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最強(予定)の異世界転生~想定外から始まる俺の逆転記~  作者: 月城リク


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10/12

10話

いじめの一件が片付いてから、俺の学校生活は少しだけ楽になった。

 

ガレオも取り巻きたちももう手を出してはこない。


あれだけのことがあったのだ。


さすがにこりたのだろう。


あからさまな嫌がらせはぴたりとやんだ。


とはいえ、クラスにすんなり溶け込めたかというとそうでもない。


やっぱり魔法の出ない俺はどこか浮いた存在のままだった。


話しかけてくる者はほとんどいない。


休み時間はひとりで本を読んで過ごすことが多かった。


それでも毎日が地獄だったあの頃に比べればずっとましだ。


父が守ってくれたおかげで俺はまた前を向いて学校に通えるようになった。


それに座学だけは相変わらず誰にも負けなかった。


読み書きも計算も、歴史も、すらすらと頭に入る。


テストではいつも一番。


先生も「魔法さえ使えれば」とため息まじりに言うほどだった。


魔法はだめでも勉強はできる。


その事実だけがかろうじて俺の小さな誇りだった。


そして相変わらず魔法は出なかった。


火も水も風も土も。光も闇も。


何ひとつまともに使えないまま。


授業で魔法の実技があるたびに俺はひとり火花をちりちりと散らすばかり。


クラスメイトたちはもうそれを笑いもしなかった。


ただ見て見ぬふりをして通り過ぎていく。


慣れてしまったという感じだった。

 

それはそれで少し寂しくもあったけれど。

 

姉のノエラは帰ってくるたびに裏山の草地で特訓に付き合ってくれた。


「いいリード。今日こそ火つけるよ。お腹の底からぐーっと魔力を集めて——」


「イグニス……っ」

 

ぽっと。ちりっと。


やっぱり火花が散るだけ。


「うーん……。でも今のはちょっと火花が大きかった気がする!ね絶対前よりよくなってるって!」

 

ノエラはいつだってそう言って励ましてくれた。


結果はちっとも変わらないのに。


それでも姉と過ごす草地の時間は俺にとってかけがえのないものだった。

 

それでも俺は焦らなかった。


鑑定の儀さえ受ければすべてが分かる。


神様にもらった最強の魔法。


その本当の力がきっと明らかになる。


その日まで待てばいい。俺はそう信じて疑わなかった。


学校から帰ればあいかわらずあたたかい日々が待っていた。

 

父のボルドとは休みの日によく畑に出た。


汗を流したあとに二人で食べる母の握ってくれた塩むすびは格別だった。


父は口数こそ少ないがふとした時にぼそりと優しいことを言う。


「リード。焦ることはねえ。お前はお前の速さで進めばいい」

 

畑の畝を見つめながらそんなふうに。


あのいじめの一件以来俺と父のあいだには前よりもずっと太い絆が通っていた。

 

母のフィーナは相変わらずよく笑いよく歌った。


魔法の出ない俺を一度だって急かしたりはしなかった。


落ち込んで帰った日には決まってあたたかいスープを出してくれた。


「リードはリードのままでいいの。母さんはねあなたが毎日ちゃんと学校に行って頑張ってること、それだけでもう十分誇らしいんだから」

 

その言葉に何度救われたか分からない。

 

魔法は出ない。学校でも浮いている。それでもこの家に帰れば俺をまるごと受け止めてくれる家族がいる。


それだけで俺の毎日はちゃんと幸せだった。

 

前世では味わえなかった、いや、若かった俺が気づけずにいたあたたかさ。


それを今噛みしめるように味わっていた。


月日は淀みなく流れていった。

 

俺が八歳になり九歳になる頃。

 

姉のノエラに大きな節目が訪れた。

 

魔法学院の卒業だ。

 

十歳で鑑定を受け闇属性の学院に入って一年。


ノエラはみっちりと闇魔法を磨き上げ見事に学院を卒業した。


そして十二歳になる年。


ついに夢だった冒険者の道へと足を踏み出した。

 

冒険者になると決まった日ノエラはそれはもうはしゃいでいた。


「ついに冒険者だよリード!あたし世界中を回るんだ。すっごい冒険者になっていつかあんたのことも連れていくからね!」

 

目をきらきらと輝かせて。


子どもの頃から変わらない太陽みたいな笑顔で。

 

その日からノエラは本格的に家を離れた。


冒険者として各地を飛び回るようになったのだ。


帰ってくるのは前にも増してまれになった。


三か月に一度顔を見せてくれればいいほうだった。

 

