泥水の煙幕と、ラプラスの神眼
水没居住区の泥水に身を沈め、息を殺していた敵チームの3人。
彼らの作戦はシンプルかつ凶悪だった。足を取られて動きが鈍った獲物を、死角となる水中からの奇襲で一斉に蜂の巣にする。
「……来たぞ。あの近接特化のバカが先頭だ。泥に足を踏み入れた瞬間、撃て」
リーダーが通信で仲間に囁く。
だが、彼らが引き金を引くよりも早く、獲物たちの方が動いた。
「そこですわね。朝日」
「おう!そら、 プレゼントだ!」
朝日はニヤリと笑い、道中で拾い集めていた『フラググレネード』のピンを抜き、ためらうことなく前方の泥水へと連続で放り投げた。
ドッガァァァンッ!!
爆発。しかし、狙いは敵への直接ダメージではない。
炸裂したフラググレネードは泥水を数メートルもの高さまで巻き上げ、辺り一帯に濃密な『泥の煙幕』を作り出したのだ。
「なっ!? 視界が――!」
突然の爆発と泥水のシャワーに、水中に潜んでいた敵チームは思わず身を起こし、パニックに陥る。
「くるみ!」
「任せて!」
くるみがデバイスを操作した瞬間、泥水の水面すれすれに、青く輝く『光の足場』が一直線に生成された。
「っしゃあ! 最高の道だぜ!!」
朝日は泥水に足を取られることなく、その光の足場を次々と蹴り飛ばし、平地と変わらぬ猛スピードで泥の煙幕の中へ突入していく。
「バカな!? 盾を足場にして水の上を走って――」
想定外の機動力で急接近してくる朝日に気を取られ、敵のリーダーがアサルトライフルを構えようとした、その瞬間。
「――システム・オーバーライド」
後方の廃ビルの屋上。愛銃『コキュートス』を構えた雪那の瞳が、淡い蒼光を放つ。
アルテメットスキル:『ラプラスの神眼』。
雪那の視界が、特殊なデータ空間へと切り替わる。
分厚い泥の煙幕も、コンクリートの壁も関係ない。彼女の網膜には、隠れた敵の心音と、彼らが「数秒後にどう動くか」を示す予測線がくっきりと可視化されていた。
(右のコンテナ裏の敵。朝日に驚き、後退しながら左へ顔を出しますわね。到達まで、1.2秒)
雪那の冷徹なIGLが、スキルの予測線と完全にリンクする。
彼女は敵が見える前に、何もない空間へ向けてコキュートスの銃口を置き――引き金を引いた。
ピシュォォォンッ!!
敵がコンテナの左から顔を出した、まさにそのコンマ数秒後。
まるで「自分から弾丸に当たりにいった」かのように、敵の眉間を氷の凶弾が正確に撃ち抜いた。
神がかった未来予測からの、完璧な『先撃ち(プリファイア)』。
「1人ダウン。残り2人、朝日の右前方」
「把握!!」
味方が頭を撃ち抜かれ、完全に戦意を喪失した残り2人の頭上へ、シールドを蹴り上げた朝日が跳躍する。
「水遊びはお終いだ。沈めや」
ズガァンッ!! ズガァンッ!!
空中から放たれた『マスタング』の無慈悲な二連撃。
逃げ場を失った敵の背中を、理不尽なまでの大口径の威力が泥水ごと粉砕した。
『――【チーム・アテナ】が【チーム・デルタ】を全滅させました』
「ふぅ……。煙幕からのシールド強襲、マジで刺さったな!」
朝日は着地と同時にマスタングのシリンダーを回し、硝煙を吹き飛ばす。
「無駄口を叩いていないで、物資を回収しますわよ。……これで南エリアも制圧完了。明日の朝、ここから中央の『セントラル・シティ』へ向けて押し上げます」
屋上から降りてきた雪那の瞳は、すでに通常の黒に戻っていた。
本戦2日目の夕暮れ。
生き残った他チームが疲労と恐怖で身を削る中、3頭の獣たちは次なる狩り場(中央エリア)を見据え、ただ静かに牙を研いでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はグレネードを活用した煙幕作戦と、雪那のチート級ULT『ラプラスの神眼』のお披露目でした!
次回はいよいよ本戦3日目。最大の激戦区である中央市街地へ突入します!
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