予測不能と、完璧な一撃
学園内デュオ大会、初戦。
ダイブルームに構築されたのは、半壊した市街地を模したフィールドだった。
開始からわずか3分。前衛の朝日と、後衛の雪那は、崩れかけたコンクリートの壁裏に釘付けにされていた。
『――どうした雪那? お前のAIが導き出す「最適解」なんて、全部お見通しなんだよ』
フィールド全体に響く、スピーカー越しの嘲笑。
対戦相手は、プロリーグから「特別招待選手」として参加しているエリートデュオ。かつて雪那が「無能」と切り捨てた、元チームメイトの二人だった。
「くっ……!」
雪那は焦りと屈辱で唇を噛んだ。
彼女が移動しようとする先、顔を出そうとするタイミング、そのすべてに完璧な牽制射撃が撃ち込まれる。彼らは最新鋭のAIを使い、雪那の過去のプレイデータから「思考のクセ」を完全に解析し尽くしていたのだ。
「ダメです……私の戦術パターンは完全に読まれています。AIの予測生存率はゼロ。このままでは、ジリ貧で――」
「お前さ、ちょっと考えすぎだろ」
パニックになりかけた雪那の声を遮ったのは、隣で呑気にマスタングのシリンダーを回している朝日だった。
「データが読まれてるとか、生存率がどうとか……そんなのどうでもいいんだよ」
「どうでもいいって……じゃあ、どうやってこの包囲を突破するというのですか!?」
「難しく考えるな。俺が何とかしてやる」
朝日はニヤリと笑うと、フィールドのオブジェクトとして転がっていた『スモークグレネード』を二つ拾い上げた。
「お前はただ、俺が道を開けたら引き金を引く。それだけ準備しとけ」
「千堂、あなたまさか……!」
止める間もなく、朝日は壁の横からスモークグレネードを投擲した。
しかし、それは敵の陣地ではなく、自分たちと敵の中間にある『崩れかけのビル』の脆い柱に向かって投げられていた。
『無駄だ! AIの熱源センサーの前では、ただの煙幕など――』
ドゴォォォンッ!!
敵が嘲笑った直後、爆発音と共に凄まじい轟音が響き渡った。
グレネードの爆風でビルの柱がへし折れ、大量のコンクリート片と土煙が、フィールドのど真ん中に雪崩のように降り注いだのだ。
「な、に……!?」
『ターゲットを見失いました。瓦礫の粉塵による熱源センサーへのエラー干渉です』
「ふざけるな、たかがスモークをビルの解体(目潰し)に使いやがったのか!?」
敵のAIが「想定外の物理現象」に処理落ちした、わずか数秒の空白。
もうもうと立ち込める土煙の中から、一人の影が弾丸のように飛び出してきた。
「おらっ!!」
AIの処理速度を置き去りにする、常軌を逸したダッシュ。
朝日は敵の前衛の懐に一瞬で潜り込むと、背中から凶悪なポンプアクション式ショットガンを引き抜いた。
「な、なんなんだこいつの動きは!? 迎撃――」
「遅えよ」
ドガンッ!!!
至近距離からの圧倒的な暴力。
敵の前衛は反撃の糸口すら掴めないまま、光の粒子となって仮想空間から消し飛んだ。
突然の相方の消滅と、計算外のバケモノの強襲。
完全にパニックに陥った敵の後衛が、無茶苦茶にアサルトライフルを乱射しようと立ち上がる。
「さあ、道は開けたぞ雪那!!」
朝日の怒声が響く。
雪那はすでに、漆黒の大型スナイパーライフルを構えていた。
AIの「最適解」ではない。目の前で命を張って暴れ回るバケモノが作ってくれた、たった一度の最高のチャンス。
「……ええ。私のパートナーは、最高ですね」
雪那は冷たく微笑むと、一切の迷いなく引き金を引いた。
ズドンッ――!!
放たれた完璧な一撃が、敵の後衛を正確に撃ち抜く。
フィールドに『GAME SET』の電子音が鳴り響き、会場は水を打ったような静寂の後、爆発的な歓声に包まれたのだった。




