死線とチェックメイト
「うおおおおっ!! なんだあの部隊!?」
「千堂の動き、AIの予測軌道を完全に外れてるぞ!」
「柊のカバーも完璧だ! 神崎の狙撃が全部刺さってる!!」
学園のダイブルームは、割れんばかりの歓声と熱狂に包まれていた。
巨大モニターに映し出されているのは、かつての「万年3位の劣等生」「協調性ゼロのぼっち令嬢」そして「ランク落ちの元プロ」――彼らスリーマンセルによる、圧倒的な蹂躙劇。
エリート生徒たちがAIの『定石』に頼れば頼るほど、朝日の規格外のフィジカルがその計算を物理的に破壊していく。パニックに陥った敵を、くるみの『最強の盾』が封じ込め、雪那の『無慈悲な矛』が刈り取る。
誰の目にも明らかだった。彼らの連携は、すでにこの学園の次元を遥かに超えていると。
そして、試合はついに最終盤。
生き残ったのは、朝日たちスリーマンセルと――学園トップの成績を誇るエリート、桐谷の部隊のみ。
***
「……上がってきたのがあの劣等生たちとはな。だが、無駄な足掻きだ」
最終安置。マップ内で最も標高が高く、強固な遮蔽物に守られた『絶対的有利ポジション』。
桐谷は冷笑を浮かべながら、眼下を見下ろしていた。
「AIの演算が弾き出した、我々の勝率は99%。なぜなら、我々の背後はすでに即死のパルスに飲まれている。裏を取られる可能性は『ゼロ』。正面からの強行突破しかできないあいつらを、ここから撃ち下ろせば確実に終わる」
桐谷の言う通り、彼らの背後には赤い壁――『3秒触れれば即死』のパルスが迫っていた。データ上、この陣形は完璧だった。
「来るぞ! 正面に敵影!」
味方の声と共に、高台の下から凄まじい爆発音が連続して鳴り響いた。
「防衛爆撃とグレネードだと? 馬鹿め、当たるはずが――」
桐谷が嘲笑った瞬間、分厚い土煙と爆炎が『煙幕』となり、眼下の視界を完全に奪い去った。
「目くらましか! だが、来るのは正面だけだ! 弾幕を張れ!」
AIの指示通り、正面の煙幕に向かって一斉射撃を開始する桐谷部隊。
だが、彼らは知らなかった。
AIのデータには決して存在しない、『規格外のバグ』がそこにあることを。
――視界が奪われたその瞬間。
朝日は正面ではなく、自ら『即死のパルスの海』へとその身を投じていたのだ。
『警告。パルスダメージ。生存限界まで残り――』
全身を焼くような激痛。視界が赤く染まる。
だが、朝日の足は止まらない。
1秒。2秒。
限界まで鍛え抜かれた現実のフィジカルが、システム上の数値を凌駕する速度で斜面を駆け上がる。
そして、2.8秒。
「――お留守だぜ、エリートさんよ」
桐谷部隊の『絶対安全なはずの背後』から、死線を越えた悪魔の声が響いた。
「なっ……!? 背後!? パルスの中からだと!?」
驚愕で振り返る暇すら与えず、朝日の右ストレートが一人目の顔面に直撃し、ダウンを奪う。
すぐさまもう一人に蹴りを叩き込み、アーマーを粉々に砕き割る。
「この、バグ野郎があああ!!」
だが、残された桐谷の反応は速かった。瞬時に朝日へとオートエイムの銃口を向ける。
パルスのダメージで虫の息の朝日。躱すことは不可能――。
「朝日さんっ!!」
眼下の煙幕の中から、くるみの声が響いた。
放物線を描いて投げ込まれた重厚なデバイスが、朝日の足元で起動する。
ブゥゥゥンッ!!
展開されたドームシールドが、桐谷の放った凶弾を間一髪で弾き返した。
それと同時。ドームの際から顔を出したアーマーの割れた敵兵の頭を、遥か後方から放たれた雪那の弾丸が正確に撃ち抜いた。
「――チェックメイトですわ(二度目)」
これで残るは、桐谷ただ一人。
絶対の自信を持っていたAIの計算が、陣形が、すべて目の前で理不尽に破壊された。
「認めない……こんなデタラメな挙動、AIのデータにない! 認められるかあああ!!」
激昂した桐谷は、ついに定石も計算も投げ捨て、ショットガンを構えてドームシールドの内側へと突進した。
近距離でのインファイト。確実に朝日を仕留めるための一撃。
「死ねえええ!!」
至近距離で放たれる散弾。
だが。
「……計算通りにしか動けない奴の攻撃なんて、あくびが出るぜ」
朝日は、その圧倒的な動体視力と柔軟なフィジカルで、体を僅かにズラして凶弾を完全に躱し切っていた。
前のめりに体勢を崩した桐谷。
その眉間に、冷たい銃口がピタリと押し当てられる。
旧式リボルバー、『マスタング』。
「チェックメイトだ、エリートさん」
カチリ、と撃鉄が落ちる音が、桐谷の耳に響いた。
バーンッ!!
鈍い銃声と共に、桐谷のアバターが光の粒子となって消滅する。
モニターにデカデカと表示されたのは、鮮やかな勝利を告げる文字。
『CHAMPION』
ダイブルームの静寂は一瞬。
次の瞬間、学園の歴史上、未だかつてないほどの爆発的な大歓声が、3人の勝利を祝福するように響き渡ったのだった。




