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最強(予定)の異世界転生~想定外から始まる俺の逆転記~  作者: 月城リク


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5/11

5話

その年は、アーデン家にとって特別な一年だった。


姉のノエラが十歳。俺、リードが七歳。


ノエラは魔法学校を卒業し鑑定の儀を受ける。そして俺は入れ替わるように魔法学校へ入学する。


姉が子どもの世界から巣立ち、弟がその世界へ足を踏み入れる。家族にとって節目の年だ。


春先から家の中はどこか浮き立っていた。


とりわけノエラだ。


「もうすぐ鑑定の儀なんだ……!」


毎晩のように姉はそわそわしていた。無理もない。


鑑定の儀はノエラがずっと待ち望んできた夢への第一歩だ。


属性が決まれば専門の魔法学院へ。それを終えればいよいよ冒険者への道が開ける。


「あたし絶対すっごい数値出してみせるんだから」


鼻息荒く姉は宣言する。その自信がどこから来るのかは分からないが、まあノエラらしい。


俺はそんな姉を微笑ましく眺めていた。なにせ、こちらには余裕がある。


……まあ、俺の番が来たら姉さんなんて目じゃないけどな。


なにせ、神様にもらった最強の魔法。鑑定の儀でどんな結果が出るか。今から楽しみで仕方がない。


けれど、それは三年先の話。今は姉の晴れ舞台をちゃんと見届けてやろう。

  

鑑定の儀の日がやってきた。


儀式は村から少し離れた町の神殿で行われる。


近隣の村や町からその年に魔法学校を卒業する子どもたちが続々と集まってきていた。


鑑定の儀は卒業と同時にいっせいに受ける。だからもう十歳になっている子もいれば卒業の時点ではまだ誕生日を迎えていない子もいる。


要は、その年に卒業する年代がまとめて受ける、というわけだ。


しかも面白いのがここからだ


この鑑定の儀で属性が決まると——その日のうちに進路先まで決まってしまうのである。


どの属性の魔法学院へ進むか。鑑定の結果が出たまさにその場で振り分けられる。


……前世の感覚だとちょっと考えられない。


日本だったら進路なんて何ヶ月もかけて面談だの願書だの試験だのを繰り返してようやく決まったものだ。


それがこっちではたった一日。水晶に手をかざして、はい、あなたはこの属性の学院ね、で終わり。


なんという、スピード感。良くも悪くも運命が一瞬で決まる。


みんな緊張と期待が入り混じった顔をしているのも無理はない。その親たちも我が子の晴れ姿を見ようと付き添っている。


俺たち家族も馬車に揺られて町までやってきた。


父のボルドはよそ行きの服を着てなんだか落ち着かない様子。


母のフィーナは何度もノエラの髪を直しては目を潤ませている。


「ノエラ……立派になって……」


「まだ何もしてないよお母さん」

 

姉は照れたように笑った。


神殿の中央には大きな水晶玉のような魔道具が鎮座していた。あれが鑑定に使われるものらしい。


子どもが一人ずつあの水晶に手をかざす。すると、その子の属性、魔力量、適性が、光となって浮かび上がる——という仕組みのようだ。


待っているあいだ、俺は付き添いの大人たちの話に耳を澄ませていた。おかげで鑑定で分かる「魔力量」と「適性」がどういうものかだいぶ呑み込めてきた。


まず魔力量。これはその者が内に秘めた魔力の総量だ。下からこうなっている。


F、ほとんど魔法が使えない、最底辺。

E、ごく一般的な人々。

D、見習い魔法使い。

C、一人前。

B、エリート。

A、国の主力になれる。

S、英雄級。

SS、国宝級。

SSS、もはや、伝説級。


ちなみに魔力量は生まれ持った量から生涯かけて鍛えても、せいぜい二ランク上がれば御の字だという。


三ランク上げた者など、歴史上ひとりもいない。だから最初のランクが高いほど将来が約束される。

 

そして、もうひとつが適性。これは魔法そのものの才能を示す。


F、魔力制御が苦手。

E、平均以下。

D、一般的。

C、やや優秀。

B、優秀。

A、天才。

S、数十年に一人。

SS、国宝級。

SSS、歴史に名を残す。

 

