最強から、最高へ
無機質な破裂音の余韻が消え、ドームシールドの中に重い静寂が降り降りた。
光の粒子となって消滅した敵の痕跡を見下ろしたまま、朝日はゆっくりとマスタングを下ろす。
「……朝日、さん……」
沈黙を破ったのは、へたり込んだ雪那の震える声だった。
彼女の大粒の涙が、ひび割れたアーマーを伝って床に落ちる。
「ごめんなさい……! 私の、私のせいで……っ」
背中に突きつけられた死の恐怖。そして、自分が背負うべき『敵をNPCにする』という罪を、すべて朝日に押し付けてしまったことへの痛烈な悔恨。
気高きお嬢様である雪那が、子供のように顔を覆って泣きじゃくっていた。
「わ、私も……ごめんなさい……っ!」
くるみもまた、ライフルを握りしめたままボロボロと涙を溢れさせる。
「撃てなかった……。朝日さんが飛び込んでくれなかったら、雪那さんが殺されてたのに……私、怖くて……朝日さんに、全部背負わせちゃって……!」
二人の号泣を前に、朝日は振り返り、いつものように――だが、ほんの少しだけ無理をして――ニヤリと笑ってみせた。
「……馬鹿野郎、謝るのは俺の方だ」
朝日は自らの頭をガシガシと掻く。
「3人1組だってのに、裏取りしてる最後の1人を計算できてなかった。俺が焦って突っ走って、お前ら2人を危険に晒したんだ。……本当に、すまん」
それぞれが、自分の甘さと未熟さを痛感し、互いを想って謝罪する。
廃墟の片隅に、3人の静かな呼吸音だけが流れた。
それは、彼らがただの『ゲーム仲間』から、命と罪を共有する『共犯者』へと変わるための、必要な痛みの時間だった。
やがて。
雪那が顔を上げ、乱暴に涙を拭い去った。
そのサファイアのような瞳から、先程までの迷いや恐怖は完全に消え去っていた。
「……もう、二度と躊躇しません」
雪那はひしゃげたライフルを強く握り直し、朝日とくるみを真っ直ぐに見据える。
「私が引き金を引かなければ、誰かの心が壊れるかもしれない。でも――そんなことよりも、私は、くるみや朝日を失うことの方が絶対に嫌ですわ!! だから、私は撃つ。2人のために、何だって撃ち抜いてみせます!」
その気迫に当てられるように、くるみも立ち上がった。
まだ瞳には涙が残っていたが、その表情はかつてないほど凛としていた。
「私も……もう迷いません! お二人を守るために……ううん、三人で一緒に生きて帰るために、私も絶対に躊躇しません!」
二人の少女が下した、あまりにも重く、強き覚悟。
それを受け止めた朝日の顔から、無理に作っていた笑みが消える。
代わりに浮かんだのは、すべてを薙ぎ払う『最強の矛』としての、獰猛で頼もしい笑みだった。
「……ああ。俺も迷わねぇ」
朝日はマスタングを構え直し、前方の暗闇へと視線を向ける。
「俺の全てを使って、お前ら二人を絶対に傷つけさせない。……いくぞ。俺たち3人で、このクソみたいなゲームをぶっ壊してやる」
この瞬間、彼らはただスキルを持ち合わせた『最強』のチームから、互いの命と罪を預け合う『最高』のチームへと進化した。
デスゲームという底なしの闇の中で、3人の絆だけが、決して消えない光として輝き始めていた。




