焚き火の前の告白と、顕現する女神
パチパチと薪が爆ぜる音だけが、星降る裏山に響いていた。
温かいコーヒーの入ったマグカップを両手で包み込みながら、くるみがポツリと、静寂を破るように口を開いた。
「……私ね。リアルには、全然お友達がいなかったんだ」
揺れる炎を見つめながら、彼女は恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに語り始めた。
「ずっと一人ぼっちで……ゼニフロの中だけが、私の居場所だった。そこで朝日くんと雪那さんに出会えて。二人が、初めて私を『仲間』だって言ってくれたの。だから……私はもう絶対に、二人を失いたくない。あのバケモノみたいな人たちにも、絶対に勝ちたい……っ」
その震える声に、雪那はふっと表情を緩め、自身のマグカップを見つめた。
「……奇遇ですわね。私も、本当の意味での仲間なんて、今までいませんでしたわ」
「雪那、さん……?」
「神崎の家に生まれ、勝つのが当たり前。少しでも足手まといになれば容赦なく切り捨ててきました。……でも、あなたたちは違った。私の独断に反発し、それでも最後には最高の連携で応えてくれた。……誰にも負けたくない。この『3人』で、絶対に頂点に立ちますわ」
孤高のエリートと、孤独な天才。
全く違う道を歩んできた二人が、ゼニフロという戦場で出会い、初めて見つけた「居場所」。その純粋で熱い思いを受け取った朝日は、静かに息を吐き出した。
「……お前ら。実はお前らに、ずっと隠してたことがある」
朝日の声のトーンが一段下がる。
「俺がこの世界大会で勝ち上がりたい、本当の理由は――」
『――そこから先は、私から話しましょう』
突如、朝日のポケットに入っていたデバイスが眩い光を放った。
「えっ……!?」
雪那とくるみが息を呑む。
デバイスから照射された光の粒子が、焚き火の傍で急速に収束し、一つの『実体』を形作ったのだ。
そこに現れたのは、光を編み込んだような美しい金髪と、知性と慈愛に満ちた瞳を持つ、息を呑むほどに美しい女性の姿だった。古代の女神を思わせるその神々しさに、雪那は思わず立ち上がった。
「なっ……ホログラムの自発的な顕現!? ユーザーの音声コマンドなしで、AIが勝手に実体化するなんて……それに、なんて美しい……」
AI技術の最先端を知る神崎財閥の令嬢だからこそ、目の前で起きている事象がどれほど「あり得ない」ことか、雪那には痛いほど理解できた。
『初めまして。神崎雪那さん、柊くるみさん。私は朝日の専属AI、アテナです』
アテナは優雅に微笑み、二人に向かって一礼した。
「テナさん、お前……」
『朝日が言葉に詰まっていたから、少しお節介を焼いただけよ』
親が子を嗜めるような、温かい声。
アテナは焚き火の炎を見つめ、静かに語り始めた。
『朝日の両親は、かつて世界最高峰のAI開発者でした。そして、AI社会において「絶対に起きるはずのない」交通事故で、謎の死を遂げたのです』
「交通事故……まさか暗殺、ということですか……!?」
雪那の問いに、アテナは静かに頷く。
『ええ。そして両親は、自分たちが消されることを予感していた。だからこそ、遺される幼い朝日を守り、親代わりとなって導くために……システムの監視外で、この「私」を創り上げたのです』
「親代わり……じゃあ、アテナさんは……」
くるみが両手で口を覆う。
『朝日の両親は過去に、この「ゼニフロ」の大会に参加していました。そして、このゲームを裏で操っているのは、両親の元同僚である神宮司という男……。私たちは、消された両親の痕跡と、この狂ったデスゲームの真実に辿り着くために戦っているのです』
アテナの言葉が、夜の森に吸い込まれていく。
朝日は立ち上がり、静かに二人の目を見た。
「最初は、ただ雪那に引っ張られて成り行きできた。だけど、親父とお袋が関わっていたことを知り、真実を知りたくなった。でも今は違う」
朝日は強く拳を握りしめた。
「NPCにされた奴らを全員元に戻す。そして、お前らと3人で、絶対に生き残る、絶対に!これが、俺の戦う理由だ」
圧倒的なスケールの真実と、朝日の悲壮なまでの覚悟。
雪那とくるみは、言葉もなくただ強く、強く頷いた。
誰一人欠けてはならない。3人の魂が完全に一つに同期した瞬間だった。




