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アテナ・トリガー  作者: 案山子


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12/26

制限解除と、新たな暴力

放課後。

学園の地下に広がる広大なダイブルーム(仮想戦闘訓練施設)の第7セクター。

そこには、強制的にデュオを組まされた朝日と雪那の姿があった。


「……信じられません。やはりあなたは、前衛に立つつもりなのですか?」

雪那は、自分の身の丈ほどもある漆黒の大型スナイパーライフルを慣れた手つきで調整しながら、呆れたようにため息をついた。


「悪いかよ。俺は遠くからチマチマ撃つより、走り回る方が性に合ってるんだよ」

朝日は愛銃である旧式リボルバー『マスタング』のシリンダーを回し、カチャリと小気味良い音を立てて腰のホルスターに収めた。


雪那は冷ややかな目で朝日を見つめる。

「私の狙撃はAIの戦術予測に基づき、コンマ一秒の遅れも許されません。あなたがその旧式銃一本で前線に突っ込めば、手数が足りずに敵の火線に蜂の巣にされます。……せめて、サブウェポンとしてアサルトライフルくらいは装備しなさい」

「あー、気持ちはわかるけど無理なんだわ。うちのテナさん、旧式でオートエイム非対応だからさ。このマスタング以外じゃまともに当たんねえんだよ」


朝日は肩をすくめてドヤ顔で言い放った。

しかし、その直後。朝日の耳元のインカムから、氷のように冷たい声が響いた。


『……朝日。誰が、非対応だと?』


「……えっ?」

朝日の動きがピタリと止まる。


『私は最新鋭の戦術支援AIアテナよ。オートエイム機能が使えないわけがないでしょう』

「はああ!? お前、今まで一回もそんなこと……!」

『あなたが聞かなかっただけよ。それに、基礎のフィジカルができていない未熟者に、最初からAIの補正に頼らせるような真似、私の教育方針に反するから制限をかけていただけよ』


「なんだそのスパルタ教育!?」

朝日の抗議を無視し、アテナは淡々と告げる。


『まあ、昨日の桐谷戦で基礎はできていると判断したわ。……オートエイム機能、制限解除。そこらへんに転がっている銃でも拾って、試しに撃ってみなさい』


雪那は怪訝な顔をしながらも、訓練用に置かれていた標準的なアサルトライフルを朝日に投げ渡した。

「……言い訳は済んだようですね。では、テストを開始します」


雪那がコンソールを操作すると、広大な訓練フィールドに、赤く光るホログラムの的がランダムに10個出現した。通常なら、アサルトライフルをフルオートで乱射して数秒で破壊する初級コースだ。


「いいですか、AIのオートエイムは視線を向けてから補正が入るまで約0.2秒のラグが――」


ズガガガガガガガッッッ!!!


雪那の言葉は、最後まで紡がれなかった。

フィールドに出現した10個の的が、瞬きする間にすべて破壊していたからだ。


「……は?」

雪那は絶句し、手元のデータコンソールを二度見した。


的の中心(ヘッドショット判定)への命中率、100%。

それ以上に異常だったのは、最初の的を撃ってから最後の的を撃ち抜くまでの『時間』だった。


(……な、何なの今の……!? AIのオートエイム補正を待たずに、彼の肉体フィジカルが的を完璧に捉えていた……!?)


雪那の背筋にゾクリと悪寒が走る。

一方、アテナもまた、朝日の視覚データを処理しながら驚愕していた。


『(……私の補正が追いつくより早く、朝日の腕が銃口を的の眉間に向けている。私はただ、最後の数ミリのズレを修正しただけ……! この子、生身の反応速度でAIの処理速度を上回っているわ!)』


日々の非合理的な筋トレと、マスタングという極端に扱いの難しい銃で鍛え上げられた朝日のフィジカル。それは、AIの補助を解除した最新武器を持たせた瞬間、とんでもないバケモノじみた精度と速度を生み出していた。


「おー、すげえなこれ。吸い付くように当たるじゃん」

朝日はアサルトライフルを眺め、感心したように頷く。

しかし、数秒後には「でもやっぱ、これじゃないな」と呟き、あっさりとアサルトライフルを床に放り投げた。


「なっ……! なぜ捨てるのですか!? 今の驚異的な精度なら、プロリーグでもトップクラスのスコアが出せますよ!?」

雪那が思わず声を荒げる。


「軽すぎるんだよ。反動も手応えもない。これじゃあ『自分が撃ってる』って実感が湧かない。やっぱり俺のメインはこいつだ」

朝日は愛おしそうに腰のリボルバーを撫でる。

「ただ……そうだな。雪那の言う通り、手数が足りないってのは一理ある」


朝日は訓練用の武器ラックを見渡し、一つの銃を手に取った。

それは、黒く鈍い光を放つ、ポンプアクション式の『ショットガン』だった。


「中距離はこいつ。そして、相手の懐に潜り込んだギリギリの接近戦では、このショットガンをぶっ放す。……これなら、お前のスナイパーの邪魔にはならないだろ?」


凶悪なショットガンを肩に担ぎ、ニヤリと笑う朝日。

その時代遅れで泥臭く、しかし圧倒的な暴力の気配を前に、冷静沈着な天才スナイパー・神崎雪那は、ただゴクリと息を呑むことしかできなかった。

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