圧倒的な格付けと、残酷な生存アナウンス
「すっげえええ!! 君たちが命懸けで隙を作ってくれたおかげで、一発で仕留められた! 本当にありがとう!!」
無邪気で、太陽のように眩しい笑顔。
その屈託のない称賛を前に、朝日は言葉を発することができなかった。
(……違う。こいつは、システムの補助なんか一切使ってない)
朝日の本能が、目の前の男――日向 晴の異常性を告げていた。
自分と同じ、いや、自分を遥かに凌駕する純粋な『フィジカル』と『戦闘IQ』。ただの一歩、ただの視線の動かし方だけで、彼が自分とは次元の違うバケモノであることが嫌でも理解できてしまったのだ。
「……ッ」
朝日はギリッと奥歯を噛み締め、マスタングを下ろして深く俯く。完全に沈黙する彼を見下ろすように、崩れた天井からスナイパーライフルを担いだ銀髪の男が飛び降りてきた。
「おい晴。こんなゴミ共に礼なんて言うなよ」
男は氷のように冷たい瞳で朝日を鋭く睨みつけた。
「頭を使えねぇ猿が、ただ猪突猛進してヘイトを買っただけだろ。見てて痛々しかったぜ」
「なっ……!」
その侮蔑の言葉に、誰よりも早く反応したのは雪那だった。
「撤回しなさい!!」
彼女はひしゃげたライフルを握りしめ、激昂して男に詰め寄る。
「朝日がどれだけの覚悟で飛び出したと思っているんですの!? あなたたちこそ、私たちの死闘を横取りしただけじゃないですか!!」
気高きお嬢様の怒り。しかし、銀髪のスナイパーは一切怯むことなく、雪那の怒声を遥かに上回る冷徹なトーンで言い放った。
「はぁ? 横取り? 寝言はNPCになってから言えよ」
「っ……!」
「事実だろ。あのまま突っ込んでたらお前らは全員死んでた。俺たちが『尻拭い』してやらなきゃ、お前らも仲良く自我を消されてたんだよ。感謝するのはそっちだろ、射線管理もまともにできねぇ三流スナイパー」
ぐうの音も出ない『正論』。
もし彼らの介入がコンマ数秒でも遅れていれば、朝日は確実に蜂の巣にされていた。雪那は唇を噛み切りそうなほど悔しげに震え、言葉を詰まらせる。
「あわわ……っ、雪那さん、落ち着いて……!」
「ふにゃ〜……キョウくん、また正論で女の子泣かしちゃダメだよぉ〜……。でもほんとのことだけどねぇ〜」
おろおろと雪那を止めようとするくるみと、天井の穴からふにゃふにゃと間延びした声で相槌を打つ敵のサポート。カオスな空間になりかけたその時、ハルがパンッと手を叩いた。
「こらこら、キョウ! 言い過ぎだぞ! ごめんな、こいつ口は悪いけど悪気はないんだ! ほら、これ持っていきなよ!」
ハルはそう言って、豪華なクレートから取り出した最上級の回復アイテムを、ポンッと朝日の足元に投げ落とした。
それは見下した施しではなく、心からの善意。だからこそ、朝日のプライドをズタズタに引き裂くには十分すぎる行為だった。
その時である。
空を覆っていた赤黒いノイズが晴れ、待機島で聞いたあの無機質な仮面のホログラムが上空に出現した。
『――現在、生存部隊が5部隊(15名)となりました。これにて規定数に達したため、第2マッチ、並びにアジア予選を終了いたします』
「……えっ」
くるみが空を見上げる。先ほどの市街地戦で朝日たちが2部隊を壊滅させ、さらにこの処刑部屋をハルたちがクリアしたことで、全体の生存数が一気に削り取られたのだ。
『生き残った5部隊の皆様。あなた方は勝ち点でも上位5チームとなりますので、そのまま予選リーグ突破とし、本戦(世界大会)への進出を許可します』
仮面の男の声が、嗤うように続く。
『そして、脱落した25チーム(75名)は……誠に残念ですが、敗退(NPC化)となります。彼らのデータは速やかに消去され、AIとしての再利用プロセスに移行しました』
「75人が……消された……?」
雪那がその場にへたり込む。
予選突破。本来なら歓喜に沸くはずのその結果は、ハルたちに見せつけられた圧倒的な実力差と、75人もの人間の『自我』がたった今消滅したという残酷な事実によって、ひたすらに重く、苦い味しか残さなかった。




