憧れと、最強の盾の加入
「いいから! 早く服を着てきなさいこの変態前衛!!」
雪那が近くにあったクッションを全力で投げつけると、朝日は「いてっ。なんだよ、減るもんじゃねえだろ」とぼやきながら、のそのそと脱衣所へ戻っていった。
嵐が去った後のように、静まり返るリビング。
ダボダボのジャージ姿で縮こまるくるみと、顔を真っ赤にして息を切らす雪那が、気まずい沈黙の中で取り残された。
(どうしよう……。まさか、柊選手本人がこんな所にいるなんて……!)
(怒らせちゃった……。ものすごく綺麗な人なのに、すごい迫力……)
互いに視線を泳がせていると、Tシャツを着た朝日が頭を掻きながら戻ってきた。
「悪かったな、くるみ。こいつ、やたら騒がしくて」
「ちょっと千堂! 柊選手に向かって『くるみ』なんて呼び捨てにして! 年上に敬意を示しなさい!」
「……は? なに言ってんだお前。どう見ても年下だろ。なんなら中学生くらいかと思ってたぞ」
「なっ……! 柊選手は今年で21歳です! 私たちよりずっと年上なんですからね!」
雪那の容赦ない暴露に、くるみは「あぅ……っ」と情けない声を漏らし、両手で真っ赤になった顔を覆ってしまった。
朝日は目を丸くして、小柄なくるみと雪那を交互に見比べる。
「マジで!? くるみ、21歳...成人なのか!?」
「ひ、ひぐっ……ごめんなさい、ちんちくりんで……」
「いや、謝ることじゃねえけど……。まあ、もやし生で食おうとするくらいだし、年齢なんてどうでもいいか」
「も、もやし……?」
雪那が怪訝な顔をすると、朝日は昨夜のスーパーでの出来事をあっけらかんと説明した。
極限の空腹で半額肉ともやしを前に震えていた元プロを、不憫に思って拾ってきたというあまりにも朝日すぎる事実に、雪那は深いタメ息をついて頭を抱えた。
「……はぁ。本当に、あなたは規格外というか、なんというか……」
「で、雪那はくるみのこと知ってんのか? プロだったんだろ?」
朝日の言葉に、雪那はハッとして姿勢を正した。
そして、顔を覆ったままのくるみに向き直り、少しだけ頬を染めながら、しかし真っ直ぐな瞳で告げた。
「……知っているも何も。私、柊選手のファンでしたから」
「え……?」
顔を覆っていた指の隙間から、くるみが驚いたように目を見開く。
「柊選手の『ドームシールド』の展開速度と、味方の生存を最優先にするあのプレイスタイル……。私には、到底真似できません。自分の身を危険に晒してでも味方を守り抜く、あの徹底した自己犠牲……私は、ずっと尊敬していました」
雪那は普段のツンとした態度を崩し、どこか熱を帯びた声で言葉を紡ぐ。
「冷静に後方から狙撃することしかできない私にとって……いつか、あなたのように背中を預けられる『最強の盾』とプレイしてみたいと、ずっと思っていたんです。……ネットの心無い言葉なんて、私が全て論破して撃ち抜いてみせます。だから……」
雪那はくるみの両手をそっと握りしめた。
「もう一度、私たちの前で、あの盾を展開してくれませんか」
かつて「邪魔だ」と言われた自分の盾。
しかし今、目の前には「背中を預けたい」と言ってくれる最高の狙撃手と、「いてくれるだけで安心できる」と笑う圧倒的な前衛がいる。
くるみの瞳から、三度目の涙が溢れ出した。
しかしそれは、昨日までの悲しみや孤独の涙とは違う、温かくて眩しい涙だった。
「わ、わたしで、よければ……っ! お二人の盾に、なりたいです……!!」
くるみが泣き笑いのような顔で頷くと、朝日は嬉しそうにニッと歯を見せて笑った。
「よし! これで三人揃ったな! よーし、結成祝いで今日の夜は余った肉で焼肉だ!!」
「ちょっと千堂! 昨日の夜も肉を食べたばかりでしょう! 栄養バランスを考えなさい!」
怒りながらも、雪那の口角は微かに上がっていた。
AIの監視すら届かないオフグリッドの小さな家で、規格外の劣等生、完璧な狙撃手、そして孤独な盾が交わり、学園とプロリーグを震撼させる『最強のスリーマンセル』が誕生したのであった。




