万年3位の生存者
舞台は、全世界が大熱狂するフルダイブ型VR・FPS。
プレイヤーの現実フィジカルのがそのままゲーム内にトレースされるその過酷な競技において、この超エリート校の生徒たちは、ある意味で「平等」だった。
なぜなら、全員が最新鋭のAIを搭載しているからだ。
最適な降下ポイント、敵の射線管理、そして9割の銃器に標準搭載された「オートエイム」機能。AIの導き出す解にほとんど優劣はない。だからこそ、3ヶ月間の実践カリキュラムの中で、生徒たちはサイコロを振るように順番に「チャンピオン」を獲得していく。
――ただ一人、千堂朝日を除いて。
『残り部隊数、3。生存者、3名。最終リングの収縮まで残り45秒』
無機質なシステム音声が、焦げた土の匂いが漂う荒野に響き渡る。
岩陰に身を潜める朝日の息は、少しも乱れていなかった。現実世界で限界まで鍛え抜かれた彼のフィジカルは、フルダイブのこの世界でも圧倒的な機動力を生み出している。
「……テナさん、風向きが変わった。北東からの微風、あの稜線の裏なら足音は消せる」
『ええ。でも朝日、そこからどうするの? あなたの右にはアサルトライフルを構えたエリートくん、左にはスナイパーが控えているわ』
脳内に響くアテナの声は、相変わらず正解を教えてくれない。
入学から1年半。特待生としてこの学園に迎えられながら、朝日は一度もチャンピオンを取ったことがない。常に「3位」だ。
その最大の理由は、彼の右手に握られた「近接用ナイフ」にあった。
このゲームにおいて、銃を使わないプレイヤーなど本来は存在しない。
だが、アテナは朝日にオートエイムの使用を絶対に許さなかった。AIに照準を合わせてもらい、ただ引き金を引くだけの作業。そこに「人間の意志」はないからだ。
だから朝日は、両親から教わった自然の知識と、自らの肉体だけを頼りにフィールドを駆け回る。風を読み、死角を突き、落ちているグレネードを拾い集めては、化け物じみた生存能力で毎試合必ずこの「最終安置」まで生き残ってきた。
「……来るな」
朝日の耳が、わずかな砂利の音を捉えた。
生き残りが3人になった瞬間、他の2人のAIは必ず同じ「最適解」を弾き出す。
『――脅威度ゼロ。銃を持たない異端者を先にあぶり出し、排除せよ』と。
バババババッ!!
岩が砕け、火花が散る。オートエイムによる正確無比な十字砲火。
「くっ……!」
朝日は弾幕を避けるため、やむを得ず岩陰から飛び出した。驚異的な脚力で射線を切ろうとするが、開けた最終安置では限界がある。
「いたぞ! 万年3位のナイフ野郎だ!」
「さっさと終わらせる!」
システムに最適化された2つの銃口が、朝日の心臓を正確にロックオンする。
銃声。そして、朝日の視界が赤いゲームオーバーの光に包まれた。
『順位確定。千堂朝日、3位』
またしても、チャンピオンには届かなかった。
ログアウトしていくエリートたちが「また千堂か」「相変わらず逃げ回るだけだな」と嘲笑う声が聞こえる。
彼らは知らない。誰も注視しない朝日の「累積生存総合ポイント」が、すでに校内のどのトップエリートよりも遥か上の次元に達しているという事実を。
朝日はただ一人、悔しそうにナイフの柄を強く握りしめていた。




