支配者と、魔境のパーティー
「――というわけで。私、神崎雪那は、柊くるみ選手、及び千堂朝日とのスリーマンセルを結成し、今後の競技シーンへ参戦することをここに宣言いたしますわ」
学園の公式ネットワークと、自身の数十万のフォロワーを抱えるSNSアカウント。
そもそも、財閥令嬢である神崎雪那がゲリラ的に配信した「チーム結成宣言」の短い動画は、瞬く間に世界中のAIによって拡散され、巨大なうねりとなって界隈をパニックに陥れていた。
『えっ!? あの行方不明だった最強の盾(柊くるみ)が復帰!?』
『底辺の千堂がなんで!? いや、千堂はこの前ダイヤⅡに飛び級したバケモノだぞ!』
『ダイヤⅠの神崎、ダイヤⅡの千堂、そして元シンギュラリティの柊……なんだこのパーティ!?』
――そんなネット上の熱狂を、遥か上空から見下ろす一人の男がいた。
「千堂……朝日、か」
完璧に最適化された巨大都市を一望できる、超高層ビルの最上階。
現代のAI社会のすべてを創造し、牛耳っている『支配者』――神宮寺 司は、空間に浮かぶホログラムモニターに映る朝日の姿を、深い色の瞳で見つめていた。
「千堂くんの息子か……大きくなったな。あの不器用なまでに真っ直ぐな瞳、血は争えないのかな」
その呟きには、支配者としての冷徹さではなく、まるで遠く離れた甥っ子を見守るような、不思議な温かさと懐かしさが滲んでいた。
『マスター・神宮寺。千堂朝日のパーソナルデータへのアクセスを試みましたが、強力なプロテクトがかかっています』
神宮寺の背後に控える、世界最高峰の演算能力を持つ美しき人型AIが、無機質な声で報告する。
『何者か――極めて高度な独立型AIが、外部からの接触を完全に拒絶しているようです』
「……そうか。彼女はまだ、彼を守っているんだな」
神宮寺はグラスの氷をカラリと揺らし、ふっと口角を上げた。
「いいさ。今はまだ、その泥臭い羽でどこまで飛べるか見守らせてもらおう。……いつか、私と相まみえる事もあるだろうからな」
神宮寺の言葉は、静かな執務室に吸い込まれるように消えていった。
***
一方その頃。
そんな途方もないスケールの視線が向けられていることなど露知らず、山奥のオフグリッドの家では、激しい修羅場が展開されていた。
「――それで? 理事長の粋な計らいで、チームワーク構築のための小規模なスクリムが手配されたわけですが」
腕組みをした雪那が、コタツを囲む朝日とくるみをキツく睨みつけている。
「作戦を立てる前に、まずは現在のお互いのランクを正確に把握しておく必要がありますわ。当然ですが、私は【ダイヤⅠ】。最上位層であるクラウン昇格まであと一歩ですわ」
雪那がドヤ顔で言い放つと、くるみがビクッと肩を揺らし、朝日はのんきに笑いながら言った。
「おう、俺はこの前初めてチャンピオン取ってランクってのが解放されたんだけどな。なんか『ダイヤのⅡ』って書いてあったぞ」
「……は?」
「だから、ダイヤのⅡ」
雪那の額に、ピキリと青筋が浮かんだ。
「デビューして数日で……しかも、たった1回チャンピオンを取っただけで【ダイヤⅡ】!? 私がどれだけ野良のチンパンジーたちに暴言を吐くのを我慢し、血反吐を吐いてここまで上げたと思ってるんですかこのフィジカルバカ!!」
「痛ぇ!? 叩くな! 俺だってずっとずっと3位で泥臭く生き残ってきたんだよ!」
理不尽な飛び級にキレて朝日の頭をポカポカと叩く雪那。
その横で、くるみが申し訳なさそうに小さく手を挙げた。
「あ、あの……私は、3年間ログインしていなかったので、一番下の【ブロンズ4】まで落ちちゃってます……。でも、一応こういうバッジはあって……」
くるみが申し訳なさそうに表示したのは、プロ時代に到達した『シンギュラリティ(世界トップ500)』の神々しいエンブレムだった。
それを見た雪那が、叩く手を止めてワナワナと震え出した。
「た、たった1勝でダイヤⅡになったバカ前衛と……! 最底辺のブロンズ4まで落ちた元・特異点(神)!? なんですかこの両極端すぎる魔境パーティーは!!」
雪那はついに頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
「ああもう! これでどうやって連携を取れと言うんですか! おまけに千堂はAIのサポートなしで突っ込む野生児ですし……柊選手、あなただけが頼りです! このバカが突っ込んだら、絶対に死なせないようにドームで守ってくださいね!」
「は、はいっ! 私、がんばります!」
「おい、誰がバカだ」
かくして、全く噛み合わないままの最強(最狂)のスリーマンセルは、初めてのチームプレイとなる理事長主催のスクリムへと足を踏み入れることになったのだった。




