盤上のルールと、余裕のバケモノたち
『本戦ファーストステージ、ルールを説明します』
待機ロビーの虚空に、巨大なホログラムモニターが浮かび上がった。
無機質なシステム音声が、120名のプレイヤーたちに冷酷な条件を突きつける。
『全40チームは、これより【Aブロック】と【Bブロック】、各20チームずつに分割されます。
降下するマップは同一ですが、次元が異なります。これより始まる「3日間のサバイバル」でキルと生存ポイントを稼ぎ、3日目終了時点で各ブロック上位10チーム、計20チームのみが【グランドファイナル】への進出となります』
ホログラムにチームの振り分けが表示されていく。
朝日の網膜に映し出されたUIには【Aブロック】の文字。そして、視線の先にいるハルやキョウたちの頭上には【Bブロック】のアイコンが点灯していた。
「……なるほど。ハルたちとは、決勝までお預けってわけか」
朝日は少しだけつまらなそうに首を鳴らす。
「好都合ですわ。ここで潰し合ってシステム側にデータを取られるより、決勝の舞台でまとめて叩き伏せた方が痛快でしょう?」
雪那が優雅に髪をかき上げながら笑う。
その直後、周囲の景色がブレたかと思うと、Aブロックに割り当てられた二十チームは、上空一万メートルを飛ぶ巨大なドロップシップの内部へと強制転送されていた。
『本戦マップ、環境実験都市【アーク・ルインズ】上空に到達。降下シークエンスに移行します』
機内の中央に、半径約十キロにも及ぶ広大な人工島のホログラムマップが浮かび上がる。
かつて超高度な文明が築かれ、そして放棄された箱庭。大自然の緑に侵食された高層ビル群や、巨大な工業プラント、水没した居住区などが、様々なバイオームを形成している。
赤色のランプが点滅し、降下までのカウントダウンが始まる。
重苦しい緊張感が漂う機内で、他のプレイヤーたちが武器の感触を確かめたり、こわばった顔で深呼吸をしたりする中――朝日たち3人だけは、まるでピクニックにでも来たかのようにリラックスした空気を漂わせていた。
「なあ、雪那。初動なんだけどよ」
朝日はニヤリと笑いながら、ホログラムマップの中央を指差した。
「ど真ん中の『セントラル・シティ』に降りねえか? あそこに降りる奴らを初手で全員薙ぎ払えば、物資もキルポもウハウハだろ」
その言葉に、他のチームのプレイヤーたちがギョッとして朝日を睨みつける。
しかし、朝日の提案を真っ向から切り捨てたのは、敵ではなく身内だった。
「……却下ですわ。あの地獄の特訓で『言語化とロジック』を学んだのはどこの誰でしたっけ? あそこは射線が無数に通る上に不確定要素が多すぎます。無駄なリスクは負いません」
雪那がジト目で朝日を睨む。
「そうだよ、朝日くん」
続いて、くるみまでが呆れたようにため息をついた。
「せっかくアテナさんに戦術を叩き込まれたのに、また脳筋プレイするつもり? もし勝手に突っ込んだら、私、ドームシールドの外に朝日くんを締め出すからね」
「お、おいマジかよ。くるみが一番容赦ねえな……」
かつて盾の裏で震えていた少女からの辛辣なツッコミに、朝日は苦笑いして両手を上げた。
その和やかなやり取りは、傍から見ればただの油断。
だが、彼らが放つ『強者の余裕』は、同じ機内にいるプレイヤーたちに得体の知れない薄ら寒さを感じさせていた。
『――降下、5秒前』
システムアナウンスと共に、輸送機の後部ハッチが重々しい音を立てて開いた。
轟音。
その瞬間、朝日はこれまでの予選との『決定的な違い』を肌で感じ取った。
(……風圧、それに、鉄の匂い……!?)
新型マシンの脳波リンクがもたらす、異常なまでの五感の再現度。
吹き込んでくる上空の凍てつくような冷気。鼓膜を圧迫する轟音。眼下に広がる廃都市の輪郭までが、現実と寸分違わぬ解像度で迫ってくる。
もはやただのVRではない。ここは、血と硝煙の匂いが支配する本物の戦場だ。
「……どうやら、あの忌々しい新型カプセルは、痛覚や疲労度まで現実と同等に設定しているようですわね」
雪那もそのリアルさに気づいたのか、表情を引き締める。
だが、その瞳に恐れはない。
「降下地点を共有しますわ。マップ北東――『第4放棄プラント』」
雪那の網膜から、二人へピンポイントの座標データが飛ぶ。
入り組んだパイプと無数の足場が入り乱れる、戦術が極めて重要になる工業エリアだ。
「他三チームが同じエリアを狙っていますが……私たちの『戦術』で、一切の隙なくすり潰しますわよ」
「了解」
「いっくよー!」
青空に向かって、3つの影が同時に飛び出す。
重力に引かれ、凄まじい風切り音と共に急降下していく3人。
彼らの眼下には、死の匂いが充満する広大な戦場が待ち受けていた。




