初陣のゼニフロ、そして最強の盾の帰還
「――全校生徒の皆さん。我が校から、記念すべき現役高校生にしてプロプレイヤーのチームが誕生しました!」
学園のダイブルームに設置された巨大モニターに、恰幅の良い理事長が満面の笑みで映し出される。
その言葉に、集まった生徒たちの間にどよめきが走った。
「この歓喜を祝し、本日は我が校主催の小規模なカスタムマッチを開催いたします。参加条件はプラチナ帯以上の上位ランカー限定。そして、ルールは全世界が熱狂するeスポーツの頂点――『ZENITH FRONTIER』の公式ルールに則って行います!」
『ZENITH FRONTIER』公式ルール概要
◆参加人数: 3人1組× 30部隊 = 総勢90名の大乱戦!
◆基本システム: 上空のシップから広大なマップへ各自降下し、武器や物資は現地調達して生き残るサバイバル方式。
◆リング(安置)システム: 時間経過と共に安全地帯(安置)が縮小。安置外は凶悪なパルスに覆われており、「3秒触れると即死」という極めてシビアなデッドゾーン。
◆【超重要】ダイヤ特権: ダイヤ帯以上のプレイヤーにのみ許された特権。オーバースペックの武器(ゲームバランスを崩すレジェンダリー武器など)を除き、自分の愛用武器を「初期装備」として持ち込むことができる。
「それでは――各員、降下準備!」
理事長の高らかな宣言と共に、ダイブルームの熱気は最高潮に達した。
***
「……くっ、ふざけやがって。なんであの万年3位の劣等生がダイヤⅡなんだよ」
上空を飛ぶ輸送シップからの降下中。
学園の鼻持ちならないプラチナ・ダイヤ混成のエリート部隊は、忌々しそうに舌打ちをしていた。
彼らの視線の先には、同じエリアへ降下していく一つの部隊。神崎雪那、千堂朝日、そして柊くるみのスリーマンセルだ。
「ダイヤⅠの神崎と、バグで飛び級した千堂は武器を持ってる。だが、柊くるみはブランクのせいでランク減衰、今はただの『ブロンズⅣ』だ。特権はなく、完全な丸腰で落ちてきているぞ」
「チッ、元プロが聞いて呆れるぜ。初動で狩り殺して、格の違いってやつを教えてやろう」
エリートたちはAIの弾き出した「最適解」に従い、くるみを最初のターゲットに定めて一直線に降下していった。
ガチャンッ!!
地面に降り立った瞬間、くるみは慌てて近くのサプライボックスを開け、アサルトライフルとショットガンを拾い上げた。
しかし、その手はガタガタと震え、うまく武器を構えることができない。
「だ、だめ……! 武器の反動係数も、システムのUIも、3年前の仕様と全然違う……っ!」
『警告。システムとの適合率30%。最適な射撃姿勢が構築できません』
度重なる大型アップデートの壁。
かつて世界を熱狂させた「最強の盾」は、そのブランクの重さに押し潰されそうになっていた。
「もらったぜ、元プロさんよぉ!!」
建物の角から、エリート生徒3人が一斉にオートエイムの銃口をくるみに向ける。
万事休すかと思われた、その時だった。
「――おっと、よそ見してんじゃねえぞ」
頭上から降ってきた影が、エリートたちの視界を遮った。
千堂朝日だ。彼の右手には、ダイヤ特権で持ち込んだ無骨な旧式リボルバー『マスタング』が握られている。
「千堂!? クソ、AIの射線管理をすり抜けてきやがった!」
「俺がヘイトを稼ぐ! 雪那、撃ち抜け!」
朝日は驚異的な脚力で戦場を駆け回り、エリートたちのAI予測演算を掻き乱す。
その隙を突き、後方の高所から雪那の愛用スナイパーライフルが火を噴いた。
ズドンッ!
「ぐあっ!?」
エリートの一人が膝をつく。しかし、相手も腐っても学内上位ランカーだ。AIが即座に「最適なカバーと蘇生手順」を弾き出し、残る2人が完璧な連携で蘇生と制圧射撃を行ってくる。
実質、朝日と雪那の2vs3。
「千堂! 私の射線管理にも限界がありますわよ! 早く崩しなさい!」
「わかってる! でも、こいつらマニュアル通りに動きやがって崩しにく――」
焦る朝日の足元に、敵の放ったグレネードが転がった。
爆発。土煙が舞い、朝日の逃げ場が完全に塞がれる。
3つの銃口が、孤立した朝日に集中した。
「終わりだ、千堂!!」
――その瞬間。
くるみの瞳に、かつての鋭い光が宿った。
『――味方の生存確率、低下。システム適合、強制完了』
重いアサルトライフルを軽々と構え直し、地面を蹴る。
エリートたちが引き金を引くより早く、くるみは朝日の眼前に飛び込み、ドンッ!と重厚なデバイスを地面に叩きつけた。
「朝日さんには、指一本触れさせません……! 『ドームシールド』展開!!」
ブゥゥゥンッ!!
眩い光の半球が展開され、エリートたちの放った無数の銃弾をすべて弾き返した。
「なっ……!? あの反応速度、データにはねぇぞ!?」
驚愕し、AIの再計算に気を取られたエリートたち。
その隙を、最強の盾は見逃さなかった。
「雪那さん、上です!」
くるみが叫ぶと同時、彼女のアルティメットスキルである『防衛爆撃』の雨が、エリートたちの頭上に降り注いだ。
ドガガガガガッ!!
「うわあああっ!?」
「陣形が……! AIの予測演算が追いつかない!!」
爆炎に巻き込まれ、たまらず遮蔽物から空地へと飛び出してくるエリート生徒たち。
土煙の隙間、空中に放り出された彼らの無防備な姿。
高所でスコープを覗き込んでいた雪那の口角が、美しく、そして残酷に吊り上がった。
「――チェックメイトですわ」
パンッ! パンッ! パンッ!
コンマ1秒の狂いもない3発の銃声。
空中に逃げ出したエリートたちの頭部を、雪那の放った弾丸が次々と正確に撃ち抜いていった。
『部隊全滅(キルリーダー・神崎雪那)』
戦場に、一瞬の静寂が訪れる。
無様に散ったエリートたちは、ただの一言も言い訳を喚く暇すら与えられず、光の粒子となってログアウトしていった。
***
「ふぅ……なんとか、勘を取り戻せました」
ドームシールドを解除し、へたり込むくるみ。
「当然ですわ。私の完璧な射線管理とあなたのカバーがあれば、この程度のエリートごとき……ふふっ」
ドヤ顔で髪をファサッとかき上げる雪那。
「おう! 今の爆撃すげえな! 敵が勝手に空中に飛び出してきやがった!」
無邪気に笑いながら、マスタングをクルクルと回す朝日。
彼らは気づいていなかった。
現実世界のダイブルームで、その圧倒的で美しすぎる「プロの連携」をモニター越しに目撃していた全校生徒たちが、信じられないものを見たように息を呑み――。
次の瞬間、ダイブルームが揺れるほどの、爆発的な大歓声と拍手が巻き起こっていたことに。
かくして、全く噛み合わないままの最強スリーマンセルは、その初陣において、学園の歴史に深く刻まれる伝説の第一歩を踏み出したのだった。




