、力強く握りしめた。