ただし、適性のほうは魔力量と違って、生涯ほとんど変わらない。生まれ持ったまま。


そして——面白いことに、鑑定ではDより下は出ないという。


FやEは表のうえでは存在するが、実際にそう判定された者は聞いたことがないというのだ。


誰であろうと最低でもDの才能は保証されているというわけだ。

 

ちなみに——魔力量にせよ、適性にせよ、Sランク以上ともなると、もはや別格の世界だ。


大人たちの話によれば、S以上の魔力量、S以上の適性を同時に持つ者は、ひとつの王国に五人いるかいないか。国によってはたったひとり。


時期によってはひとりもいない、ということさえあるらしい。


国を背負って立つ英雄。


その名を大陸中が知るようなひと握りの存在。それがSから上の領域なのだ。


なるほどな、と思った。


……まあ、俺には関係ない話だが。なにせ、神様にもらった最強の魔法。


きっと、この表の一番上のそのまた上。表に載っていないようなとんでもない結果が出るに決まっている。

 

順番が進んでいく。

 

ひとりまたひとりと子どもたちが水晶に手をかざす。


「火属性! 魔力量E! 適性D!」


「水属性。魔力量D!適性C!」

 

神官が結果を読み上げるたびに子どもや親から歓声や安堵の声が上がる。


中にはしょんぼりする子もいる。思ったような属性じゃなかったのか、あるいは、思ったほど数値が伸びなかったのだろう。

 

聞いていると、どうやらほとんどの子は魔力量がEからD、適性もDかCあたりに収まるらしい。


それがごく一般的な結果ということのようだ。


属性に優劣はない——とは言われるが、それでも人気の属性、地味な属性、高いランク、低いランク、というのはどうしてもある。


子どもながらにみんな一喜一憂していた。

 

ちなみに、属性にも出やすさの差があるらしい。

 

火、水、風、土。この四つはいわば定番だ。


多くの子がこのどれかになる。


鑑定を見ていても、読み上げられるのは、火・水・風・土…と、たいていこの四つのどれかだ。


問題は——光と闇だ。


この二つはめったに出ないらしい。順番を見ていても、火水風土ばかりで光と闇はひとりも出ていない。


聞けば、光や闇が出るのは何十人かにひとり。年によってはその町の鑑定でひとりも出ないことすらあるという。


しかも、扱いが難しく強力な属性だ。


だから、もし光か闇が出ればそれだけでちょっとした騒ぎになる。


そしてもうひとつ、無属性というものがある。


ただ、これはちょっと特殊だ。


なにせ、基本的には出ない。光や闇が「めったに出ない」どころの話ではなく、


もう、ほとんど誰にも出ない。魔力量、魔法適性のF,Eと同じ格付けだ。


まあ——うちの姉はどうせ火か水あたりだろう。


ノエラは「すっごい数値を出す」と意気込んでいたが、属性ばかりは生まれ持ったもの。


こんなに珍しい属性がそうそう——


そして。


「次。アーデン・ノエラ」

 

姉の番だ。

 

ノエラはごくりと唾を飲み込んで水晶の前に進み出た。


さすがの姉も緊張しているらしい。小さく深呼吸をして、それからそっと、水晶に手をかざす。

 

次の瞬間。

 

水晶が——黒く光った。

 

いや、黒い光という言い方はおかしいかもしれない。


けれどそうとしか言いようのない、深く、濃い、夜のような色の光が水晶からぶわりと立ちのぼった。


「これは……」


神官が目を見開く。そして、声を張り上げた。


「闇属性! 魔力量、Bランク! 適性——Aランク!」

 

わあっ、と。


神殿がどよめいた。

 

闇属性だ。

 

あれだけめったに出ないと言われた闇属性。


よりにもよって、それがうちの姉から出た。


さっきまで「どうせ火か水だろう」なんてのんきに構えていた自分が恥ずかしい。

 

強力で奥が深い。


扱いこなせる者は少ないが、極めれば戦場で恐れられるほどの力を発揮する——そんな玄人好みのかっこいい属性。


それだけでも神殿がどよめくには十分だった。


——けれど。

 