寂しくなかったと言えば嘘になる。


家からあの太陽みたいな笑い声が消えるのはやっぱりこたえた。

 

けれど姉が夢に向かって駆け出していく姿はまぶしかった。


だから俺は笑って送り出した。


いってらっしゃい姉さんと。


そしてノエラの快進撃が始まる。

 

冒険者になったノエラの噂はぽつぽつと村にも届くようになった。

 

曰く、闇魔法を巧みに操る若き冒険者。


曰く、年端もいかぬ少女でありながら並みいる魔物を次々と打ち倒していく。


その活躍はめざましいものだった。

 

とりわけ驚かされたのが——魔力量の伸びだ。


冒険者になってたった二年。


ノエラの魔力量はBランクからAランクへと跳ね上がっていた。


これがどれほど異常なことか。

 

魔力量というのは本来生涯かけてようやく一つか二つ上がれば御の字というものだ。


それをノエラは冒険者になってわずか二年で一気に一ランク。


Aランク——「国の主力」とまで称される領域に十三やそこらの歳で到達してしまったのだ。


Aランクの魔力量にもとより持っていた天才の適性。

 

その二つを併せ持つノエラの名はいつしかルミナ王国の中でも知られるようになっていた。


「アーデン・ノエラ」。期待の若手冒険者として。

 

うちのあの姉が。羽でこちょこちょしてきたあの姉が。

 

……正直、誇らしかった。心の底から。

 

たまに帰ってくるとノエラは旅先での武勇伝を身振り手振りで語ってくれた。


どこそこで魔物の群れを退けただのどんな珍しい土地を見ただの。


その話を聞くのが俺は何より好きだった。

 

その一方で、俺は相変わらず火ひとつ出せないままということに——ほんの少しだけ複雑な気持ちにもなったのだった。

 

でも、ノエラは、いつも言った。


「リードは鑑定の儀さえ受ければ絶対すごいんだから!あたしにはわかるの。だから自信持ちなさい!」

 

根拠なんてどこにもない。


それでも姉にそう言ってもらえると不思議と本当にそんな気がしてくるのだった。


そうして季節は巡り続け。

 

ついにその時が近づいてきた。

 

俺アーデン・リードも——十歳になったのだ。

 

十歳。それはすなわち。

 

鑑定の儀を受ける歳。

 

魔法学校の卒業と同時にあの神殿で水晶に手をかざす。


そして自分の属性と魔力量と適性が明らかになる。


三年前姉のノエラが闇属性とAランクの適性を示し神殿を沸かせたあの儀式。

 

ついに俺の番が回ってきた。

 

長かった。本当に長かった。

 

魔法が使えず馬鹿にされいじめられそれでもただこの日を信じて待ち続けてきた。


神様にもらった最強の魔法。


勇者よりも魔王よりも強いという規格外の力。


それがいよいよ白日のもとにさらされる。

 

きっと神殿はひっくり返るだろう。


火ひとつ出せない出来損ないが実はとんでもない力を秘めていた。


誰もが腰を抜かす。


そして、俺を馬鹿にしてきた連中は揃って手のひらを返すのだ。

 

その光景を想像すると胸が高鳴った。

 

鑑定の儀はもう目の前。

 

 *


鑑定の儀の前の夜。


その日はノエラもわざわざ冒険の手を止めて帰ってきてくれた。


弟の晴れ舞台を見届けるために。

 

食卓には母の作ったごちそうが並んだ。


久しぶりに家族四人がそろった。


「いよいよ明日だなリード」

 

父がいつになく嬉しそうに言う。


「緊張してる?」

 

ノエラがにやにやと顔を覗き込んでくる。


「……してないよ」


「うそだー。耳赤くなってる」


「なってない!」

 

けらけらと姉が笑う。母もくすくすと肩を揺らす。


「どんな結果でもね」

 

ふと母が優しく言った。


「リードはリード。あたしたちの大事な家族。それは何があっても変わらないからね」


「……うん」

 

その言葉がじんわりと胸にしみた。

 

どんな結果でもか。

 

……いや母さん。心配いらないよ。


だって俺はきっととんでもない結果を出すんだから。


明日みんなをあっと言わせてやる。


そうしてこれまで支えてくれたこの家族に恩を返すんだ。

 

その夜俺はなかなか寝つけなかった。

 

わくわくとほんの少しの不安と。


それらが入り混じって胸の奥でことことと音を立てていた。

 

いよいよ明日——俺の本当の力が明らかになる。

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