第9話
窓の外を眺めていると、電車はどんどん田舎に向かって走っているような錯覚に陥る。
堺って確かすごく大きな街で、難波よりもちょっと小さいくらいのはず。
堺東には映画館だってあるし、大きな商店街もある。お父さんとお母さんと、てっちりを食べに行ったのは確か堺東だった。
河内長野なんて比べものにならないくらいの都会。
木や草がわしわし生えていたり、畑や田んぼなんてない。
それに少し気がかりなのは、この電車が自分の想像している方角とは違うほうへ進んでいるということ。堺がどこにあるのか今ひとつ地理はよくわからないけど、河内長野より難波方面にあったような気がする。
だけど、トガミキタはプラスチックの縦長の札の、一番下に書かれてあった。
一番上には難波があった。下ということは、難波とは真逆方向。私は直感した。つまり一番下のトガミキタは、難波とは反対の方向ということになる。
高野山はどこにいったのか、という疑問は残ったが、でもそこは追究してはいけない。
社会というものは、つきつめれば曖昧にできているものだということを私はよく知っている。ちゃんとマニュアル化しているようで、核の部分はどうしようもなく曖昧。
私と眞心は高野山方面と書かれたプラットフォームから、そこに止まっていた普通電車というのに乗り込んだ。
そうやって切符を買ったときの奇跡の瞬間を、もう一度順次隅々まで思い出してみた。そうだ。間違いはない。どう考えても、こっちで合っているはず。
あとは今、自分たちがどこにいるのか、次はなんという駅なのか、ちゃんと起きて見ていないといけないということだけだ。
お母さんと電車に乗っていた時は、どんなに最後まで起きていようと思ってもすぐに眠くなってしまったけど、今日は頼れる人はいない。私がしっかりしなくては。
私は「ぶん」と言って背筋を伸ばし、目を凝らした。うるさい眞心を安心させるために「着いたら起こしてあげるから、寝ときなさい」と、お母さんみたいな口調で言ってみた。
眞心は床に届かない足をぶらぶらさせて、お人形のみこちゃんと舞踏会の準備についておしゃべりをしていた。
でもお許しが出ると、こらえきれずに頭をかくっと落として眠ってしまった。眞心は急に寝るからいつもびっくりする。今まで大きな声で歌をうたっていたと思ったら一秒後には寝息をたてている。
時々、人間の成分で出来ているのかなと心配になることがある。
眞心の真っ黒に日焼けした首筋には、小さな汗の粒がいくつも浮き上がってしっかりとそこにとどまっていた。
眞心からはお日さまの匂いがする。みんな、この匂いが好きなのかもしれない。




