平野の狙撃手と、水没した死地
静寂の森を抜け、マップ西部『旧軌道エレベーター基部』の平野へ足を踏み入れた3人。
そこは、背丈の低い枯草がまばらに生えるだけの、見渡す限りの荒野だった。身を隠す遮蔽物は極端に少なく、はるか遠くに巨大な塔の残骸がそびえ立っている。
「……嫌な地形ですわね。どこから撃たれてもおかしくありません」
雪那が目を細め、周囲を警戒する。
「大丈夫だよ。どこから来ても、私が絶対に防ぐから」
くるみが両手でシールドの起動デバイスを握り締め、朝日の半歩前を歩く。かつて怯えていた少女の背中は、今は誰よりも頼もしい『盾』だった。
その時――空気を切り裂くような、甲高い破裂音が響いた。
パァァンッ!!
遥か800メートル先、塔の残骸の中腹からの超長距離狙撃。
放たれた大口径スナイパーライフルの一撃が、先頭を歩く朝日の眉間を正確に捉えていた。
だが――
ガギィィィンッ!!
銃弾が朝日に届くコンマ数秒前。
火花と共に、朝日の目の前に『極小のシールド』が展開され、銃弾を完全に弾き飛ばした。周囲全体を覆うドーム型ではない。飛来する銃弾の軌道を瞬時に読み切り、その一点にのみシールドのエネルギーを集中させる『ピンポイント展開』だ。
「なっ……!?」
塔の上からスコープを覗いていた敵スナイパーが驚愕した瞬間。
「距離800、仰角30度。――見え透いた射線ですわ」
銃弾が弾かれた直後。雪那は自身の相棒である愛用のスナイパーライフル『コキュートス』を瞬時に構え、敵の射線をなぞるように反撃の引き金を引いた。
ピシュォォォンッ!!
空気を切り裂く鋭い銃声。
雪那の放った氷のような一撃は、800メートル先の敵スナイパーの頬を掠め、背後の壁に深く突き刺さった。
「うおっ!?」
間一髪で身を隠し、冷や汗を流す敵スナイパー。
「敵スナイパーを釘付けにしました! くるみ、前方にシールドを展開しながら進行! 朝日はそのまま塔の基部を制圧しなさい!」
「オッケェ!! ぶっ潰す!!」
雪那の制圧射撃と、くるみのピンポイントシールドによる完璧なカバー。
その鉄壁の援護を受けながら、朝日は猟犬のように平野を駆け抜けた。距離800メートルが、瞬く間にゼロになる。
塔の基部に到達した朝日を待ち受けていたのは、スナイパーの護衛として控えていた敵チームの残り2名だった。
「来やがった! 近接特化のバカが、2対1で勝てると思うなよ!」
アサルトライフルとサブマシンガンを構え、迎撃しようとする2人。
「……ハッ。邪魔だ、そこどけや!!」
ズガァンッ!! ズガァンッ!!
朝日の手にする『マスタング』が、理不尽なまでの暴力的な咆哮を上げる。
細かい小細工などない。圧倒的な反応速度とフィジカルで放たれた凶弾は、2人が引き金を引くより早く、彼らの胴体をぶち抜いた。
護衛を失い、逃げ場をなくした3階のスナイパーも、後から追いついた雪那の正確な射撃によって処理される。
『――【チーム・アテナ】が【チーム・オメガ】を全滅させました』
「ナイスカバー、2人とも。超やりやすかったぜ」
塔の制圧を終えた朝日は、マスタングの硝煙を吹き飛ばしながらニヤリと笑った。
「えへへ……任せてって言ったでしょ」
「油断しないで。本命はここからですわよ」
平野を抜けた3人の目の前に広がったのは、マップ南部――『水没居住区』だった。
崩れかけたコンクリートの建物群。その1階部分は完全に泥水に浸かっており、水面には不気味な藻が浮いている。
足を踏み入れると、水は膝下まであり、泥が足に絡みついて極端に機動力が奪われる最悪の環境だった。
「……うわぁ、気持ち悪い。泥の匂いがする」
くるみが顔をしかめながら、バチャバチャと水音を立てて進む。
新型マシンのリアルな感覚が、水の冷たさと泥の不快感を容赦なく伝えてくる。
だが、厄介なのはそれだけではない。
『バチャッ……』
微かな、しかし確かな水音が、廃ビルの陰から響いた。
「……歓迎されているようですわね」
雪那がハンドサインを出し、3人はピタリと足を止める。
泥水の中に潜み、こちらが足を取られたところを狙う『環境適応型』の待ち伏せ。
機動力が命の朝日たちにとって、ここはこれまでの平地とは勝手が違う、真の死地だった。
「どうする、雪那? 水ん中じゃ、俺のダッシュも鈍るぜ」
朝日はマスタングを構えながら、好戦的な笑みを浮かべた。
「問題ありませんわ。――環境が邪魔なら、環境ごと利用するだけです」
雪那の冷ややかな声が、水没したスラムに響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は、朝日の愛銃『マスタング』と、雪那の『コキュートス』の激アツなコンボでした!
3年分の地獄の特訓を経て、バケモノへと仕上がった彼らの無双劇!
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