本当にどよめくべきは属性じゃなかった。


しかも、だ。


魔力量、Bランク。「エリート」の領域だ。卒業を迎える子どもたちの大半は魔力量がEからD、よくてCに収まる。


Bともなればその学年にひとりいるかいないか。


十歳にしてすでに同年代の頭ひとつ抜けている。


しかも魔力量は最初が高いほど将来が約束される。Bスタートのノエラならうまく鍛えればAランクやSランク——「国の主力」や「英雄級」さえ夢ではない。


そして何より——適性、Aランク。


これがとんでもない。


適性Aは、「天才」と評される領域だ。適性はほとんどの者がDかC。


Bが出れば「優秀だ」と褒めそやされる。


その上のA。生涯変わらぬ才能が天才。これは何年かに一度出るか出ないかというほどの希少さだという。


そして、魔力量Bと、適性Aが、同じひとりに揃う。


——こんな結果は数万人にひとり出るか出ないか。


長年、鑑定の儀を執り行ってきたであろう老神官ですら、感慨深げに何度も頷いていた。


そうそうお目にかかれない逸材。


それが今、目の前にいるというように。

 

うちの姉が。


あの羽でこちょこちょしてきた姉が。


数万人にひとりの逸材。


「やった……やったぁ! 闇属性だって!」

 

ノエラは両手を突き上げて飛び跳ねた。満面の笑みだ。


「闇属性なんてかっこいいじゃない! ねえ見た? 今の見た?」

 

……いや、姉さん。

 

喜ぶところ、そこじゃない。いや、そこも嬉しいんだろうけど。


もっとすごいところがあるだろう。魔力量Bと、適性A。


属性の珍しさより、よっぽどとんでもないんだぞそれは。

 

どうやらノエラは念願の闇属性が出た嬉しさで頭がいっぱいで、自分の魔力量と適性がどれほど破格なのかまだ実感できていないらしい。

 

だが——両親は違った。

 

神官の読み上げた「Bランク」「Aランク」。その意味をちゃんと分かっている。


「ぼ……Bと、A……?」

 

父のボルドが呆然とつぶやいた。


いかつい顔からすうっと表情が抜け落ちている。


「Bと、Aだと……? うちの、ノエラが……?」


「あなた、あれ……あの結果、間違いじゃ……」

 

母のフィーナも口元を押さえて震えている。


我が子の結果がにわかには信じられないというように。

 

無理もない。BとAが、どれほど途方もないことか。村に暮らす二人とてそれくらいは知っている。


ましてや、数万人にひとりの逸材だ。自分の娘がまさか、そんな大それた結果を出すなんて夢にも思っていなかったのだろう。

 

やがてじわじわと。

 

その意味が二人の中で実感に変わっていく。


「……ノエラ」


父が震える声で娘の名を呼んだ。


そして——大きな体で、エラをぎゅうっと抱きしめた。


「すごいぞノエラ……! お前はすごい子だ……! 父さんは鼻が高いぞ……!」


「ちょ、お父さん、痛い、痛いってば!」


「ノエラ……! よく、よくやったわね……!」

 

母も涙をぼろぼろこぼしながら二人に抱きついた。


アーデン家の三人がひとかたまりになって喜びに沸いている。


「よくやったノエラ。立派だ」


「さすがあたしの娘ね」

 

家族が姉の門出を祝福する。

 

俺も心から嬉しかった。


姉さんおめでとう。本当によかった。


あんなに楽しみにしていた鑑定の儀で最高の結果が出たんだ。


これ以上の門出はない。

 

……それに。

 

闇属性で魔力量も適性も上々の姉があんなに喜んでいるんだ。

 

なら、最強の魔法を持つ俺が鑑定を受けたらいったいどうなってしまうんだろう。


神殿がひっくり返るかもしれない。そう考えると俺までわくわくしてきた。

 

まあ——それは三年後のお楽しみだ。

  

鑑定の儀を終えたノエラは闇属性専門の魔法学院への進路が決まった。


学院は町にある。だから姉は家を出て学院の寮で暮らすことになった。


一年間、闇魔法をみっちり磨くために。

 

家を出る日。

 

ノエラは玄関先で俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「リード。あたし行ってくるね」


「……うん」


「あんたも来年から魔法学校でしょ? しっかりね。お姉ちゃん応援してるから」

 

そう言って姉はにっと笑った。いつもの太陽みたいな笑顔で。


「それでさ約束。あんたが大きくなったら一緒に冒険するんだよ。あたしそれまでにすっごい冒険者になっておくから」


「……ああ。約束な」

 

姉が行ってしまう。

 

毎日振り回されて、羽でこちょこちょされて、虫を見せられて。


正直、うるさい姉だと思っていた。思っていたのに——いざいなくなるとなると、胸の奥がぎゅっとなった。

 

