第10話
電車の中には、もうほとんど乗客は残っていなかった。
山の中の小さな駅に止まった時、最後の一人だったおばあさんがまるむしみたいに背中を丸めて降りていった。
ホームには猫がたくさんいて、おばあさんが降りてくるのを待っている。おばあさんは一匹一匹の名前を呼んで、着ている割烹着のポケットに猫を入れる。一匹ずつ。
割烹着のポケットはいくら猫が入っても、ちっとも膨らまなかった。
不思議なこともあるもんだと思った。でもこんな不可解なことも、遠くにくれば日常にあるものなのかも知れない。私の知らないことは、まだまだ世の中にはたくさんある。
おばあさんや猫たちに迷惑をかけてはいけないので、眞心を起こすのはやめた。あとで話したら「なんでおこしてくれへんかったん」って怒るに違いないけど。
でもこれが日常ならば、やっぱりツチノコも存在するかも知れない。どこを探してもいないから探すのを諦めてしまったんだけど。
私たちしか乗っていない電車は、ようやく乗り換えの駅に到着した。確かに少し大きな駅。
「この電車はここまでです」
アナウンスが何度も流れる。眞心を連れて慌てて飛び降りた。
ええと、乗り換えの電車は。
ちょうど目の前に、うぐいす色のボディをした電車が止まっていて、今にも発車しそうにそわそわしている。駅に響くアナウンスの声はひどく割れていて、何を言っているのかわからない。
まだ半分夢の中で首がぐらぐらしている眞心の手をしっかり握って、走った。
電車の昇降口には三段くらいの階段があった。眞心が「かいだん、かいだん」と大喜びしてもたもたしているのを、無理矢理引っ張りあげる。乗り込んだ途端、ところどころ塗装が剥げて錆びている、おんぼろな扉がガタガタと音とたてて閉まった。
よかった、間に合った。
ふと駅の時計を見ると、四時をまわっている。お父さんと約束をしたのは、三時。約束の時間はとっくに過ぎている。
お父さんはまだ待っていてくれてるかな。




