絶対防壁の盾と、強襲の狙撃手
「ふぅ……ちょっと薪割りで汗かいちまったな。悪い、俺一風呂浴びてくるわ」
「あ、はい……ごゆっくり」
涙を拭ったくるみに優しく笑いかけ、朝日は首にタオルを引っ掛けて風呂場へと向かっていった。
一人リビングに残されたくるみは、両手でお椀を包み込みながら、ついさっきまで朝日が座っていた場所をぼんやりと見つめていた。
(……千堂、朝日くん。本当に、不思議な人)
あの圧倒的な強さと、不器用だけど真っ直ぐな優しさ。
彼の隣なら、もう一度、誰も傷つけないための盾を張れるかもしれない。くるみの胸の奥で、3年間凍りついていた情熱が小さな火を灯し始めた、その時だった。
ピンポーン!!(ガラララッ!!!)
玄関のチャイムが鳴ったのと完全に同時。乱暴に引き戸が開け放たれる音が、山間の静かな家に響き渡った。
「ひっ!?」
くるみはビクッと肩を揺らし、恐る恐る玄関へと向かった。
「ちょっと千堂! いくらオフグリッドだからって、昨日の大会の後から連絡の一つも寄越さないなんてどういうつもり――」
そこに立っていたのは、息を切らした神崎雪那だった。
長い黒髪を揺らし、透き通るような美貌を持つ彼女は、玄関から顔を出した「ダボダボのジャージを着た見知らぬ小柄な少女」を見て、ピタリと固まった。
「えっ……」
「あ、あの……」
圧倒的な美少女の突然の襲来に、くるみも目を丸くして固まる。
雪那の優秀なサポートAIが、瞬時に目の前の少女の顔データを照合し、一つの答えを弾き出した。
『マスター。彼女は3年前までプロリーグで活躍していた、元サポート専門のトッププレイヤー……』
「……柊、選手?」
雪那の口から、信じられないというようにその名がこぼれ落ちる。
なぜ、行方不明だったはずの元プロプレイヤーが、こんな山奥にある千堂朝日の家にいるのか。しかも、どう見ても「お泊まりをした翌朝」の格好で。
雪那の優秀な頭脳が完全に処理落ちし、あんぐりと口を開けたままフリーズした、まさにその瞬間だった。
「んー? くるみ、誰か来たのか? テナさんじゃねえよな?」
ガチャッ。
のんきな声と共にリビングの奥から現れたのは、シャワーを浴び終え、水滴を滴らせながら「腰にバスタオルを一枚巻いただけ」の千堂朝日だった。
「……っ!?」
「あ」
「ん? おお、雪那じゃねえか。どうやってここわかったんだ?」
見知らぬ(しかもプロの)女と、半裸で水も滴る自分の相棒。
そして、無駄に引き締まった朝日の肉体美。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
雪那の顔が、一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まる。
「な、ななな、何を白昼堂々と破廉恥な格好でウロウロしているんですかこのバカ前衛!!! しかも、なぜ柊選手があなたの家にいるんですか!? 意味がわかりません!!」
「いや、服着る前に来客だったから……ってかお前が勝手に入ってきたんだろ」
「うるさいうるさいうるさい! 最低です!! 幻滅しました!! 大体、その人はプロの――」
「あー、ごめん。ちょっとタオルずり落ちそう」
「ひぃっ!? ばか、隠しなさいよ!!」
両手で顔を覆いながらも、指の隙間からバッチリ見ている雪那。
あたふたとパニックになりながら、朝日の盾になろうと前へ出ようとするくるみ。
そして、一人だけ状況を全く理解していない、半裸の朝日。
静かでエモかったオフグリッドの聖域は、一瞬にしてカオスな修羅場へと変貌を遂げたのだった。