寂しい。

 

そうか。俺は姉さんのことが好きだったんだな。

 

馬車に乗り込んだノエラが見えなくなるまで手を振っていた。


俺もずっと手を振り返した。

 

……いってらっしゃい姉さん。

 

立派な冒険者になってくれよ。

  

そして、それからひと月後。


今度は俺の番が来た。

 

姉が学校を卒業し、入れ替わるようにして七歳になった俺、アーデン・リードは魔法学校に入学した。

 

この間まで姉が通っていたその学校に。


なんだか不思議な気分だ。


姉のいなくなった家は少しだけ静かになったけれどその分、俺が新しい一歩を踏み出す番だった。

 

村の子どもたちと一緒に毎日学校に通う。


読み書きや計算に加えて、いよいよ魔法の授業が始まる。火、水、風、土——無属性を除いた六つの属性の初級魔法をひと通り習うのだ。


魔法そのものはこれが初めてというわけじゃない。


村の子たちは入学前から家で見様見真似に火を灯したり水を出したりして遊んでいた。


俺もその輪を何度も眺めてきた。


けれど——きちんと先生に基礎から教わるのはこれが初めてだ。


ついに、この時が来た。


神様にもらった最強の魔法。その片鱗をようやく味わえるかもしれない。


俺は内心、誰よりもわくわくしていた。

 

最初の授業は火属性だった。


「みなさんの中にはもう、家で魔法を使って遊んだことのある子もいるでしょう」

 

先生が教室を見渡しながら言う。何人かの子が得意げにうなずいた。


「でもここからはちゃんと基礎を学びます。なんとなくではなくきちんと。まずは詠唱。魔法には必ず『詠唱』が要ります。心を込めて言葉を唱える。そうして初めて魔力はかたちになるのです」

 

先生がゆっくりと説明する。


「詠唱なしで魔法を使うことはできません。この世界のどんなに偉い魔法使いでも無詠唱で魔法を使えた者はひとりもいないと言われています。だから言葉をおろそかにしてはいけませんよ」


なるほど。村の子たちが火を出すとき、必ず何か口にしていたのは、詠唱だったのか。


言葉が引き金になるわけだ。


「ではやってみましょう。手のひらに意識を集中して。魔力を指先に込めるイメージ。そうして——『イグニス』」

 

先生がぼそりと唱える。その手のひらに、ぽっとあたたかな炎が灯った。


「さあ、みなさんも。『イグニス』ですよ」


「「イグニスっ!」」

 

子どもたちがいっせいに手のひらを差し出す。

 

ぽっ。ぽっ。

 

あちこちで小さな火が灯り始めた。豆粒みたいな頼りない火。


それでも子どもたちは大喜びだ。家で遊んでいた子は慣れた様子で。


初めての子も見様見真似でなんとか。


「できた! 火ついた!」

 

よし。次は俺の番だ。

 

俺は手のひらに意識を集中した。魔力を込めるイメージ。火のひとつやふたつ楽勝のはず


「イグニスっ!」

 

……あれ。


ぽ……。


……つかない。


いや、待て。落ち着け。集中だ。もっと、ぐっと、魔力を込めて——


「イ、イグニスっ!」


ぽ……ぽ……。


ようやく指先にちりっ、と。本当にちいさな火花のようなものが散った。


……出た。出るには出た。


けれど。


まわりの子と比べると。


……明らかにしょぼい。


みんなが豆粒くらいの火を灯しているのに俺のは火花がちりっと散っただけ。


火と呼ぶのもおこがましいレベル。


……ん?


おかしいな。


最強の魔法をもらったはずなのに。なんでこんなにちっぽけなんだ。


「リードくん初めてだものね。最初はみんなこんなものよ。大丈夫」


先生が優しくフォローしてくれる。


ああそうか。そうだよな。初めてだもんな。うん。きっとそういうことだ。


みんな最初はこんなものなんだ。俺だって慣れればすぐにぼうぼう燃やせるようになるさ。


……そう、だよな?


ほんの少しだけ。


ほんの少しだけ引っかかるものを感じながら。


それでも俺はすぐにその違和感を頭から追い払った。


初日だ。きっとただの初日だからだ。

 

そう自分に言い聞かせて、俺はもう一度手のひらに意識を集中するのだった。

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